第95話 秘密の買い出し作戦
【アルカノア農場・朝】
「ふあ〜ぁ…」
気持ちのいい朝が来た!光が、窓の隙間からふんわりこぼれてる。鳥も鳴いてる。布団はあったかい。
そして……。
「ん…?せま……」
添い寝してくる男がいる。
「……おい」
「……ふひゅ……んへ?…てんぱあぃ……」
こいつは、俺の二の腕にすり寄って顔をうずめている。夢の中で何を見てるのか知らないけど、口元がふにゃふにゃ笑ってて、めっちゃ幸せそうだ。
「……ったく」
こいつ、明け方になるとよくトイレに起きるんだけど、二度寝の場所がほぼ100%の確率で「俺の布団」なんだよな。俺が気付かない間に当然みたいな顔で潜り込んできやがる。
「どっけぇぇぇぇええ!!」
「ふぁ!?なんすか!?もう朝飯っ!?」
「まだだ!なんで寝起き密着してんだよ!」
叫びながら布団をひっぺがすと、玄太が寝ぼけ顔のまま転がり出てきた。目はまだ半分閉じてて、髪の毛も寝グセで鳥の巣みたいになってるぞ。
「毎朝毎朝、俺が寝てる間に潜り込むなって!」
「……ん〜〜…わっかりましたぁ…」
やけに素直じゃねえか。寝ぼけてるな?こいつ。
「なら……今日からは、夜から一緒に寝る〜」
「ぶはっ!!いや、そういう問題じゃねぇ!」
「じゃあ、どうしろっつーんすかぁ……」
「いや、自分のベッドで寝るんだよ!」
布団にくるまってモゾモゾしてた玄太の動きがピタッと止まる。
「……ん〜〜…じゃあ、てんぱいに質問っす」
「おん?なんだよ!」
玄太は布団に包まりながら、むくりと顔だけ出して言った。
「目の前に、陽だまりの花畑と荒れた畑があります」
「……ん!んで?」
「てんぱいなら、どっちで寝ころびたいっすか?」
「そりゃ……陽だまりの花畑だろ」
「……ほらああああ!!!」
「は!?」
「俺も無意識で花畑で寝ちゃうんすよぉぉ!」
「いや、お前のベッドは荒れた畑なのかよっ!!」
「だってぇ!てんぱい布団って、ぬくぬくで安心だし、それに……」
「……なんだよ?」
「めちゃくちゃいい匂いするんす……」
「な、なに匂い嗅いでんだよ!てか!その理屈、ズルいだろ!!」
そのときだった。玄太のTシャツの裾あたりが、むにゅ……っと動いた。
「ふぅ…ぬしの腹布団は、いつもぬくぬくじゃのう……」
「うわっ!?クータン、中にいたんすか!?」
玄太のTシャツの中から現れた寝ぼけクータン。完全に脱力しきった目で、胸元から顔を出す。
「こやつのポヨっとした腹が、まるで母の胎内にいるようじゃ」
「ポヨっとは余計っす!……いや、まあ否定できないけど……」
「ふむ……天貴よ。ぬしも素直になってこやつの腹に甘えるがよいぞ」
「ま、まあ確かに玄太の腹は餅みたいで気持ち良いっ……って、なに言わせんだよ!」
「てんぱい……!おれの体、自由にしていいんすよ?身も心もてんぱいのモノなんすから!」
そう言って謎のセクシーポーズを取る玄太。
「ばっ…!変な既成事実を作るな!」
「……我らはファミリーなのじゃ。ファミリーはくっついて寝るのは当然なのじゃ」
「さすが、クータン!話が分かるっすね」
「こ、こいつら……!朝から連携プレーで俺を落としに来てやがる……!」
その瞬間。
「あれ!?今何時!?」
突然飛び起きる玄太。
「うわあぁぁぁ!忘れてた!!置いてかれる!!」
さっきまでのふにゃふにゃが嘘みたいな反射速度。
「な、なんだよ!?」
「おれ、ちょっと出かけてくるっす!今日の午前の作業、休ませてもらっていいっすか!?」
「……は!?どうした!なんだよ急に!?」
「えっと……買い出し?っすかね、買い出し!ほら!クータンも行くっすよ!」
そう言っていつもの野菜カゴを背負う。
「買い出し〜?」
目を逸らしてるのがめっちゃ怪しい。が、玄太はもう荷物をかき集めて猛ダッシュ。
「じゃ、てんぱい!行ってきまーーす!!」
「ちょ、ちょっと!?おい!?」
ドアがバタンッと閉まった。
「お、俺だけ仲間はずれかよ……」
……何だよ、あいつら。
まぁいいか。朝から突っ込むネタが多すぎて疲れた。
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廊下をダダダッと走る玄太の背中のカゴから、クータンがもぞもぞと動いた。
「……ぬし、なんでそんなに慌てておるのじゃ?」
「もう忘れたんすか!?前に言ったでしょ!」
「ふぅむ……?」
「もうすぐてんぱいの誕生日なんすよ!!」
「ほほう?そのような事を言っておったか」
「そうっすよ!だから今のうちに、こっそり買っとかなきゃダメなんすよ!」
「ふむ。産まれた日など祝うとは……で、なにゆえそんなに急ぐのじゃ?」
「今朝の買い出し班に同行するためっす!」
「……贈り物は、ぬし自身!とか言い出しそうじゃが」
「それはそれでアリだけど、ちゃんと他のも考えてるっす!」
「ふむ」
「むふふ……てんぱいが『別に…うれしくねーし…』とか言いながら照れる姿を想定済みっす!!」
玄太はそう言って、ニヤけながら靴を履く。
「ぬし……自力で予言の力を身につけおったか……!」
玄関を出ると買い出し班の馬車は既に出発していた。
「やば!えーっと……あ!いた!!」
そのまま玄太は、門を出かけていた買い出し班の後ろ姿に向かって全力ダッシュ。
「すんませーん!おれも混ぜて下さーいっ!!」




