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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第5章:神の器の奮闘記 ~スカイリンク封印編~ 
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第67話 雨を育む山

 何から話そうか迷っていたら、セレヴィア女王が先に口を開いた。


「では……あなたたちは、なぜこの地に?」


 まあ、まずはそこだよな。順序として。


「えっと、ですね。少し前に、洞窟の地底湖に用があって来たんですよ」


 俺がそう言うと、女王は小さく首を傾げた。


「地底湖?」


「女王様、雨水が溜まって出来た湖です」


 心当たりがなさそうな顔に、ウォルがさらっとナイスフォロー。


「はい。その地底湖にある導流晶っていう鉱石が必要で、それを取りに来たんです」


 俺の説明に、女王は静かに頷く。


「でも、雨がひどくて洞窟に入れなかったのです」


 アリスが続けてくれると、待ってましたと言わんばかりに、ウォルが口を尖らせた。


「で、勝手に雨を止めちゃったってことね?」


(……こう聞くと、まあ確かに勝手ではあるよな)


 アリスが一歩前に出た。


「そして今回は、逆にこの山に降る雨が必要なのです。この山がどうして雨を降らせてるのか、その秘密が知りたくて!」


「この山の秘密……ですか」


 セレヴィア女王が少し目を細めると、空気がピリッと引き締まる感じ。横でミルルが、ウォルのマントの裾をきゅっと握っていた。


「ええ。さきほど洞窟で、核を持つ魔物に遭遇しました。それが、雨を呼ぶ力を持ってるって聞いて…」


 アリスがポーチから取り出したのは、あのアメフラシの核。それを見た瞬間、ミルルの目がきらりと輝く。


「それ!ミルルのみちしるべ!」


「……それは、アメフラシの核ね。この山に雨をもたらすために、私が創った精霊です」


 セレヴィアがその核に視線を落とし、静かに言った。


「女王様が作った…!?」


 アリスの顔に、驚きと……どこか納得したような光が差す。


「核がこの山全体に巡ることで、雨の循環が保たれていました。けれど今は……それとは別の理由で、循環が止まっています」


 その言葉に、ウォルがチラッとこっちを見る。


「つまり、あなたたちのことね?」


「……はい。自分勝手で申し訳ありません」


 俺が頭を下げると、セレヴィアはふっと息をついた。


「いいえ。でしたらその核を集めて帰っていただくのが、双方にとってよいことですね」


「集める……!」


 玄太がぽそっと言ったあと、口元に手を当ててこっそり囁いた。


「てんぱい。女王様、ひょいってでっかい核くれないんすかねぇ」


「ちょっと!そんな簡単にポケットから出せるわけないでしょ!」


 すかさずウォルのツッコミが飛ぶ。確かに玄太、モンスターボール感覚であっさり貰おうとするなよ?


「ええ、わたくしはそのきっかけになる力を精霊に与えて、雨で育てて大きくすることしか出来ません」


 セレヴィアの声は静かで、どこか厳粛だった。笑ってはいないけど、不思議と責める響きはなかった。


「核は与えるものではなく、育まれるものです。水と、雨と、時の巡りと共に」


「じゃあ、どうやって集めたらいいんだ?」


 俺が聞くと、セレヴィア女王はゆっくりと頷いた。


「う〜ん。それはぁ……アメフラシから回収するしかないですねぇ」


「マジか……」


「行こう行こう!ミルル、知ってるよ!アメフラシさんたち、いっぱいいるの!」


「えっと……その、せっかく育てたアメフラシなのに、狩っちゃってもいいんでしょうか…?」


「彼らは意思を持たない霊体。この山を元通りにしてくれるのなら、必要な分くらいなら目を瞑りましょう」


 要するにアメフラシって、この山の洞窟に放牧された家畜みたいなものか!?


「これ、綺麗だからミルルもたまに拾いに行くの!」


「へぇ、落ちてたりもするのか!」


 自然死や地形による事故で核が残るケースもあるらしい。まあ、掃除するついでに回収……みたいなもんか?


「よし、じゃあちょっとそこにお邪魔しようか!」


「てんぱい!こうなるもなんか楽しそうっすね!」


 いやいや、あいつ火の玉吐いてくるの忘れてないかお前。


「はい。アメフラシは自己防衛能力があります。核の育成には、多少の力も必要なのです」


「えっと……こういう言い方は気が引けますが……簡単な倒し方は!?」


 セレヴィアが静かに言う。


「アレを動かしているのは、身体内部の青い液晶体です。そこを狙えば、効率的に行動を封じられるでしょう」


「青い……液晶体?あ、アリスが矢で当てたところか!」


「姿の中心にある、青く光る球体のようなもの。それが核とは別に、彼らを動かすためのコアになります。まずはそこを狙って動きを止め、その後に核を安全に取り出すのが理想です」


「なるほど。火の玉吐かれる前に、サクッと狙い撃ちってわけか!」


「意思がないって事なら気がまだ楽っすね」


「でも、あの火は人間には普通に危険だから、油断しないでね」


 ウォルの忠告に、俺はうなずく。そう、火を吐いてくるってことだけは忘れちゃダメだ。マジで。


 ともあれ、やるしかない。核を手に入れるには、アメフラシとの戦闘は避けられない。


「天貴、いつでも行けるわよ!」


「おれもっす!」


 アリスも玄太も気合充分。じゃあ、俺も…!


「よし!じゃあウォル、ミルル!案内頼む!」


「アメフラシ討伐隊、出動っすね!」


 玄太と拳を突き合わせて、うんと頷く。


(水と、雨と、時の巡りと共に、か……)


 ……よし。その恵み、少しだけ、俺たちに分けてもらうとするか!

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