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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
序章:てんぱい最後の三日間
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第7話 てんぱい、異能をもつ(らしい)

 ブブブ…ブブブ…


 鶏小屋でエサを撒いていた玄太がポケットからスマホを取り出し、受信したメッセージを確認する。


「あ!てんぱいからだ!」


【新着:from てんぱい♡】

【昼、食堂で待つ    】


「て、てんぱい‥‥(笑)、果たし状じゃないんすから!」


 ニヤニヤしながらスマホにツッコみつつ、エサを撒く速度を一気に上げる玄太。


────ゴーン、ゴーン。


 農場内に昼休憩を告げるベルの音が響いた。

 いそいそと食堂へ向かう玄太。

 ランチ時は従業員がいっきに押し寄せるのでなかなか見つけられな…、くなかった!

 

 肩に黒くて丸っこいのを乗せて姿勢よく座るその後ろ姿…それは天貴とクータンに他ならない。


 玄太はぷぷっと笑いながら小走りでその席に駆け寄る。


「てーんぱい、お待たせっす!」

「おぉ、玄太!神託だ!!!」


 真面目な顔して“神託だ!”という天貴に、さらに笑いが込み上げる。


「あはは!もう…てんぱいてば!それじゃあてんぱいが予言者みたいっすよ」

「こ、こほん…ちょっと…」


 ちょっと照れくさそうに手招きをする天貴に、玄太はそっと顔を近づけクータンからの“最後の神託”を聞く。


 *********


「…ぇぇぇえええ!?!?天気を操作する能力ぅぅ!?!?」


 声を張りあげる玄太に食堂内の従業員が何人か振り返る。


「しぃーーー!声がでけぇって!」

「す、すまねぇっす!」


 二人とも顔を寄せ合いながらひそひそ声で話す。


「そ、それって、『相応の異能が授けられるはずじゃ』ってやつっすよね?」


 玄太がクータンの言葉をモノマネで再現する。


「それだそれ!俺が向こうへ行ったらそういう能力が使えるらしい…」

「マジっすか!ぱねえっす!天気が操作できるってったら…」


 玄太は少し考えて、ハッと気づいたように両手を口に当てる。


「農場のヒーローっすよ!!てんぱい!!」


 それを聞いた俺は手のひらにグーをポンッ!として、目を見開く。


「農場が欲しい人材ナンバー1のチート能力っす!」

「すげえ!雨も!晴れも!自由自在で…農場無双じゃねえか!!」


 身も心も農場愛に侵されている二人であった…。


「命名!スカイリンクなんてどっすか!てんぱい!」

「お、いいなそれ!」

 

 ゲーム好きの玄太らしいセンス、さすがのネーミングだ。


「で、スカイリンクはどうやって使うん…あれ?」

「あれ、クータン?さっきまでてんぱいの肩の上にいましたよ?」


 辺りを見回す俺と玄太。


 すると、食堂内の物販ブースのパンコーナーにたたずむ半透明の黒い仔牛を発見!

 急いでクータンを回収しに、パンコーナーへ向かってササっと小走りして、パンを見てるふりをしながらクータンに小声で話しかける。


「…おい、何してんだよ!」

「おぉ、ぬしらか!大変じゃ!」


 絶対、大変じゃないだろ、と瞬時に思う俺。


「我はこの“きゃらめるふらんす”なる食糧から目が離せんのじゃ!」


(っち、やっぱな。めざとい仔牛め…!)


