貴腐人とスナイパー
天国の扉をくぐり抜け
学園内へ足を一歩踏み入れた
途端
珍しいモノを見るような視線を浴びる
ここは男子高校
外国人のような風貌のおばさんなんて
場違いに見えるのでしょう…
まぁ、それも最初のうちだけ
生徒たちが貴腐人を見慣れてしまえば
風景の一部となるでしょう
あとは
コンビニで培った壁スキルを発動させて
密偵活動を開始するだけです
少し前を見ると
一つの塊?集団?になっている生徒たちがいる
その塊は少しずつもそもそと前へと進んでいる
?
何だろう?
少し歩くスピードを速めて集団に追いついて横に並ぶ
チラッと集団の方へ目をやると
あー
なるほど!
なるほど!
もそもそと動く集団の真ん中に
いた!姫ちゃんだ!
期待を裏切らない侍らせっぷり!!
意識を右耳に集中させる…
「姫?鞄重くない?俺が持とうか?」
姫のナナメ前にいる爽やかなイケメンが姫ちゃんに声をかける
姫ちゃんは彼の方をチラッと見てニコリと笑ってからフルフルと首を振る
「姫!今日は課題やってきたのか?やってないなら僕のを写す?」
姫ちゃんの横を歩くメガネの優等生風イケメンが
聞く
姫ちゃんはメガネの方を向いて
ニコニコしながら首を横に振る
鞄は持ってもらわなくても平気
課題はやってきたから必要無い
そんな意思表示を声を全く出さずにしている
そういえば
前にコンビニで見かけた時も
一言も声を出して無かったなぁ
ニコニコと頷いたり首を振っったり…
姫ちゃん
制服の上からでもわかる華奢な身体
スラリと伸びた手脚
細く長い首
白い肌に桃のような頬
切れ長の二重に澄んだ瞳
しかもその瞳は少し憂いを帯び潤んでいる
物言いたげに少しだけ開いたピンクの唇
そしてサラサラツヤツヤの射干玉の黒髪
何を考えているのかわからない表情が
神秘的で儚げな雰囲気を醸し出している…
無口で控えめな感じもまた良き
挙句
まだあどけなさも残り
なんとも言えない可愛らしさである
くぅ~
完璧だ
満開の桜がよく似合う…
眩しいわぁ…
やっぱり
おとなしい子なのかな?
見た目通りの大和撫子?みたいな?
昂るわぁ…
堪らず足を止め
ドキドキと激しく音を鳴らす心臓に手をやる
はぁ…
こりゃ
気合入れないと
心臓やられるなぁ〜
大きく深呼吸を一つ
ふと横を見ると集団もピタリと止まっている
あれ?
どうしたのかな?
すると
集団の中からヒョコッと愛らしい姫ちゃんが顔を出して
貴腐人と目が合う
え?なに?
姫ちゃんがキュルルンとした瞳をキラキラさせて
貴腐人に満面の笑みで言った
「おはようございます!」
「!!」
はぅっ!!
狙撃された?
今、狙撃されたよね?
心の臓、撃ち抜かれましたよね?
「お、おはようございます」
声が裏返りながらもなんとか返事をすると
姫ちゃんはにっこり笑って
またゆっくりと歩きはじめた
何という破壊力
まさにハートのスナイパーだ
まだ校舎にもたどり着いていないのに
やられるとは…
姫ちゃん、恐ろしい子
ああやって臣下を増やしているのですね
もそもそとゆっくり離れていく集団を見つめながら
もう一度深く深呼吸をして気合を入れなおす
が…
『姫ちゃん、声も可愛かったな』
…すっかり臣下の仲間入りをしてしまいそうな
貴腐人なのでした