テニスコートの貴公子は貴公子でも魔王でも無かった件
「先生!例の件どうなりました?」
数日後の朝、廊下を歩いていると
いつも見かけるもそもそと動く塊の中からヒュッと姫ちゃんが飛び出してきて貴腐人に声をかけてきた
「あぁ、姫野くん例の件ね…うーんこれがベストかどうかわからないんだけど…昨日、他の先生方と話あって、出ている案は…」
うんうんと瞳を輝かせてこちらを見る姫ちゃん…
んー今日も絶好調の可愛さ!
「英語の補習と称して週3回昼食時間&昼休みの1時間、進路指導室で好きに過ごす…ただし1人にはしておけないので私も一緒にいることにはなっちゃうんだけどね…って感じなんだけど、どう?」
「冴木先生だけですか?」
「そうよ…二人きりが心配なら私と他にもう一人先生に来てもらっても良いけど…」
「いえ!冴木先生だけが良いです」
「そう?まぁ一緒の部屋にいるだけでお互いに好きなように過ごせば良いから…」
「先生とお話するのもアリですか?」
「もちろん!2人で気ままに過ごしましょう!」
「はい!」
満面の笑みの姫ちゃんを見て少しホッとした
「あ、あの…」
「ん?なに?」
「僕の我儘聞いてくださってありがとうございます。
理事長先生たちにも、ご配慮ありがとうございますと伝えてください!」
「はい、わかりましたよ」
姫ちゃんはにっこり笑うと振り向いて
タタタッと小走りで
数メートル先で待っていたもそもそ集団の塊の中へ戻っていった
んーんー
間違い無い!可愛い!
天使!癒し!
しかし…塊の大きさ一回り大きくなってないか?
夏は暑苦しいだろうな…
塊を眺めて見送っていると
後ろからトントンと肩を叩かれた
振り向くと…
テニスコートの貴公子
天王くんが立っていた
「セーンセ!」
「天王くん…何か用ですか?」
少しズレた眼鏡をカチャッと直しながら
スンとする
「何だよ先生…そんな他人行儀な…」
「他人てすけど?」
「もー冷たいなぁ…先生と僕の仲でしょ?」
そう言って天王くんはズイッと貴腐人に近づいてきて壁際に追い詰める…
「仲というほどの関係は無いと記憶してますが?」
「ところでセンセ、あの後…殿崎に何か言った?」
そう言いながら更に詰め寄ってくる
「え?殿崎くんのことはあの後見かけてもいないですが…どうかしましたか?」
「…声かけても無視するし メッセージも既読にならない 電話も出ない…目もあわない」
「そ、それは…あなたが許可なく嫌がる殿崎くんにアレヤコレヤしたのが悪いのでは?」
「いや…だって殿崎だって…そんなに嫌がってたわけじゃ…アイツ俺のこと好きだし…多分…」
「えー?そう?友達だと思ってた人にアレヤコレヤなセクハラされたら…ねぇ~」
「え、でも、だって…」
急にしゅんとする天王くん
自業自得だな…
「ふん!恋愛下手くそナルシストめ!」
「ひ、酷っ」
「あのさぁ…見切り発車が過ぎるんだよ!
焦らずもっと用意周到に上手く絡め取らないと…
あれじゃぁ、たとえ殿崎が天王に対して本当に好意があったとしても逃げるよね!当たり前だよね!」(早口)
「せ、先生?あの…怒ってます?」
思わず語気が強くなってしまいました…
だって…そうでしょ?
天王✕殿崎なんて素敵なカップリング(予想外だけど)に
発展しそうな組み合わせなのに
コイツが下手打つから…BLの神様がそっぽを向いてしまわれたんだもの!!!
「お、怒ってません…」
「怒ってるってぇ…」
「怒ってるのではなく、呆れているのです!
その貴公子風のルックスはハリボテですか?見かけ倒しも甚だしい…まったく…情けない…ガッカリです!もう少し焦らず慎重に段々と逃げ道を塞いでいくように少しずつ攻めないと落ちるものも落ちませんよね?ガッツキ過ぎなんですよ!今どき中学生だってもう少しちゃんと…」(超早口)
「せ、センセ?」
天王くんが困惑した面持ちでこちらを見ている
ハッ!しまった…思わず本音がダダ漏れに…
だって…仕方ないですよね
このテイタラク…
本当に…見かけ倒しも甚だしい
もっとスマートにハートにキュンキュンくるように攻められないんですかね?この天王は!
完璧貴公子な風貌がもったいない!!
