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少年の脳を焼くリナさん  作者: サファイロス


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6/6

最終話 夏の余熱、初恋の鼓動  ~Sommer & Erste Liebe~

夏の終わり、蒸し暑い午後の電車は、まるで生き物のように揺れていた。

窓ガラスに張り付くように景色が流れ、車内は汗と息遣いの熱気で満ちている。


少年は学校帰り、制服のシャツを湿らせながら吊り革にしがみついていた。

混雑に押され、薄い体は波に揉まれるように揺れ続ける。


その時、視界に差し込む一筋の明るさ。

彼女――リナおねえさん。


空港で出会ってから、まだそう経っていないのに、

まるで記憶の続きが勝手に再生されたかのように、そこに立っている。


白いブラウス、膝丈のスカート。

アッシュブロンズの髪が汗ばむ額に沿い、夏の光を帯びて揺れていた。


本を片手にした彼女は、急なブレーキに体を取られ、

ふわりと少年のほうへ傾いた。


「――ごめんなさい」


近くで聞くその声は、やわらかくて、すっと胸に刺さる。

リナの体温が、制服越しに静かに伝わってきた。

汗に濡れた世界の中で、その温度だけが特別で。


少年の心臓は、無意識にその鼓動を早める。

理由のわからない熱が、胸の奥でふくらんでいく。

目を逸らしたいのに、逸らせない。

名前をつけられない想いが、息の隙間にあふれた。


「大丈夫? ちゃんと掴まってて」


そう言って、リナの手が少年の腕をそっと支える。

指先が触れた場所だけ、夏とは別の季節が芽生えたように温かい。


こんな風に誰かの存在が心を占めるなんて――

少年は知らなかった。

自分でも知らなかった鼓動が、初めて居場所を主張してくる。


混雑も喧騒も消え、ただ目の前の存在だけが鮮やかになる。

彼女が息をするたびに、世界が色づいていく。


電車が駅に着き、波が引くように人々が動き出す。

支えられていた感覚が離れると、少年はわずかに息を吐いた。

掴みかけていた何かを、指の隙間からこぼしてしまった気がした。


リナが振り返り、微笑む。


「また会ったね、 kleiner Junge。気をつけて帰って」


その笑顔を見た瞬間、胸がぎゅっと痛んだ。

もっと話したい。

名前を呼んでほしい。

忘れられたくない。

そんな言葉たちが喉の奥で絡まり、声にならない。


少年は答えを飲み込み、目を伏せた。

胸の中に残った余熱が、夏の終わりより長く燃えていた。

その温度の意味を、まだ知らなくても――

もう後戻りはできなかった。

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