第79話 勇士たちの再会
【アグリスティア王宮・東棟への路】
「かつて、騎士団の詰所として使われていた頃と変わっていなければ、奥の牢へ通じているはずだ」
ラクターさんの低い声が、夜の石壁に沈むように響いた。
その背には、無言でうなずくコンバインさん。完全に現役時代の顔に戻ってる。
「隊長、見張りです!5……6人です」
「よし。俺の弓の陽動でおびき出して数を減らすぞ」
「分かりました!ゴブリン狩りのアレっすね」
「……っふ、なつかしいな」
二人が静かに壁の影へ消えた。
【アグリスティア王宮・東棟裏】
王城の外壁沿いにひっそりと佇む東棟に到着した二人。
闇の中、矢羽が風を裂いた。
ピシュッ──
「っな……!?今の音は……?」
「誰かいるのか!?」
見張りの兵士たちがざわめいたその瞬間、ラクターさんの矢が再び飛ぶ。今度は足元、わざと石畳に当たって甲高い音を立てた。
「東だ!東側に何かいるぞ!」
「二人で確認に行け!」
警備兵の一部が持ち場を離れ、緊張が崩れた。
その一瞬を逃さず、コンバインさんが陰から飛び出す。
「ぐはぁっ」
「二人!今です、隊長!」
残る兵の三人が、何かに気づいたようにこちらを振り返ったが、振り切るより早く、ラクターさんの肘が喉元に突き刺さる。
無言で崩れる兵士。まさに、無駄のない一撃。さらにコンバインさんがもう一人の背後に回り、首筋をとって押さえ込む。
「おっしゃ、牢鍵ゲット!……騎士団仕込みの寝技、まだ忘れてませんよ!」
「……よし、あとは中の確認だ」
ラクターさんが静かに扉を押し開ける。古びた木扉の軋む音が、やけに長く響いた。
「気配なし。コンバイン!一気に牢まで駆けるぞ」
「っは!!」
巨漢二人が風のごとく兵舎内の奥まで走り抜ける。
「隊長、奥に灯りが。人影も……」
「うむ。間違いない。あれだ!」
ラクターさんの目が、牢の最奥にある鉄格子を捉える。
そこには、ぼろぼろの衣を纏いながらも、背筋を正したまま座る男の姿があった。白髪交じりの短髪の巨漢。軍服の破れた裾からは、まだ誇りが滲んで見える。
「……セス卿だ。間違いない」
ラクターさんが囁くように言った。
そして玉座奪還の鍵を握る、忠義の者たちとの再会の時が迫っていた。
【アグリスティア王宮・東棟・牢前】
「セス卿……久しいな!」
ラクターさんの低い呼びかけに、鉄格子の中の男がゆっくりと顔を上げた。
「……その声……まさか……!?」
「お目覚めいただきたい。玉座奪還の時が来た」
沈黙の後、牢の中の大男はゆっくりと立ち上がった。
「ラクター……お前が来るとは、思いもせなんだ……」
「立てますな?……セス卿」
ラクターを見たセス。自然とその顔付きが戦士の表情に変わってくる。
「ふむ。折れかけていたが、お前の顔を見たら力が湧いたぞ!」
「っふ……王の側近になって腕は鈍ってはおるまいな?」
「馬で駆ける足は鈍ったが、剣を振る腕は残っておるわ!」
コンバインさんが格子を破るため、兵士から回収していた鉄鋏を取り出す。
「他に、生存者は?」
「……奥だ。レミス卿と、ルード老!下の階には若い連中が数十人いる!」
「よし……!」
バチン、と錠が外れる。鉄扉が重く開くと、ラクターさんが中に踏み込んだ。傷だらけの騎士、レミス卿とぶっとい眉の学者肌、ルード老と無事再会。
「おぉ、ラクター!まだ……我らの国は終わっておらんということか?」
「相変わらず……カッコいいところ持っていくのぉ!将軍」
「っふ!貴殿らも変わらんな」
「……隊長!下に行って全員、連れてきます!」
「ああ!頼んだ!」
薄暗い牢の奥で、静かに立ち上がる影がいくつもあった。
玉座は、ただの椅子ではない。王を支える者たちがいて、初めて意味を持つ。その仲間たちが、今ここに再び、立ち上がろうとしていた。




