表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第6章:神の器の奮闘記 ~王国復興編~
78/157

第78話 神の怒りプロジェクト③

【帝国本陣・謁見の間】


 厚い石壁に囲まれた大広間。


 帝国の上層部たち、将官、参謀、そして中央評議会の老人たちが並んでいた。


 その中央に、ゲドが片膝をついている。


「というわけで、奴らは神の器とやらを担ぎ上げてきたようだ」


「神の器、か……」


 ざわっと空気が動いた。参謀の一人が、懐から一枚の書簡を出す。


「えー、ここ数日で、南部各地にこのような噂が飛び交っております。神が農場に舞い降りた、空を操る少年が現れた、と」


「馬鹿げた話だ」と一人の将官が嘲笑気味に言った。


「しかし、民は信じる。特に地方の村では、天変地異は神のしるしという信仰が根強い」


「事実、我々の前線基地では、神罰が落ちるとの理由で脱走兵すら出始めています」


「……ふん。効果覿面というわけか」


 ベールの影から声が響いた。高位評議官・ゼムリオス卿。帝国の参謀総長にして実質の国家運営の頭脳とされる男だ。


「ゲド将軍。貴殿の目で見て、神の器なるもの……存在に真はあると?」


 ゲドは少しだけ考えて、答えた。


「真偽より影響が重要かと。奴は確かに空を操る。見せ方次第では、民に神と思わせるには十分な現象を」


「つまり、力の正体が何であれ、利用価値はあるということか」


「……お察しの通り」


 ゼムリオスは静かにうなずいた。


「放置しておけば、偶像となる。それが庶民の心を掴み、やがて正統性を生む。帝国にとって、もっとも厄介なのは民意と信仰だ」


「すでに、司教からは『敵対を控えるべき』との意見も出ております」


 別の老将が言った。


「ならば、答えは一つ」


 ゼムリオスが、席を立ち、玉座の間をゆっくりと歩き出す。


「神の器は、破壊するな。捕らえよ。帝都へと連行し私の前で膝をつかせるのだ」


「生け捕り、ということですか?」


「我が膝下に置く。従わぬなら、無理矢理にでも……」


「……御意」


 沈黙が流れる中、ゲドの唇がわずかに歪んだ。


「……わたしの手で捕まえましょう」


(ふっ、これで堂々とあの親子を潰せるというものだ)


「感謝せねばな、神の器に」


 *******


【アグリスティア王宮・離れ】


 玉座の奪還作戦の話が進む中で、ふとラクターさんが少しだけ声を低くした。


「……ひとつ、確かめておかねばならぬことがあります」


「うむ?なんじゃ、将軍」


「王妃様は……いずこに?」


「あぁ……」


 まるっと王様が、一瞬、目を伏せる。なんか今、空気が一段階シリアスモードに変わった気がする。


「……そのことなんじゃが…」


「え?王妃様、どうしたんすか?」


 玄太がきょとんとした顔で聞き返す。


「王妃は……ゲドの寝室にでもいるんじゃなかろうかの」


「は?」


「ゲドの傍じゃ」


「ゲ、ゲド!?って、あのクソ野郎ゲド!?え、お妃さまが!?」


 思わず叫びそうになったけど、俺は寸前で声量を抑えた。さすがに今、取り乱すのはまずい。


「……なぜですか」


 ラクターさんの声は、いつになく低かった。剣より鋭い冷たい声だった。


「あの日、我が王宮が落ちたとき……妻は、我らを残して敵の手に走った。ゲドと通じていたのじゃ」


 静かな口調だったけど、王様の手は、震えてた。


「……信じたかった。だが、玉座の守りを、彼女が内部から破ったのじゃ。……まさか、まさかとは思っておったのにのう」


「陛下……」


 ラクターさんがひとつだけ、深く息を吐く。


「すまんのう、ラクター。わしは……わしは家族さえ、守れなんだ」


 その姿は、まるっとしてるくせに、なぜかいちばん王様らしく見えた。


 寂しそうにうつむく二人の王女に俺は、言葉が出なかった。アリスですら、黙って目を伏せていた。


 でも。


「……なら、取り返すっすよ!」


 そう言ったのは玄太だった。


「家族を捨てた人のことは、もう知らないっす。でも……奪われたものは、取り返す!ただそんだけっすよ!」


 こいつ……たまにマジでかっこいいこと言うな?


