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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第6章:神の器の奮闘記 ~王国復興編~
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第77話 神の怒りプロジェクト②

 ラクターさんが扉を背に静かに扉を押し開ける。


「……!」


 誰かいた。若い女の人だ。


 メイド服らしき格好で、机に何かの布を畳んでいたところだった。


「あら……?」


 ──ってやばい!気づかれる!


 と思ったその瞬間、コンバインさんが一瞬で距離を詰め、彼女の口を塞ぐ。


「……っ!ん……んっ!」


「静かに」


 コンバインさんが短く言う。ラクターさんが、彼女の耳元に顔を近づける。


「我らは敵ではない。王に用がある。通せ」


 目を見れば分かるのか、メイドさんの瞳が一瞬揺れて、それから小さくうなずいた。


 コンバインさんがゆっくり手を離すと、彼女は小声で扉の奥を指差した。


「はぁ…はぁ…王族の方は、あちらの広間に…」


「……見張りは?」


「玄関に二人……それだけですわ」


「……わかった。身の安全は約束する。お前も一緒に来るんだ。」


 ラクターさんとメイドさんが先頭を歩き、俺たちはそのすぐ後ろについていく。広間の扉の前に来ると、メイドさんが振り返り小さくうなずく。


「よし、開けろ」


 ラクターさんの指示にメイドさんが扉に手をかけて、そっと開けた。


 キィ……。


 軋む音に、全員が一瞬だけ息を止めた。


 で、中にいたのは、威厳に満ち溢れた気難しそうな王様……のはずだった。(天貴の勝手なイメージ)


「……あれ?」


 思わず声に出た。ていうか、出ちゃった。


 いたのは、見事にまるっこい。顔も体も性格も、全部まるっとしてそうな……王様だった。


 まっしろいアフロ髪に、ぷくぷくのほっぺ。チェアにふわっと腰かけてる姿は、どう見てもやさしそうな普通のおっちゃんだ。


 隣には、女の子が二人。


 一人は灰色の髪で、どことなく神秘的な雰囲気の大人びた子。もう一人は黒髪の元気そうな女の。年齢的にも小学生くらいか……?


「わわわ!なんじゃなんじゃ!賊か!!」


 まるっと王様ビビりながら席を立った。


「この子らだけは手を出さんでくれ!わしの命ならいくらでも差し出すのじゃ!!」


「陛下、待たれよ!」


 ラクターさん、ひざまずきながら一気に名乗る。


「私はラクター・エルグラード。かつて王家に仕えし者。今一度、あなたにお仕えに参りました」


 それ聞いた王様の目が、まんまるのまま見開かれる。


「……ラクター?」


「はっ!」


「あの、将軍ラクター?ほ、本当に……!?」


「ははっ!」


 ラクターさんはひざまずいたまま、ビシィと答える。


「それは、あの、一人で小隊を率いて海賊を追い払った、賊狩りのラクター?」


「……はっ!なつかしゅうございます」


「で、で、あの、メイドたちにキャーキャー言われてたモテ男のラクター?」


「……はっ?お、おそらく……その、ラクターです……」


「じゃあじゃあ……毎朝筋トレの音が城中に響いてたっていう、うおおおのラクター……?」


「……はぁ……それも、たぶん……私です」


「うおおお!間違いない!!ラクターじゃ!」


 王様、まんまるボディで机バンッ!て叩いた!うわ、なにこの人、ノリがすごい!


「本物じゃ!最強の将軍が帰ってきおったわい!!」


「ちょっと、パパ!落ち着いて!」


 灰髪の少女が、額に手をあてながらピシャリと注意。


「そっ……そうです!客人の前でみっともないです!」


 もう一人の黒髪少女が、完全に赤面しながら椅子から飛び上がった。


「アリス……あの子らは?」


 俺がそっと尋ねると、アリスは小声で答えた。


「王女様たちよ。リゼリア様と妹のリシェル様」


 ……え、あの、灰色のクール系が姉で、ツインテっぽい元気系が妹ってことか。っぽいな。


「パパはほんと、すぐ取り乱すんだから……」


 リゼリア様が、小さくため息。年齢はたぶん、アリスよりちょっと下くらい……だけど、落ち着きっぷりがすごい。


「と、とにかく、ラクター将軍!噂はお聞きしております。来てくださったんですねっ」


 椅子から飛び上がったリシェル様が、今にも抱きつきそうな勢いでラクターさんに詰め寄る。


「はっ。玉座を取り戻すまで、再び王家の剣となる所存」


 ラクターさんがビシィと頭を下げた。


「え……えぇ…………!」


 その姿に、リシェルちゃんの目がウルウルしはじめたぞ。やばい、泣くぞこれ。


「えぐっ……よかったあああ……ぐす……!」


 泣いた!こっちがもらい泣きしそうだよもう。


「パパも……リシェルも、まずは落ち着いて」


 リゼリア王女がスッと立ち、俺たちを見た。


「ここまで来たということは、何かしら動きを起こすつもりなのですよね?」


 お、おう。いきなり鋭いな。落ち着いてるどころか一番話が早いのこの子じゃね?


 すると、ラクターさんがうなずいて言った。


「陛下。姫君方。この者たちは、アルカノア農場の者、わたくしの信頼する仲間たちです。そして──」


 ラクターさんが……なぜか俺を見た。


「……この者が、神の器。この存在が帝国への牽制になります」


 そう言って、俺の方に手をかざした。


「ちょ、ちょっと待って!?え、なに今の急な振り!?」


「てんぱい、言っちゃってくださいっす」


 玄太、お前!いつものノリで俺を後押しすな!!


「神の器……あなたが?」


 王女二人が、ぽかんとこっちを見る。王様も「ほへぇっ?」って顔になってる。


「てんぱい……コホン。この方が王国の救世主となるんす!」


「ほほお!その少年が!?」


 でも、リゼリア王女は冷静だった。


「なるほど。読めたわ。神の器を利用して、帝国に()()()()()ということね?」


「そういうことっす!」


 今度は玄太が自信満々にうなずいた。おお、まるで俺の補佐官みたいだ……。


「これ、神の怒りプロジェクトって言うんすけど……」


「神の怒り……?そのネーミングで本当に大丈夫なの?」


 リゼリア王女はそのセンスにちょっと不安げ。


「あ、気にしないでください!名前だけなんで!」


「えっ!?てんぱい!?」


 とまあ、いろいろあったけど俺たちは無事、王族と合流。


「コホン。では王様!すべて説明します」


「おぉ!よろしく頼むぞ、ラクター将軍!」


 こうして、神の怒りプロジェクトの火ぶたは切って落とされた。

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