12.王女に対しての態度が想像以上な件
門を潜るとそこには多くの兵が並び王女たちを出迎えていた。
立ち並ぶ兵の中から代表者らしき男が一人出てきて王女の前に立つとどこか馬鹿にした様子で大げさに礼をした。
到底一国の王女に対する態度とは思えない。
「おかえりなさいませ、第四王女様。王が玉座の間にてお待ちです。どうぞ急ぎ向かってください」
「……わかりました。ですが、私たちは今戻ったばかりです。兵たちにはすぐに休息が必要です。代表して私と数人だけで玉座に向かいます。構わないでしょう?」
王女は先ほどまでの少女特有の高い声を低くし、硬い声で答える。
まるで、弱みを見せたら終わりだとばかりに気丈な姿を見せる。
タダヒトはそんな様子を見て不愉快な気持ちになった。
なんだこいつ、仮にも一国の王女に対してとっていい態度じゃないだろ。
城での立場があまりよくないと言っていたがこれは思った以上に悪いのか?
だいたい、王女様は命を懸けて壁の外に出て戦ってきた帰りだっていうのに労わる様子もなくさっさと王のもとへ行けだと?
こいつは自分のことを何様だと思っているんだ?
自然と男を見る目が冷たくなる。
「ん?そこにいる男、見かけない顔ですね。何者です」
タダヒトの存在に気付いた男が声をかけてくる。
「……」
「……無視とはいい度胸ですね。よほど命がいらないと見えるッ」
男はそういうと腰にある剣に手を伸ばす。
「やめなさいッ!この方は私たちの恩人です。それ以上無礼な振る舞いは許しません!」
王女の声が響く。
その声に男は剣に伸ばしていた手を戻した。
「ッち。……ふん、命拾いしましたね。まあ、ここでこれ以上時間を使って王を待たせるわけにはいきませんからね。お急ぎください、王女様」
男は最後までこちらを馬鹿にしたような態度で送り出した。
男と別れた後、王のもとに向かう数名を残して兵たちは宿舎に戻っていった。
そのタイミングで王女は声を発した。
「……申し訳ありません。私に力がないばかりにあなたに不快な思いをさせてしまって……」
「お前が謝ることじゃないだろ。この国のために命を懸けて戦っているお前が安全な壁の中でぬくぬくと生きているだけのやつに馬鹿にされている今の現状がおかしいんだから謝るな。お前は前を向いてもっと堂々としていろ」
「……ありがとうございます」
うっすらと目元に浮かんだ涙を振り払うように笑みを浮かべた。
「これから父……陛下に会うのですがきっと不愉快な気持ちにさせると思います。ですが、安心してください。報酬はきっちりもらいますから」
にっこりと笑う王女を見てタダヒトはその強さを眩しく思った。
これが今を必死に生きる人の姿か、かっこいいな。
__________
玉座の間にはタダヒトと王女様、ディナ、リッターの4人で向かう。
他の兵たちは疲れを癒すためにそれぞれの宿舎に戻ることになった。
玉座の間に行くまでの道のりは豪華絢爛といった様子で無駄にピカピカしていて趣味が悪い。
そんな目にいたい道の先にこれまたピカピカとした黄金色の大きな扉があった。
その両側には武装した騎士が立っており、タダヒトたちの姿を見るとこちらに何か声をかけることもなく扉を開くと玉座の間の中に対して大きな声で王女の到着を告げた。
扉の先にはレッドカーペットが敷かれており、レットカーペットはそのまま何段か高い位置にある玉座へと続いてた。
王女が先頭に立ちそれに続くように歩みを進める。
玉座に近づたびにそこに座る者の姿がはっきりと見えるようになり、その醜く肥え太った姿に目を窄める。
玉座の前にある階段の下までつくと王女は膝をつき、頭を下げる。
正直タダヒトはこんな奴に頭など下げたくないがここはおとなしく従う。
「第四王女遠征を終え、ただいま帰還いたしました」
王女様がそう声を発すると、玉座にふんぞり返っている王が偉そうに口を開く。
「ふん、帰還したという報告のみで今回も何の戦果もなしか」