「……うむ。確かに」


 ラクターさんが、少しだけ笑った。


「玉座だけではない。奪われた名誉も、信頼も、民の未来も。全部取り戻そう」


「そして最後に、お妃様にはちゃんと……正面からご挨拶ですね」


 アリスが、小さくつぶやいた。


「うむ。王妃として……あやつが何を捨て、何を選んだのか。もう一度確かめようかの」


 まるっと王様は王女二人の肩を抱きながら、玉座の方を見た気がした。


「して、決行はいつなのじゃ?ココロの準備がの……」


「……いや、すぐです!この足で玉座を奪還します!」


「ふむふむ、今……な?なんじゃとー!?」


 *******


「ふむ……ゲドが帝都に向かった今が、好機というわけじゃな」


 王様が、どっしりと椅子に座ったまま言う。


「して、将軍よ。本当に奪還など可能なのか?」


「はい。城の構造も警備の動きも、今なら読みやすい。それに……」


「まだ何かあるのか!?」


「ここ、離れから近い東棟。未だ我が王家に忠義を誓った者たちが囚われている可能性が高い」


「ま、まさか……セスや、ラドニア卿たちか?」


「は……!拷問の痕などはあるやもしれませんが、彼らなら再起できましょう」


 へぇ……王様ってやっぱ、配下の名前ちゃんと覚えてんだな。なんかこう、ふわっとしてるから……いや、失礼。


「となれば、戦力の核もそろうわけですね。今が動く時、と」


 冷静に言うリゼリア王女。やっぱこの人、見た目より中身が年上説あるな。


「隊長、急いだほうがよいかと!」


 コンバインさんが拳を握ってグッと立ち上がる。


 その一言に、空気がピリッと引き締まった。


「うむ、そうだな」


 ラクターさんの声が、いつも以上に研ぎ澄まされてた。まるっと王様も、ふだんのぽよぽよな顔から真顔になってる。……おい、ちゃんとやれば王様らしい顔もできんじゃん。


「ただし、まずは東棟へ俺とコンバインで向かう。忠義の者たちを起こすのが先だ」


 静かにうなずくコンバインさん。その目はもう、完全に仕事人だった。


「え、二人だけで行くんすか!?」


 俺は思わず声を上げた。


「東棟……なら、その方がいいわ」


 リゼリア王女がすっと前に出て、冷静に言い切った。


「東棟は兵舎との動線が近い場所。構造を熟知している者が最速で行動しなければ、逆に危険よ」


「なるほど。たしかにお父様とコンバインさんなら最速で動けるわね」


 アリスもすぐに続いた。


 ああ、なるほど。人数の問題じゃないんだ。行くべきメンバーが限られてる、ってやつだな。


「大丈夫よ!」


 リシェル王女がポジティブ全開で言って、なぜか俺の手をぎゅっと握ってきた。


「だって、ここに神様がついてるんですもんねっ!」


「……いやいや!?俺、神ってわけじゃねえって!!」


「てんぱい、今だけ神になりきるんすよ!」


 後ろで玄太が、妙に爽やかに笑ってた。お前、わざと俺を焚きつけてないか?


「行くぞ、コンバイン」


「了解です、隊長!」


 とか騒いでる間にも ラクターさんとコンバインさんは、すでに扉を出ていた。


「お父様、コンバインさん!気を付けて!」


「ああ、アリス。ここは任せたぞ!」


 そして俺たちは、王族と共にその場に残された。期待と不安のせいで妙な静けさが漂ってる。


「じ、じゃあ、あの二人が側近を連れて戻ったら……」


 俺がつぶやく。


「そのまま玉座の奪還、というわけですね」


 リゼリア王女がすぐに補足してくれる。うーん、この子、見た目より絶対年上。


「で、その次はてんぱいの出番ってことっすね」


「なあ玄太……やっぱさ、そろそろ『神の器です』って顔の作り方とか、練習しといたほうがいいかな?」


「何言ってんすか!てんぱいはそのままで神々しいんで問題ないっす」


「そ、それって、お前にだけだろ……?」


 すると、ふいに王様がぽつりと呟いた。


「……まさかこのような展開になるとはのぉ」


 王女たちが振り返る。俺も玄太も、なんとなく姿勢を正した。


「パパ。これは神の思し召しに他なりません。気をしっかり持ちましょう!」


「すまんのぉ。農の民のお主らに、再び希望を託さねばならんとは……」


 いや、ほんとに、まるっとしてるけど、この人ちゃんと王様なんだよな。


「……取られたものを取り返すだけっすよ!王様!」


 玄太が小さく笑って、拳を握った。


「あ……」


「どうした?アリス」


「……い、今ね。笑ってる天貴が見えた……」


「お、アリスの未来の俺は笑ってんのか!なら大丈夫だよな?」


「……う、うん。多分……」


「……?」


 いや、多分ってなんだよ。未来視ってもっとこう、ピンポイントでビシッと断言できるもんじゃなかった?これはアレか?断言しちゃうと油断するタイプって俺の性格を読まれての、あえての曖昧表現とか?


「ま、確かに油断大敵だよな」


「そう、ね……」


 ……うん、きっとそうだな。そう思うことにしよう。うん。


 とりあえず、未来の俺が笑ってるっていうのは、たぶん悪いことじゃない……よな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