 と、心の中で思いつつ、とっととキャラメルフランスを1本購入し席に戻る俺達。


 周りには見えないとはいえ、クータンが日常にいるその異物感ったら…、見慣れそうもない。


「我は栄養補給にそれを所望する!ぬしら、はよぉ戻って参られよ!」


 俺の肩の上でキャラメルフランスに期待感MAXの思念体クータンを見て、ニヤリとする。


「ほっほう…、この極上の母の味を所望するのだな?飢える仔牛よ…」

「て、てんぱい…(笑)」


(能力について色々と教えてもらうためだ。許せ…仔牛よ)


 食べ物で釣るのは気が引けるが、タイムリミットは近く手段は選んでいられないんだ。


「極上とな!?ぬしよ!それは甘乳パンとどう異なるのじゃ?」

「…え?…甘くてぇーっと、玄太、…どうなんだ?」


 しまった、そう来たかと、逆に質問されてあっさりと立場がゆらぐ。


「ぷぷ、てんぱい…、負けるの早すぎっす!」


 クータンの「腹が減って消えそう」という追い打ちに、天貴は「消えられては困る…。だろ?」と強がりながら速足で部屋に向かった。


 その後ろ姿に玄太はクスっとしながら静かに後を追った。


 *********


「ほう…甘乳パンの上位互換、というのじゃな?」


 クータンは初めてのキャラメルフランスを手に、警戒しながらクンクンと匂いを嗅ぐ。


「そうっす!練乳を煮詰めて、バターを入れたりしてキャラメルに進化するんす!」


 なるほど、キャラメルってそうなんだ、と玄太の説明に便乗する俺。


「そ、そうそう!母の味を濃縮させて、さしずめ“ばあちゃんの味”ってところだ!」

「てんぱい、それはちょっと違うんじゃ…(笑)?」


 ―――意を決してキャラメルフランスにパクつくクータン。


 その瞬間、彼の小さなお目目がカッと見開かれた。


「こ、これは、母の味より奥深い…、祖母の味というのも納得じゃ」

「‥‥だろう?ばあちゃんは偉大なんだよ」


 あ、完全に変な感じで伝わってる…と思ったが二人のやりとりを見てほっこりする玄太。


「ふうむ、しかし我には深すぎる…やはり、いつもの甘乳パンこそ至高じゃ」


 甘乳パンの牙城、崩れず――――


 ミルクフランスよりキャラメルフランスの方が80円高いので、実は好都合な天貴であった…。


「ところでぬしよ、能力の行使について頭を抱えておるのじゃろう?」


 キャラメルフランスにパクつきながら、クータンが俺の心を見透かすように語りだす。

 知ってて出し惜しみしてたな、性格の悪い仔牛め…、と思ったがおとなしく黙って頷くしかない。


「能力とは天の決めたことわり――すなわち、絶対的なルールそのものじゃ。意図的に阻害する力でも働かん限り、その実行は絶対なのじゃ…安心せい」


 ――――うん、分からん。


「ま、つべこべ言っても仕方ないってことだな‥‥分かったよ!」


 そう言ってキャラメルフランスを平らげ、ウトウトし始めたクータンを背に、俺と玄太はそっと部屋を後にした。


 いよいよ午後の作業がはじまる。これが終わればこの農場ともお別れ‥‥いや、この世界とも。


「なあ、玄太」

「…はい」


 玄太も空気を読んだのか、いつになく真剣な顔だ。


「俺が異世界に飛んだ後、クータンを頼む…。誰にも見つからずに、な?」

「…はい、三日でってやつっすね…」


 クダンは三日で死ぬ運命――――


 俺の部屋でひっそりと逝くクータンをほおっておくことはできない。


「なんだかんだ怪しい存在だったけど、悪い奴じゃなかったな…、だろ?」

「………いや、悪いやつっすよ」


 クータンとは仲良くしてたのに、まさかの一言に驚いて玄太の顔を覗き込む。


「あいつが…クータンが現れなきゃてんぱいは…ずっと、おれと……ここにいられたっすから…」


 そう言って黙り込んだ玄太の横顔が、やけに遠く感じる。


 不器用な俺には…かける言葉が見つからなかった。

ひとコマ劇場

天貴「おい玄太、今ちらっと見えたが、なんで俺の登録に♡マーク付いてんだよ!」

玄太「も~てんぱい、細かい事気にしすぎっすよ!」

クータン「そうじゃそうじゃ!」


天貴「……」

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