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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第6章:神の器の奮闘記 ~王国復興編~
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第85話 風呂場で大乱闘!?

【アグリスティア王宮浴場・女湯】


 王国奪還の戦いが終わり、ようやく訪れた束の間の休息。アグリスティア王宮の大浴場には、湯けむりと一緒に安堵と笑い声が広がっていた。


「わ~~っ、広い!王女様!これって温泉ですか!?」

「そうよ!王宮の裏山で湧いた温泉水をここまで引いてるわ!」


 アリスが、湯けむりの中へ弾けるように飛び込んできた。きらっきらの目で天井を見上げ、ひとつ深呼吸。


「わたし、こんなに大きなお風呂初めてです!」

「アリス様、はしゃぎすぎですわ。足元、お気をつけになって」


 リゼリア王女が、肩まで湯に浸かりながら静かに諫める。手にはすでに用意された洗薬と櫛。完璧な準備だ。さすがお姉さまポジ。一方その隣では、リシェル王女がちゃっかりリラックスモード。


「ふう。極楽ですぅ…アリスさんも早くおいでよぉ!」

「はぁーい!おじゃましまーす!」


 ぴしゃっ、とリシェルが楽しげに湯を跳ねさせれば、アリスもすぐに応戦。二人で水面に軽く波紋を描きながら、くすくすと笑い合っていた。


「ねぇ、リゼリア姉さまもこっち来て!」

「…もう。騒がしい人たちね」


 そう言いながらも、リゼリア王女は小さく微笑むと、長い髪を後ろでまとめてから、ゆったりと二人のいるエリアへと腰を下ろした。


 きらきらとした光の反射が、湯面にゆらゆらと揺れている。


「…でも、あの綿氷。本当に綺麗だったなぁ」


 リシェル王女がぽつりとこぼした。


「うん…お父様が玉座に戻って、天貴が空に奇跡を降らせて…ほんとに、夢みたいだった」

「夢じゃないわ!だって…」


 アリスがそっと湯の表面をなぞる。


「私たち、この国をちゃんと取り戻したんですもの」

「う、うんっ!」


 リシェルがお湯の中でぐっと拳を握る。


「そう…誇っていい。これは私たち皆の勝利よ」


 リゼリア王女も静かにうなずくと、少しの沈黙。だけど、そこにあるのは心地いい余韻。


「そういえば」


 リシェルが唐突にくるっとアリスの方を向いた。


「アリス様!天貴さんとは、どういうご関係なんですか?」

「ええ!?なんでそんな質問!?」


 突然の恋バナ?に慌てふためくアリス。


「ええっ!聞きたい!わたしもずっと気になってました!」

「ちょ、ちょっと待って!?なんで天貴なのよ!?」


 アリスが顔を真っ赤にして湯の中に沈みかける。


「だって彼、結構男前さんだし?なんか、こう…アリスの視線のやりとりがね?」

「いや、違うの!ちがっ、ただの、友達というか…その……っ!」


「あはっ、アリス様が狼狽えております~♪」

「リシェル王女!?あ、あなたもからかわないでよぉ!」


「ふふ。アリス様可愛らしい」


 顔を半分お湯につけたまま急に真顔になるアリス。


「天貴には……私より守らなきゃいけない人が……いるから……」


 ピタッと時間が止まったようにお湯がシンと静まった。


「あら、そうなのね」

「ふ~ん。いいなぁ、その人……」


 リゼリア王女はすこしだけ微笑んで、でもアリスの顔を見つめて言った。


「でも。もしあなたが誰かを想うのなら、その想いに誇りを持って」

「リゼリア様…うん、そうね」


 アリスが、小さく頷いた。その瞳の奥には、天貴と歩き、アルカノア農場を守ってきた思い出がよみがえっていた。


「…さてっ!」


 リシェル王女が肩までどっぷり浸かって、ぱちりと瞬きする。


「今日だけは、悩みもぜーんぶお湯に流しちゃいましょ!明日のことは、明日また考えましょ!」

「ふふ、リシェルって本当に切り替えが早いのね」


「でも…それ、ちょっと羨ましいかも」


 女三人、ひとときの湯けむりの中で、心からの笑顔を交わした。



【アグリスティア王宮浴場・男湯】


 そしてその頃、俺たち男衆はというと?


「ぬおおおお!!なんだこの風呂!!王宮の湯船、広すぎんだろォォォ!!」


 …まずコンバインさんが全力で泳いでた。風呂なのに。


「てんぱい!これマジで25メートルありますって!!」

「いやはしゃぎすぎ!玄太まで泳ぐなって!!」


 玄太まで参戦して、二人の男が裸が水面を切ってクロールしていくという謎展開。風呂なのに。


「てんぱいも泳ぎましょ!こんなチャンスめったにないっすから!」

「し、仕方ねえなぁ…!」


 なんなんだよこのノリ。って思ってたら、後ろからひときわ静かに風呂に入ってきたのがラクターさん。だけど……え?


