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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第7章:新・アルカノア農場戦記 ~器を満たすもの~
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第91話 誰がウケだってぇ!?

 朝風呂入って、朝飯食ってさっぱりした俺たちとは対照的に、空は見事にどんより曇天。


「朝からずっと降ってんな……」


 どのくらいの雨かって言うと、畑に出たら一瞬で靴が泥に沈んで二歩で後悔するレベル。


 日本でいうところ、THE梅雨。


「今日も作業は中止ですわねぇ」


 シーダさんが、干してあった鍬を手に取りながらつぶやいた。土のぬかるみ具合を見れば、たしかに無理だ。


「こればっかりは仕方ないわ…」


「パンツも全然乾かないっす」


 アリスと玄太も、ちょっと肩を落としてる。特に玄太は“パンツが湿ってること”に対して絶望してる。


「それなら器様が、ちょいちょいっと天に祈れば、かような雨など……!」


 リオックがしれっと言ってきた。


 ……まぁ天気を操れるはずの男が目の前にいりゃ、当然そう思うよな。


(でも、俺が俺じゃなくなる一歩手前かもしれない、なんて言えないし)


 そんな俺の様子を、玄太がちらっと見て声を上げた。


「今日はサイロとかの整理でもしないっすか!?」


 いつもどおりを装いながら、俺の代わりに空気を動かしてくれてる。


「それ!いいわね。ずっと放置してたし!」


「なら俺は、倉庫と小屋の修理をしてこよう」


「はい、コンバインさん。よろしくお願いいたします」


 ついこの間、雨呼びの石であんなに苦労したのに!今度は晴れ待ちかよ。いい加減にしてくれ!!


 ……なんて拗ねてる自分が、いちばん情けない。


「ふむ。天は運に任せるものじゃ。ぬしのせいでは無いじゃろ」


「クータン……」


 いつの間にか近づいてきてたクータンが、俺の足元から覗き込んでくる。その黒い瞳に、何かを見透かされた気がした。


「……そういう問題じゃねぇよ」


 神じゃない。伝説の勇者でもない。けどそれでも、誰かの「役に立てる俺」でいたかった。


「でも、これが本来の俺ってことか…」


 そうだ、今できることをやるしかない。


「じゃあ、てんぱい!二人でサイロの整理いくっすよ!」


「お、おう、そうだな!」


 ********


 濡れた地面を避けながら裏道を抜けて、サイロの影に回る。この辺はあんまり人通りがないから、農場の中でもちょっと静かな場所だ。


 で。そんな静かな場所に、なんか気まずい空気がただよってた。


(……やんっ…だめっ)


 不安な声に足音を止めた玄太。


「……あれ、誰かいないっすか?」


 サイロの角から二人してそっと覗くと…?


 ……いた。


 農夫のおっちゃんリカルド。渋い顔の無口系男。相手は、布作業班のルナって子だ。ちょっと小柄で、照れた笑いが可愛いタイプ。


 で、その二人。


「ん、もう……お昼になっちゃうからぁ…っ」


「んじゃ、…味見しとくかぁ?」


 おい待て。味見て何だ味見て。


 しかも、ルナは必死に声抑えてるけど、もう耳まで真っ赤でぷるぷるしてる。


「あっ……服、しわになっちゃうってば!」


「いいじゃねぇか。どうせすぐ脱がす」


 おいこらおいこらおいこらおいこら!!!!


(……てんぱい、これ18禁のすげえやつっす……!!)


(……ああ、マジなやつだ…!)


 揃って物陰でしゃがみこむ好奇心の盛りの俺と玄太。二人の顔の距離がめちゃくちゃ近い。


(……ゴクッ)


 いや、それどころじゃない。あれマジで始まるやつじゃん。


「っ……リカルドさん……おっき……」


「まだまだ……こんなもんじゃねえぞ……?」


 おいっ……!?ナニしてんだ!今、完全にアウトなワード出なかった!?!?!?


(てんぱい!あの子、おっちゃんのエーテル触ってます)


(うっわぁ…って、わざわざ実況するじゃねぇ!)


 どんどん大胆になる二人に俺たちの興奮もヒートアップ。


(……て、てんぱい。おれのエーテルもおっきくなりそっす)


(っばか……!い、いや、仕方ねえか。健康男児なんだから……)


 ……わかる。わかるけど!


 確かに今のは反則だろ!?「まだまだこんなもんじゃねえぞ」て!!


 おっちゃんの方は声エロいし、ルナはぷるぷるしてるし、こっちの理性まで震えてんだけど!?


 てかなんでこんな湿度の高いサイロ裏で、湿度高すぎるイチャイチャ見せつけられてんだよ!!


 いや、コソコソ覗いてる俺達が一番おかしい。


(ててててんぱい……!!めっちゃブチュっとしてますよ!)


(ほ、ほんとだな。なんかもう捕食って感じだな……)


 いや。でもほんと、生々しい。チュッ……ブチュッ……って、どんだけ吸うんだよ。


「もっと舌出せ…」


「あっ……リひゃルろさん……らめぇっ……」


(っぶふぉ!らめぇって言った!!)


