10.俺が悪いとは限らない
「タダヒトさん、起きていますか?食事の準備ができました。もしよろしければ、こちらで一緒に食事をしませんか?」
王女の声にタダヒトはショップ画面を閉じ、テントから出た。
「ありがとう。俺が皆の食事に交じってもいいのか?」
「もちろんです。どうぞこちらへ、タダヒトさんのことをみんなも待っていますよ!」
気心の知れた仲間たちと合流し皆が無事であるということに安心したからか王女の表情は柔らかく年相応の笑顔を見せるようになっていた。
王女に連れられ食事を囲む輪の中に入る。
皆、表情が明るく先ほどまでの暗い雰囲気が嘘のようだった。
「お、我らが救世主のお出ましだ!」
その言葉を皮切りにあちこちから感謝の言葉が上がる。
「ははっ、なんだかこんなに感謝されると照れるな」
「ふふ、みんな本当に感謝しているのです。あなたがいなかったら死者も出ていたでしょう。あなたのおかげで何人もの命が救われました。ありがとうございます」
「頭を上げてくれ、王女様。俺は俺にできることをやったにすぎない」
「それでもありがとうございます。ふふ、タダヒトさんには感謝ばかりしていますね」
「そういえばそうだな。一国の王女がそんなに人に頭を下げて大丈夫か?」
「大丈夫です。王女といっても私は見捨てられた王女ですから……」
「見捨てられた……?ああ、加護のせいで差別されてきたと言っていたな」
「姫様!悲しむことはありません!あの無能な王に認められずとも私たちは姫様の努力を貢献を認めております!」
「ディナ!自国の王をそんな風に言ってはいけません!」
「そうですよ、姫。あんな屑を擁護する必要はありません」
「リッター、あなたまで……」
そこからはいたるところでこの国の王族や貴族に対する不満や悪口が溢れ始めた。
曰く、貴族たちは民から搾取した税で贅沢三昧のくせに民を一切助けようとはしないとか。
曰く、王は王女を生贄にすることで王族の義務は果たしたとばかりに王宮にこもって何もしないとか。
その不満や悪口は止まることなくいくらでも溢れてくるようだ。
この国の王族や貴族は王女を除いてかなり嫌われているみたいだな。
まあ、話を聞く限り当然か。
それにしてもここまで嫌われているなら反乱が起こってもおかしくないだろうになぜ起きていないのだろうか。
「それならなぜさっさと反乱を起こさないんだ?膿はさっさと取り除いたほうがいいんじゃないのか?」
「タダヒト殿はどこか秘境か何かで生活していたのか?」
「リッター様、タダヒトさんは俗世から離れ暮らしていたそうなので王都の現状を知らないのは仕方ないことなのです。タダヒトさん、王都の人々は重過ぎる税によりその日を生きるので精一杯の状況なのです。とても反乱しようとする気力も体力も残っていないのです……」
「それじゃああんたたちは?あんたたちが実行に移せば簡単なんじゃないのか?」
「ふう、そこが問題なのだ。王は俺たちが反乱を起こす暇がないように最低限の兵をおいて常に瘴気に潜む魔物の討伐に向かわせている。怪我をして帰り、治ったらまたすぐに討伐へ向かう。とてもではないが反乱の準備をする暇がない。それに……」
リッターはそこで言葉を区切ると王女に目を向けた。
「……私が悪いのです。お父様たちが民に対して行っていることが非道なことだというのは理解しているのです。私をいないもののように扱い一度も笑顔を向けてくれたこともありません。ですがどうしても私にはできないのです、親を殺す覚悟が」
王女は唇を噛み締め俯いてしまった。
どれだけひどい扱いを受けようと親の愛を欲するのか、俺にはわからない感情だな。
でもまあ、そうは言っていられなくなるのも時間の問題だろう。
兵士たちの様子から我慢の限界も近そうだ。
このまま反乱が起こればその旗印にされるのはこの王女だろう、王女がこのままならきっとろくな結果にはならないだろうな。