王から発せられた言葉は到底死地から無事に帰還した娘にかける言葉ではなかった。
「……申し訳ありません」
王女は顔を上げることなく唇を噛み締め、声を絞り出す。
「相変わらず癇に障るやつだな。もうよい、そなたの陰気な顔を見ているとこちらまで陰気臭くなるわ。さっさと下がるがよい」
そういってさっさと王女を下がらせようとする。
その様子を王の隣に座る王妃と王子、王女であろう人物たちがくすくすと笑いながら見ている。
王に負けず劣らずの体格を持ち、嗤う姿は何とも醜悪で見るに堪えない姿だ。
「下がる前に一つお願いがございます」
そんな王を前に王女は気丈に声を上げる。
その声を聞いて王は不愉快そうに眉を上げる。
「お前ごときが我にお願いだと?調子に乗るなっ!」
王の怒号が飛ぶ中、それでも王女は声を上げる。
「この度の遠征では危うく私を含めすべての兵が命を落とすところでした。ですが、こちらのタダヒト様の助けにより無事に帰還することができました。このご恩は王族としてしっかりと返さなければ王の品位にかかわります」
「ふん、お前ごときが王の品位を語るだと?」
「王は気高く礼には礼で返す偉大なお方であることは誰もが知るところです。どうかその寛大な御心にて恩賞をいただければと思います」
怒気を強めていた王は王女のそんな言葉を聞き、気をよくしたのか怒気を弱めて言葉を返す。
「当然だ、吾輩は偉大な王だからな。ふん、本来ならお前ごときのために吾輩が何かする必要もないが今日は機嫌が良いから報酬を与えることを許可しよう。もう用事は済んだであろう、さっさと下がるがよい。ああ、そうだ。この後は大事なパーティーがあるからお前たちはここに立ち入るでないぞ。お前たちのようなものがいるとせっかくのパーティーが台無しだからな」
「かしこまりました。恩賞の件、許可をいただきありがとうございます。それでは失礼いたします」
思うところがあるだろうに必要最低限の言葉をもって去ろうと立ち上がる王女に王は思い出したかのように声をかける。
「ああ、そうだった。今回のパーティーは神がお与えくださった勇者たちを歓迎するパーティーだ。これからは勇者たちを主として遠征に行ってもらう。勇者たちの言うことを聞き、その指示に従え」
「……ッ。それは承服できません!そんなどこの誰ともわからないものたちに兵の命をあずけろというのですか?!」
「どこの誰ともわからぬものだと?勇者たちは神がお与えくださったこの世界の救世主だ!お前は神の意志に背くというのか?!この愚か者めが!これは決定事項でありお前に拒否権など最初からない!さっさとここから出ていくがよい!!」
「……ッ失礼します」
怒り狂った王に半ば追い出されるように玉座の間を後にする。
しばらくの間無言の王女の後をついていく。
人気のない場所まで来ると王女が口を開いた。
「タダヒトさん、お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません……。それに、ディナとリッターもごめんなさい。私に力がないばかりにあなたたちを守れなくて……ッ」
王女の目の端には涙がたまっている。
よほど悔しかったのだろう、握りしめた手のひらには血がにじんでいた。
タダヒトは握りしめた王女の手を開き回復しながら声をかける。
「俺のことは気にしなくていい。お前があんな思いをしてまで俺にお礼をしようとなんてしなくてよかったんだぞ。それにしても話に聞いていたが想像以上だったな」
「姫様が謝る必要はありません。私たちは何があろうとも最後まで姫様とともにあります。姫様が私たちを守ってくださるように私たちにも姫様を守らせてください」
「俺も同じ気持ちです。姫、そんなに気負う必要はありません。いくらでも俺たちを頼ってください」
「……ありがとう」
そういって年相応に泣く王女を抱きしめるディナは王女が泣き止むまでその背を撫で続けた。
ありがとうございました。




