14.勇者として召喚されたとある一人の独白
豪華絢爛な会場には様々な料理が並び、着飾った貴族たちであふれていた。
そこかしこから談笑する声や優雅な音楽が流れ平和な時間が流れている。
この様子からはとてもこの世界が滅亡しそうな雰囲気を感じることはできなかった。
俺はこの世界を救うために召喚された勇者の一人らしい(・・・)。
らしいというのは俺には全くその自覚がないからだ。
あれは本当に突然だった。
俺はごく普通のどこにでもいるサラリーマンだった。
あの日もいつもと変わらず満員電車に揺られ死んだ目で出社していた。
駅から会社までの道のりを歩いていたはずなのにいつの間にかそこ(・・)にいた。
そこからの展開は早くうさぎの着ぐるみと女の子が現れて人が殺されてそして何かを説明されていつの間にか勇者になっていた。
流れに流されるがまま考える間もなく勇者としてこの国にいた。
俺と同じくこの国に勇者として召喚されたものは多かったがここに来る前にいたやつらの全員がここにいるわけではないようだった。
俺がぽけーとしている間に玉座に座っていた王様みたいな人が俺たちに声をかけてきた。
『おお、勇者たちよ!よくぞ参られた!どうかこの国を救ってくれまいか』
肥え太った体に趣味の悪い衣装とごてごての装飾品を身に着けたその男は芝居がかった動きで俺たちを出迎えた。
そんな様子を見て俺はやっと頭が追い付いてきた。
これは今巷で流行りの転生ものではないかと。
そしてこれは俺の時代が来たのではないかと心が弾んだ。
王様はテンプレ通りこの国は今滅びの危機に瀕しているからこの国を救ってくれと言ってきた。
ここでの他の人たちの反応は俺と同じように傍観するものと反発するものに分かれた。
反発した人たちは王様の顰蹙を買い、衛兵によってどこかへと連れていかれていた。
そんな姿を見て余計なことをしなくてよかったと胸をなでおろすとともにとりあえずは逆らわずに従うことにした。
逆らってもいいことはないと判断したからだ。
後々俺はこの判断を後悔することになるとも知らずに流れに流されるがまま身を任せてしまった。
王様は逆らわなかった者たちを何グループにか分けて客間に案内された。
普通だったら部屋に案内する前にステータスの確認等を行うだろうにそんなことはなかった。
王様は俺たちが特別で特殊な力が使えると当たり前のように思っているようだった。
だが俺は気づいていた。
先ほど俺は王様たちの目を盗んで自分のステータスを確認していたのだがそこには目立った力がなかったのだ。
こんな状態では戦うことなんてできない。
普通こういうのってチートとかもらえるものだろうに俺にはそんなものはなかった。
これは俺だけなのかそれともほかの人たちも同じなのか、その答えはすぐにわかった。
客間に通された際、一緒になったほかの人たちと情報を交換したのだがその中には誰も特別な力を持ったものがいなかったのだ。
これがバレたらあの独裁者な王様に何をされるかわからないとこのことは隠し通すことに満場一致で決まった。
そうこうしている間に使用人の方が呼びに来て今から勇者たちの歓迎パーティーをするから着替えて玉座の間に来るようにと促された。
俺たちはそれに従い、今パーティーに参加している。
はあ、どうしてこんなことになったんだろう。
確かに一時は勇者召喚ものだと喜んだけど何のチートもないしやっていける気がしないよ……。
それになんだか勇者の数が減ってないか?
あの時反抗せずにいた人たちはもっといたはずだけど、もしかしてもう城を抜け出したのか?
俺もさっさとここから逃げ出したほうが良かったかな?
でも、右も左もわからないこの世界で何の力もない俺がどうやって生き延びればいいんだ。
何もわからず殺されるにきまっている。
それならもう少し様子を見てからでも遅くはないはず。
俺はそんなことを考えつつ、次から次へと話しかけてくる貴族たちに愛想笑いを返していた。
そんなパーティーの中、ガシャーンという大きな音ともに突如悲鳴が上がった。
俺は反射的にその悲鳴が上がったほうに視線を向けた。
そこにはこの世とは思えない光景が広がっていた。
赤、赤、赤___。
真っ赤に染まった一面の中心には一人の少年が立っていた。
その少年は黒いフードをかぶり、その顔は狐のお面で覆われていた。
そして、その少年が声を発する。
それは決して大きな声ではなかった。
でもその音は俺の耳に届いた、確実に、確定的に。
『はじめまして、そしてさよならだな』
その声を聴いたときか、それともその少年の姿を視界に入れたときだろうか俺の身体は崩れ落ち、視界は霞んでいった。
最後に見た光景は狐面の隙間から見える少年の真紅の瞳だった。
赤く光るその瞳に俺はとらわれ、場違いにも最後の瞬間その色をきれいだと思った__。
ありがとうございました。