「あ、すみません!暗くなってしまいましたね。こんな話は終わりにして食事にしましょう!大したものはではありませんがどうぞ召し上がってください」
そこからは王族や貴族の話はなくなり食事を楽しむように盛り上がり夜は更けていった。
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「タダヒトさん、起きていますか?」
朝になり王女がテント越しに声をかける。
「もう朝か……。昨日は遅くまで盛り上がりすぎたな」
タダヒトは眠たい目をこすりながら起き上がった。
そして王女に返事をする。
「ああ、起きている。すぐに出るから少し待っててくれ」
「ゆっくりで大丈夫ですよ。中央広場で待っていますね」
王女がテントから離れてすぐに準備を整えテントを出る。
周りのテントは解体され部品が積み上げられた状態となっていた。
「少し寝過ごしてしまったか?」
「大丈夫ですよ。昨日は遅くまで起きていましたからね。遅くなって当然です」
周りの状況をみて呟いているとディナが声をかけてきた。
「だが俺以外の人たちはずいぶん早くから起きて作業をしていたようだし、俺一人何もしないというのは気が引ける」
「はは、私たちは慣れていますからね。タダヒトさんにはお世話になっているのです。これくらいは私たちがやって当然ですよ」
「それは助かる。それにしてもここにいる人たちはみんな加護持ちなんだよな?だったら俺と同じ回復系の力を持った人もいるんじゃないのか?」
「はい、もちろん何人かいます。その人たちのおかげでタダヒトさんが来るまで持ちこたえていられたられたんですよ。ですが、タダヒトさんほどの力はありません。タダヒトさんが回復してくれなければ死人が出るのは時間の問題だったでしょう」
「そうだったのか。そういえばキャンプには魔獣が一切出なかったな。それも誰かの加護のおかげか?」
「そうですよ。いろいろ条件がありますが便利な力でしょう?他にもいろいろな加護があってみんなで助け合ってここまで来たのです。みんなかけがえのない仲間たちです」
「いいな、そんな関係性の仲間がいるって。羨ましい」
「何を言ってるんですか。タダヒトさんももう私たちの仲間の一人ですよ」
「ははっ、それはうれしいな」
「あ、準備ができたみたいです。行きましょう」
ディナと話しているうちに片づけが終わっていた。
タダヒトたちは王女様たちと合流するために歩き出した。
「あ、タダヒトさん。来ましたね。出発の準備が整いました。すぐに出発しましょう」
王国に向けて森を進んでいく。
道中、多数の魔獣に襲われたが見事な連携で倒していく。
「手慣れているな。これならあそこまで負傷者が出ることはなかったんじゃないか?」
「この程度の魔獣なら問題はない。問題は”名持ち(ネームド)”だ。こいつらは異常な力を持っていて一度体制を崩されるとそこから一気に瓦解する。今回はそのネームドに予想外の場所で遭遇してしまい、やられてしまった。ネームドたちは基本自分の領域から出ないんだが今回はなぜかそこから外れた場所で遭遇してしまった」
「そうだったんだな」
リッターの話を聞いてタダヒトは嫌な予感がした。
リッターの言う”名持ち(ネームド)”ってたぶんあのオオカミのことだよな。
もしかして俺があいつを領域から連れ出してしまったんじゃないか?
俺が死んだらその死体も消える。
それをあいつは獲物を逃がしたとして怒り狂いテリトリー外で暴れまくった。
そこに運悪くリッターたちが遭遇してしまった。
そう考えると辻褄が合う。
……うーん、これ俺が悪いのか?
よし、このことはこれ以上考えないようにしよう。
死者は1人も出なかったんだし、終わりよければすべてよしだ。
タダヒトはそれ以上考えるのをやめた。
その後も特に問題が起こることもなく、王国に入るためであろう巨大な門の前に到着した。
ありがとうございました。




