16.不運って連続してやってくるよな
慌ただしい気配が扉の外で動いている。
外の騒がしさにより紅月は目を覚ました。
「ううん、うるさいな……」
布団を深くかぶり直し二度寝の体制に入ったタダヒトを夢の世界から引き戻すようにドンドンと扉をたたく激しい音とともに扉の外側から声が響いた。
「タダヒトさん、いらっしゃいますか!いらっしゃいましたらお返事ください!」
「王女様か……」
眠い目をこすりつつ無理やりベッドから起き上がるとタダヒトは扉に向かい開ける。
「タダヒトさん!よかった!無事だったんですね!」
「無事……?」
寝起きで働かない頭を徐々に動かしつつ、王女の言葉を反復する。
「朝まで起こさないお約束を守れず申し訳ございません。ですが緊急事態が起こってしまいまして、やむなく無事のご確認のため声をかけさせていただきました。ご無事で何よりです……!」
「緊急事態……」
「はい、実は陛下が……父が……殺されてしまったのです……。父だけでなく、昨夜パーティーに参加していた王族、貴族を含め勇者たちも何人かなくなっていることが確認されております。現在は、詳しい状況確認のため皆が動いております」
少し働き始めた頭で内容をかみ砕いていくと玉座のまでの出来事に気づき、広まったのだろうと理解した。
あー、玉座の間のことに気が付いたのか。
ああ、くそねみぃな……。
外は暗いままだし、あれからさほど時間はたってねぇようだな。
ダメだ、睡眠時間が足りなくて頭が働かねぇ……。
ぼーとしたまま、王女の顔をなんとなしに見ているとその肩は震え、拳を強く握っている。
タダヒトは王女はあんな父親でも見捨てられなかったことを思い出す。
「泣きたいときは素直に泣けばいい」
「うぅ……!」
王女はタダヒトに腰あたりに抱き着くと顔を埋めて声を押し殺して泣いた。
泣き止んだ王女を客室のソファーに座らせると部屋に置いてあったポットでお茶をいれ、自分の分を飲みつつ王女の分は王女の前のテーブルに置く。
「落ち着いたか?お茶入れたから飲め。それだけ泣いたんだから喉が渇いただろ」
「……ありがとうございます。出会ってからずっと情けない姿ばかり見せていますね」
涙の跡が残る顔に無理やり笑みを浮かべる。
「気にしなくていい。それよりこれからどうするつもりなんだ?」
「そうですね、今回の件で私以外の王族は皆亡くなってしまいました。それに追従していた貴族の一派も大半が今回のパーティーに参加しておりましたのでそちらにも大きな混乱が起きています。こんな時だからこそ私は王族としての務めを果たさなくてはなりません」
覚悟を決めたようにはっきりと言葉を紡ぐ。
その瞳には強い意志が宿っていた。
タダヒトは目を細めつつ、その様子を観察しこの様子なら大丈夫だなと判断した。
そんなとき扉をノックする音が聞こえ、ディナが部屋の中に入ってきた。
「失礼します。状況の確認が取れましたのでご報告いたします」
王女の前に膝まずくとそう口を開いた。
「ご苦労様、ディナ。お願いするわ」
「はい、調査の結果今回の件は事故である可能性が高いとの見解になりました」
「事故?!そんなわけがないでしょう!玉座の間にいた人間が全員死んだのよ!どういうことか説明なさい!」
「はい、まずは王族の席の上にあったシャンデリアが落下したことが始まりとなります。シャンデリアの落下によりその場にいた王族は全員死亡。そのことにより場は一気に混乱状態となります。また、全体的に経年劣化が進んでいたのでしょうか、玉座の間のすべての照明が落下しその下敷きになって大多数がなくなっております。そして、そんな状況に錯乱状態となった人々が逃げるために出口に集中した結果、我先にと逃げる者たちは倒れた人々を踏みつけて、踏みつけた者たちはそれにより足を取られ倒れ、さらに後に来た者たちがその者たちを踏みつけ進んだことにより踏みつけられた者たちは圧迫死しておりました。また、それを乗り越えたものが出口に達したとき扉を警護していた兵たちがその様子に恐怖を覚え反射的に切り伏せてしまったことによりさらに場は混乱。出口に行けば今度は兵に殺されると思った人々がまた会場に戻ろうと踵をかえすと後ろにいた者たちに飲み込まれ押しつぶされる。そんなものたちに殺されると思った兵たちは迫り来る者たちを次々に切り殺す。そんなことが続き、人々が出口に来なくなったころ我に返った兵たちはそんな状況に耐えられず、自死したものと思われます。また、会場内にわずかに残っていた人々もそんな状況を見てショック死したり、シャンデリアが落下したことにより引火し、まわった火の手から逃れることができずに焼死、その場にいた者たちがすべて死亡したというのが鑑識者たちの見解です」
あまりにもな結果に王女は力なくソファーに身体を沈める。
「そんな……そんなことが起こり得るというの……?」
「我々もそんなことがあるわけがないと何度も検証を行ったのですがこの可能性が一番高いとの結果になりました」
「ありえないわ……」
「信じがたい結果ですが、これが事実です。ですがこれは好機です!今回、死亡した者たちは自分たちのことしか考えていない王族主義派の者たちでした。これを機に革命を起こすべきです!」
今こそ革命の時です、ご決断を!とディナは王女に迫った。
決断を迫られた王女は目を瞑り、深く息を吐き出す。
この短い期間の中であまりにも多くのことが起こりそれを消化する間もなく次の行動の決断を下さなければならない。
まだ幼い王女には酷な現実だった。
だがこれは王族として生まれた以上向き合わなくてはならない現実だ。
どんな時でもどんな状況でも民を束ね導かなければならない。
どう考えても不可解な今回の事故。
不穏分子の存在は否めないが今はそちらに意識を割くことはできない。
決めていた答えを周知するために王女はディナに命令を下す。
「ディナ、それぞれの組織のトップたちの中でいま招集できる者たちをすべて会議室に集めてください」
「はい!すぐに招集いたします!」
王女のその言葉にぱっと上げた顔には喜色が滲んでいた。
立ち上がり王女に向かい一礼したディナは王女の命令を遂行すべく足早に部屋を後にした。
そんなディナを見送った王女はタダヒトに向き直り頭を下げる。
「タダヒトさん、図々しいことは重々承知しております。ですが、どうか私が一人でも立てるようになるまで傍で私を支えてくれませんか?」
王女の強い意志の篭った眼をまっすぐと見つめ返し、タダヒトはにっと口角を上げる。
「いいぜ。力を貸してやる。立派な王様になれよ」
「はい!」
そうなってもらわないと困る。
この国の存命は十中八九この王女様にかかっているのだから。
ありがとうございました。




