第9話 てんぱい、異世界へ
「…はっ!!!?」
気が付くと俺は小雨の降る小高い丘にいた。
「えーっと?…あ、そっか…」
クータンとの最後のシーンを思い出す。
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回想
「よ、よし、決めた!どうせ行くときゃ一人だ!ひと思いにやってくれ!」
「ふむ、心得た…ぬしよ、その場の中央に立ち身を委ねよ」
言われるがまま愛着の湧いた長年の根城の中央に立つ。
俺の目の前でクータンはスッと立ち上がり短い前脚を天井へ掲げる。
なにやら呪文のようにぶつぶつと言っているが俺の耳では聞き取れない。
すると急に足元に…なに?牛の模様の魔法陣?そういや、クータンって一応牛だった。
「なあ、…これ大丈夫?牛の世界とか行かない?」
「案ずるな…行先はすでに定められし地。我が手に揺らぎはない」
いや、それ前脚だけどな?…なんてツッコんでる場合じゃなさそうだ。
足元の牛の魔法陣は何重にも連なって、ぐるぐると回り出し、どんどん加速している。
これは、いよいよ発動って感じか!?
「うおっ!俺、マジで行くみたいだ!玄太!!俺!行ってくるからな!!」
「青年よ、天命を背負い、いざ、かの地へ赴くがよい」
魔法陣から吹き上がる光に包まれ、俺の視界が一気に白く染まる。
いよいよかーーーって、待てよ?ガスの元栓しめたっけーーー
「うおおおおおおお!!…お?ぉおい!!仔牛ぃぃ!なんか腕が痛ぇぞぉぉぉ!!!」
「ふむ!失念しておったが、異能の付与により前脚が痛むぞ」
「さ、先に言えぇぇ………ひっ………」
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「…そうか、俺、異世界に転移して!って、いちち…」
腕にはジンワリと鈍い痛みの余韻が残る。
「てか、俺のは腕だっつーの!!」
そのツッコミの宛先はここにもういない。
フッとクータンの余裕ぶった顔を思い出す。
それにしても、マジで来ちまったのか、…異世界に。
「…玄太、大丈夫かな」
…いや、俺の今後の方がヤバいんだって!ってか小雨も降ってるし、傘でも持ってきた方が良かったか?とにかく今は、人の心配をしている場合ではないのは確かだ。
「んで!?ここはどこだっと!」
「よっ!」と立ち上がり、ぐるっと周りを一望する。
空を見上げてみると、地球と同じ空…だよな?残念ながら青空は見えない。
代わりに広がってたのは薄灰色の雲。小雨降ってるしそこは仕方ない。
足元に目をやると、色とりどりの花が咲き乱れてて、雨粒がその花びらをきらきら輝かせてる。
薄い赤、青紫、金色の縁取りまで入ってて、完全に宝石。地球だったら普通にこのまま売れそうだ!
…うん、そんなことより。
俺が立ってるこの丘から見下ろした先、さっそく気になる施設がどーんと俺の目に飛び込んでくる。
「お!?あれは…農場じゃねえか!?しかも、めちゃくちゃデカい!!」
気が利くじゃねえか!と思いつつ、俺は丘を下ってデカい農場に一直線に向かった。