嗚呼、もったいない
「まぁ、良いです。勝手に嫌われときなさい」
「えーそんなぁ…助けてよ…」
「無理でしょ…
この前は悪かったごめんなとかメッセージ入れて、
あとはしばらくそっとしておいてあげなよ
しつこいのは逆効果だよ」
「それ、アドバイス?」
「いや?天王に追いかけ回されて絡まれる殿崎くんが不憫なだけ(ニコッ)」
「酷い…先生…」
私は…
スパダリの執着攻めは好物です
ええ、大好物です
あくまでもホンモノのスパダリの
愛が故の激甘な執着攻めが!
それも受けちゃんがそれをトロットロに心から
甘々を受け入れているのが前提ですよ!
なのに…
落ちてもないのにグイグイと自分本位に攻める
こんな見かけ倒しのへっぽこの執着攻めは見たくないのです
まぁ…貴公子風のイケメンが恋愛下手っていうのも
萌…
んっんん
嫌がっている風だけど、もしももしも本当に殿崎くんが
天王くんの事を大好きなんですとかいうなら…
天王くんのへっぽこ攻めもそれはそれで
萌…
無くもない…
「あの…先生?大丈夫?」
ハッ
脳内が高速で萌えの探求をしてしまった!
カチャッ
眼鏡を再びかけ直し
「な、なんでもありません…少しぼーっとしてしまっただけです。それでは」
そう言って
天王くんから離れようとすると
「待って!」
天王くんに腕を掴まれ引き止められ
顔が近付く
「え?何?」
クソッ…
天王め…恋愛偏差値低いくせに
本当に顔面偏差値は無駄に高いな
「ねぇ…本当にどうにかならないかなぁ
謝るにも完全無視だし…」
「ちょっと、お聞きしたいのですが…
天王くんは殿崎くんがあなたの事を
『嫌よ嫌よも好きのうちでまんざらでも無いと思っている』と考えているように見受けられますが…その、根拠は?」
天王くんは少し俯き加減で顔を紅く染め
照れたような感じで話しだす
「俺ら高1の頃から同じクラスで仲良かったんだけど…
ある時、殿崎がいつもテニスの大会の観戦に来てる事に気がついたんだ…
ハンドボールの公式戦とか、そういうのが無いときはいつも…時には練習試合の時も…俺、殿崎の事、気になってたから嬉しくてさ…」
「ほう…」
「でも最初は正雪がよく大会を観に来てくれてたから
正雪目当てか、付き添いかと思ってたんだけど…
正雪と一緒に観戦してるわけでもないし…よく考えたら正雪が入学する前の1年の頃から殿崎は来てたな…と」
「へぇ…」
「ある時、試合中に殿崎が俺の試合の対戦相手の動画を熱心に撮ってて…
俺、そいつには一度も勝った事無くて、1番のライバルで、その試合も負けたから…悔しくて…
尾崎が動画を撮ってた事、ずっと気にはなってたんだけど聞けずにいたんだ」
「うん…」
「で、この前殿崎に
なんで俺のライバルの対戦相手の動画なんて撮ってたんだ?って聞いたら
動画で撮っておけば、彼のフォームとか得意なコースとか苦手なコースとか調子とか後で見返せるし、いろいろわかるだろ?って。観戦に来たときはだいたいソイツの全試合の動画を撮ってて分析してるんだって言うから…」
「へぇ…」
「なんか、もしかして俺の為に?って思ったら
こう…腹の底からクァ〜ッて熱くなって
あー、もう大好きってなって」
「それでこの前思わず暴走してしまったと…」
天王くんは恥ずかしそうにコクッと頷く
「ふぅ~ん…ところで尾崎くんにその動画見せてもらったり分析結果を教えてもらったりしたの?」
天王くんは顎に手を当てて暫く黙り込む
「………………そう言えば何も見せてもらって無い…な…」
「え?」
「あれ?」
「それ、本当に天王の為に動画撮って分析してたのかな?」
「え??違うの?かな?」
「はぁ…そのへんの確認は?」
「………して無い」
さっきまで紅く染まっていた天王くんの顔が
急に青褪める…
「天王くん、あなたもしかして…
根本から何か間違っているのでは?」
「ま、間違い?まさか…そんな事は…無い…はず?」
うーん
これは…何とも言えない…
一つだけ確かな事は
テニスコートの貴公子は
貴公子でも魔王でも帝王でも無く
恋愛偏差値、低低の見かけ倒しな
残念イケメンだったという事であります…




