第92話 サイロで始まるガチ恋バトル!?
サイロの前。
作業?を終えたリカルドとルナが出てきたところだった。そこへ、青いの騎士服姿が歩いてくる。
「おお、器……いや、天貴殿と付き人を見なかっただろうか?凛々しい青年と丸っこい男子だ!」
リオックが俺を探して聞き込み開始。
「あー……それなら、サイロでイチャコラ…」
「……ちょっと!」
ルナがあわててリカルドの口をふさいだ。
「……さ、さあ?知らないわよ?」
やたら不自然な笑顔。片膝が横のリカルドの脇腹に突き刺さってる。
でもリオックは全然動じず、腕組みしたまま堂々とサイロを見ている。
「ふむ……器様と付き人が、サイロに向かったと聞いたのだが……」
リオックは顎に手を添えたまま、首を傾げてそのまま、迷いなくサイロの方へ歩き出した。
「あ〜あ。行っちゃった」
「ま、仕方ねえ。ってか、器様って、あの……押し倒されてた子だよな?」
「たぶん。で、丸っこいのが付き人さんでしょ」
「付き人…付く方が攻め?なるほど筋は通ってるな」
「っぷ……!やめなよ!」
ルナが思わず吹き出し、リカルドは大真面目。
「なら、俺もお前の付き人だなぁ?おい」
「もう…!最っ低のギャグね…」
そんな下世話な話が飛び交ってるとは露知らず、サイロにいる俺たちは……。
「……おい、玄太。いつまで肩抱いてんだよ」
「え?あ、うーん、一生っすかね?」
「はぁ!?バーカ!」
「へへ……」
肩パンしてから、ふたりでくすくす笑った。
ギィ……。
突然サイロの扉が音を立てて開いた。
「……あ、誰か来たっす」
「やっば……!」
俺と玄太は反射的に距離を取って、なんでもない風を装う。
「えーっと、そう、これこれ!」
俺は意味もなく、謎の角材を拾って“これを調べてた風”を演出した。
「天貴殿、ようやく見つけましたぞ」
「お、おうリオックか。な、なんか用か?」
俺の声がワンオクターブ高かった。バレてねえよな? 今の声で余計怪しいとか思われてないよな?
「先ほど、朝の巡回が終わりましてな。気づけば、殿の姿が見えず。姿が見えぬと心配するのがすなわち、護衛であります」
「なるほどな?俺、ちょっと倉庫の片付けしててさ。別に、やましいこととか何もないから」
(て、てんぱい!何言ってんすか!!)
(わ、わりぃ…)
言い訳が不自然に先行してる時点でダメな気もするけど、でもリオックはいつもどおりの真顔。
「では、怪我などございませんな?」
(ほら、大丈夫そうだぞ)
「あ、ああ。ほら、俺ぴんぴんしてるし!玄太だって、ほらな!」
「へへ、めっちゃ元気っすよ!」
「それは結構。ならば安心ですな」
よし……流れはこっちにある。もうこの話題は終わった!
俺と玄太が目を合わせ、「乗り切った……」とこっそり息を吐いたその時。
「……ただひとつ、付き人殿?」
唐突に声のトーンが落ちる。リオックが、表情ひとつ変えずに、まっすぐ玄太を見た。
「はい、なんすか!?」
「不用意に器様の肩を抱くなど、抜け駆けはいけませんぞ?」
「……ッ!?」
その瞬間、玄太の背筋がビクッと跳ねた。
カラーンッ……。
俺も思わず、無意味に手に持ってた角材を落とす。
(バレてる!?いや、見られてた?どこから!?)
「な、な、なにを……!?ぬ、抜け駆けなんて……」
玄太が必死に言葉を探してる。がんばれ玄太、今こそお前のボキャブラ力が試されるときだ!
「あ、そ、それは〜……ぬかるんだ泥のせいっす!」
「泥…ですと?」
「そうっす!このあたり少しぬかるんでで!ほら、この辺!だからてんぱいが滑って、肩を……かばうように……とっさに……!」
言いながら玄太は俺の肩に再び手を置いた。おい!今やめとけ!
「とっさに、すっ……て!支えただけっす!!」
天才的に苦しい。
「なるほど」
リオックは目を細め、まるで聖書でも読むような神妙な表情で玄太を見る。
「……器様が濡れぬよう、その肩に手を添えて支える……その献身、まこと美しき所作」
「え?はぁ、どうもっす」
「では私も騎士として、誓いましょう。次、泥に沈むのは私の番だと」
「なんの番だよ!!」
意味不明な誓いに思わずとっさにツッコんだ。
「っていうか、さっきから“抜け駆け”ってなんの話してんの!?ちょっと肩に手回すだけでなんかにカウントされるの!?」
リオックはまじめくさった顔でうなずいた。
「もちろんです。我々騎士団では、勤務中に肩を抱くという行為は、その…夜のお誘い……と申しましょうか…コホン」
「どこの文化だよそれ!?ヘンテコ文化の押しつけやめろ!?」
「ちなみに腰に手を回すと、今すぐ抱きしめたい!という合図になります」
「なにそれ怖すぎるんだが!?俺の周囲、地雷原しかねえのか!?」
玄太がこっそり俺に寄ってきて、ひそひそ声で言ってくる。
(てんぱい、ここも乗っかるしかないっすよ)
(は!?また!?なにに!?)
「てんぱい……おれ、誘っちまったからには……責任、取るっす」
「いや取らなくていいからな!?なにその“やっちゃった後の男”みたいなテンション!?」
「っな……!やはり器様に夜のお誘いを…!」
「ま、まぁそういう事っす!…だからリオックさんはもう諦めて……」
リオックがじっと玄太を見る。いやその目、ガチで怒ってないか?
「……付き人殿、やはり君は丸っこい見た目の割に侮れない!」
「丸っこいは余計っす」
「器様は、我らの“神体”である以前に、俺の想い人でもあるのです!!」
「「………………」」
堂々とした告白に俺も玄太も、時が止まったみたいに固まった。
「はぁ…。まぁ……知ってたけど」
俺の喉から、間抜けな声が漏れる。
「俺は天貴殿の全てが欲しい!その青い髪、曇りなき瞳、そして……聖なるエーテル!!」
「エーテルって言うな!てか欲しがるな!」
「むしろエーテルこそが……俺の目指すゴール!!」
「目指すな!!正気かお前!!」
「正気です。むしろそれ以外の感情など、もはや不要」
リオックが一歩近づいてくる。玄太に真顔で、ズンッと。
そして、低く落ち着いた声で言った。
「付き人殿。器様の心は、未だ“未定義”」
「は、はぁ…」
「ならば、今この瞬間より、貴殿を恋敵と定義します」
「むむ!受けて立つっす!!」
「こら、そことそこ!勝手に恋のライバルすんじゃねぇぇぇぇ!!!」
「……あ、でも」
玄太が突然スッと手を挙げる。
「はい、付き人!」
「俺、実はさっきてんぱいの本気エーテルを……」
「ば…玄太!」
一瞬サイロの中の時間が止まった。あまりの衝撃にリオックはフリーズ。
「そ、それ以上言うなぁああああ!!!!」
俺の叫びが、サイロの天井を突き破りそうになった。