「…ふむ。やはり、ここの風呂は健在か」


 そう呟いた顔は、まるで過去の若い将校みたいな鋭さが戻ってた。


「ラクターさんはここ、知ってるんですね」

「うむ。若いころははしゃいだものだ…ん?天貴は入らないのか?」


「いや、ゆっくり入ろうかと…」


 するとラクターさんは俺をひょいッと持ち上げる。


「何をカッコつけている!こんな風呂めったに入れないぞ!泳げ泳げ!!」

「えええー!?ラクターさんも泳ぐ派!?」


 俺の声が反響したその瞬間、ザバーン!と俺の体が放物線を描いた。


「ぬおおおおおおおおお!?!?」


 ドッッブーーーン!!


「…ナイス!好投です!隊長!」

「ストライクっすね!てんぱい!」


 玄太とコンバインさんがそれぞれ、まるで野球中継みたいなコメントしてきた。やかましいわ!!


「ぷっはぁぁぁ!!」


 俺が必死に水面から顔を出すと、ラクターさんは仁王立ちで湯の中に片足突っ込んで、なぜか拳を握ってる。


「我が部隊ではな、王宮防衛任務の後には防衛水泳訓練が恒例だったのだ!」

「まさかの風呂で訓練きたああ!!」


「いざ泳げ、若人よ!みなで競争だぁぁ!」

「いや、どんなテンション!?急にどうしたのラクターさん!」


 戸惑う俺に後ろから玄太がガシッ。


「てんぱいに抱きつきぃ!」

「うぉ!玄太!?」


「てんぱい。俺が思うにラクターさん、今日の事で将軍時代の血が騒いでるんすよ」

「なんだそりゃ!でもたぶん合ってる!!」


 確かに普段のラクターさんよりなんかノリが若い!これが本来のラクターさんって感じ!?


「おりゃあぁぁ!!次は誰が一番長く潜れるか勝負っ!!」

「いきなり潜水!?突然すぎぃぃ!」


 結局俺も流れで付き合わされて、風呂の中で潜水勝負が始まる。隣じゃコンバインさんが潜水しながらバタ足全開で泡を巻き起こしてるし、ラクターさんは真顔で水中歩行してる。この風呂場、もはやカオス。


「っぷっはぁぁぁぁ!!よし!次は鬼になった奴は全員を捕まえろ訓練だ!」

「いや、それただの鬼ごっこ!!」


 そしていつの間にか「タオル禁止令」が出ていた。もう視界に映るもの全部がアウトだよ。自主規制どこいった。


「玄太捕獲!ほら天貴も捕獲ぅぅ!!」


「いや、無理!逃げられねえっす!」

「しまったぁぁ!」


 玄太と俺はコンバインさんに速攻で捕まった。ラクターさんも今、思いっきり入念に後ろから捕獲…いや、抱きつかれてる。


「裸隊長ゲットです!!」

「前から抱きつくな!暑苦しい!!」


 はは…。でも、水の中でもアストラでダッシュできるのズルい。そして鬼は最初に捕まった玄太に交代。


「よし、次はおれが捕まえるっすよぉぉ!てんぱい」

「ま、まて玄太!話せばわかる!!」


 気づけば俺は、玄太にジリジリと角に追い詰められていた。


「くっ、これ以上はもう逃げ場が…って、玄太、お前!前隠せ!!」

「え!?今さらっすか?てんぱいも、その手が邪魔ぁぁぁ!!」


「なんだよその堂々としたシルエット!!くっそぉおお!」

「がおぉぉぉ!!おとなしくおれに食われるっす!!」


「ぐおおぉぉ!!やめろぉぉぉ!!」


 全裸の玄太に全力で捕まった俺。いや、近い、当たる!この距離感で裸はっ!すると、向こう側でコンバインさんがなぜか風呂の縁にどーんと座り、腕を広げて仁王像みたいになっていた。


「我が裸体、もはや恥じるものなし!!」

「やるなコンバイン!!よし、俺も並ぶぞ!」


 その隣で、ラクターさんがゆっくりと立ち上がろうとして──豪快にズルッ!!


 バシャアッッ!!


「うおおおお!!滑ったぁぁ!!」


 ラクターさんてば湯船から出ようとした瞬間、背中から豪快に湯に突っ込んだ!


「たたた隊長!その体勢はまずいっす!全部丸見えっす!!」

「っぶは!なにがだ!?お前は何を見ている!?」


「か、貫禄を見てます!ありがとうございます!」


 なんか、もうツッコミが追いつかない!!なのに、笑いが止まらない。バカなことやって、笑い転げて、顔も体も真っ赤になってそれでも誰も止まらない。


「っぷはぁぁ……!」


 ふと天井を見上げた。蒸気の向こうに見える、王宮の高い梁。広くて澄んでて、どこか懐かしい匂いがした。


(好きだな、こういうの)


 俺たちは生きてる。あんなに必死で戦って、やっと今こうして肩を並べて笑えてる。


「よし!じゃあ次は俺が鬼だ!玄太覚悟しろ!」

「ハイどうぞ!てんぱいなら早く捕まえて待ちっす!!」


 笑って、はしゃいで、のぼせて、また笑って。くだらないことに全力出して、裸のまんまで笑いあえる仲間がいるって、最高にしあわせなことなのかもしれない。


「あほ!逃げなきゃ意味ねえだろぉ!!」

「てんぱぁい!早くおれを捕まえるっすよぉぉ!!」


 このバカみたいな時間が、ずっと続けばいい。


「いや、どっちが鬼だよぉぉ!」


 そんな風に、ちょっとだけ本気で願ってしまった。

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