(てんぱい静かにぃぃぃ!!笑ったらバレるぅぅぅ!!)


 くそっ……だめだ、今のは耐えられん……。


 俺、絶対ルナと目合ったら思い出してこっちが恥ずかしくなるやつ。っていうかもうアウトだこれ。


(はぁ……てんぱい、おれこんなん見てたら変なスイッチ入りそうっす……!)


(おい……ちょ、玄太、近いって!!)


 なんかさっきから、俺と玄太の太ももが、ぴったりくっついてる。いや、くっついてるってレベルじゃない。重なってる。どっちの脚か分かんねぇくらいに。


 で、そのせいで、玄太のエーテルが……俺の膝にじわじわ当たってるんだが。


(……てんぱい、なんか……おれまで気持ちよくなってきたっす……)


(おい、なんか俺の膝に固いもん当たってんぞ…)


 気がつけば、俺の膝を玄太が両足で挟んでる状態になってて。いやいや、それ完全にわざと当ててるだろ!?


(いや、そんなんされたら俺まで変な気分になって……)


 いやいや、冷静になれ、俺。これは事故だ。体勢のせいだ。そうに決まってる。


 と、その時!

 

 突然、グラッとバランスを崩した玄太。


(わっ……すんません!てんぱ……)


(あうっ!お前何してっ……!?)


 突然のしかかってきた玄太の全体重が俺の体にダイブ。反射的に俺は、足をガバッと開いて完全に受け入れ体制。


(てんぱい…なんかこれ……あふっ)


(バ、バカ!この変態!!腰を押しつけんじゃねえ!!)


 思いっきり下腹部と下腹部が密着して、なんていうか、その、とにかくやべえ!!


(あ!!てんぱいのエーテルもなんか硬……)


「やめろ!そ、それ以上言うな!!!」


 つい普通に声に出してしまった、そのとき。


「ん……今、声しなかった!?」


 やばい。今の声、完璧に聞かれた!


「だ、誰か……いるの!?」


 バサッ!


 草をかき分けた彼らの視線の先には……俺の上に玄太が乗っかったまま、顔を真っ赤にして固まってる俺たちの姿。


「なんだ、お前たち?」


 ……バレた。


 俺たちがさっきからずっと、隠れて覗いてたってことが。


(……あぁ……終わった……)


 もう言い訳不能。言い逃れ不可避。覗き魔確定。


 でも、俺の予想に反してリカルドの声が、思ったより優しい。


「……お、おう。そういうことか?」


 …怒鳴られない?なんで?


「ふっ、お前らもお楽しみ中だったんだな?」


「……えっ?」


 何が何だか混乱して言葉が出ない。


 そのとき、玄太が俺の耳元にヒソヒソとささやいた。


(てんぱい、ここは話を合わせるっすよ!)


(な、なに!?)


(このままおれらも「シテました」ってことにすれば、覗いてたのはバレずに済むんすよ!)


 マジか……いや、なるほど。


「すまねえっす!てんぱいが我慢できないって…」


「そうそう。ところ構わずってやつ?はは……」


 いや、こっちがおねだりした設定!?てか、俺まで何言ってんだ!?


「ほんと、かわいいんすから。てんぱい♡」


 しれっと肩を抱いてくる玄太。お前、なんでそんな堂々と演技できるんだよ!


 でも……ルナとリカルドの目が、「ああ、なるほどな」みたいな納得顔になってるのが、嬉しいやら悲しいやら。


「わはは!悪かったな。邪魔しちまってよ」


「ふふ。お似合いのカップルね」


(いやいやいやいやいや!!カップルって!違う!で、でも!!!)


 ……今さら否定したら、よりによって“覗いてました”が確定してしまう。


(……くそ……どの道、地獄だ……!)


「そうなんすよ!もう毎日おねだりっすよ」


 玄太てめえ!いや、仕方ない。いや?いやいや。


「じゃあな。ゆっくり楽しめ?」


「は、はぁ……」


 なんで俺、丁寧にペコッと頭下げてんだよ!?


 すると、ルナが去り際にまっすぐ俺を見つめて、にっこり笑う。


「……ふふ。あなたがウケなのね? クールそうに見えて意外だわ」


「……は?」


「あ、いや〜、てんぱいってこう見えてビンカンなんすよね~」


 なに?コレどういう展開?


「最初は恥ずかしがってんすけど、途中からずっとノリノリで〜」


「お、おい!? 玄太?」


「で、ふと見たら……唇噛んで、目そらしてるけど、下半身は正直で〜…」


「そ、それはちがっ……!」


 玄太のやつ、調子に乗ってあるコトないコト言いやがる!!


「……そ、そうか。可愛いカレシ君だな」


「じ、じゃあ行くわね」


 若干ひきつった笑顔で、ルナとリカルドが退場。


(……えっ。なに?今の……?)


「ふぅ〜!危なかったっすね」


「は?……ん?」


 ワンテンポ遅れて、脳内で一斉に警報が鳴った。


「おい!だ、誰がウケだってぇぇぇ!?」


 こうして今再び、俺の男としての尊厳は地面にめり込んだ。

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