第66話 女王サマにご挨拶!
トプン!!と二人して飛び込むと、水の中のはずなのに、息苦しくない!??
むしろ、まるで空気の中をゆったり泳いでいるような、不思議な浮遊感が身体を包む。
「……お…?…おお?」
息もできるし、声が出せる!?
「なんだこれ!喋れるぞ!」
その声に、息を止めて鼻を摘んでいた玄太も気づく。
「あ……本当っすね」
「……おい、玄太。手、ちょっと離していいか?」
すると逆にギュウゥと手を握る力がさらに強くなる。
「やっ、だめっす!一生離さないでください!」
んぐ!俺の手、あとで痺れて動かなくなりそう。
そのまま俺たちは、ゆるやかに沈み……いや、落ちていった。
下のほうには、柔らかな光の層が広がっていて、まるで水の中に道があるみたいだった。
「う、うわぁ……」
ふっと意識が浮いたような感覚とともに、俺たちはふわりと地面に降り立った。
見上げると、水面が天井みたいに頭上でゆらゆらしていた。
「はえ〜〜…な、なんだここ……」
「ここ、本当にさっきの水の中なんすかねぇ?」
「うーん。どっちかっていうと、水の中から異空間にワープした感じかな……」
先に到着していたアリスが、きょろきょろと辺りを見回しながら言った。
「お、アリス。無事だったか?」
「ええ、問題ないわ!ところで男子二人、遅かったわねぇ?」
「あ、いや、心の準備ってやつ?」
「ふふん、びびってたんでしょ?」
……やかましい!と思いつつも、俺と玄太は目を逸らして、そっと手を離した。
(ふう。手がジンジンするぜ)
そして目の前には、水晶みたいな建物が……浮いてる!?地面に建ってるわけじゃなく、水の上にふわふわと並んでいる。
「……街、だな?」
アリスと顔を見合わせながらあんぐり。
「街っていうか精霊さんたちの集落、よね?」
透明な道の上を、小さな光の精霊たちが行き交ってる。中には子どもらしい姿も多くて、なんか、水の中の幼稚園みたいな雰囲気だ。
「お〜い!!」
そんな中、例の精霊がドヤ顔で戻ってくる。横には、さっき会ったミルルちゃんも。
「ちゃんと着いてきたじゃない。意外と根性あるのね!」
「ご招待、ありがとうございます」
「ここからまだどつか行くのか?」
当たり前のことを聞く、俺。
「行くに決まってるでしょ!」
「ウォル様ぁ~、この人たちはお客様ぁ?」
「ん~……ま、そんな感じかな。入り口まで案内したの、ミルルでしょ?」
「うんっ!あのね、てんぱいっていうんだよ!さっき声かけてくれたの!」
ミルルがちょこんと俺の横にくっついてきた。
え、なにこれ、天使?この子、かわいすぎんだろ。
「あ、てんぱいの隣!!ん…まぁ、そっち側は今だけ貸しっすよ」
玄太がむすっとしながら、俺の反対隣にぴったり張りついてくる。おい、ちっちゃい子にまで張り合うな。
「ふふ、なんだかにぎやかでいいわね」
ウォルは笑って、ミルルの頭をぽんぽんとなでた。
「じゃあ、さっさと案内するわよ。着いてきて!」
「ついてきて!」
ウォルがくるっと身体を翻すと、透明な道の上をスイスイと進んでいく。俺たちは慌ててそのあとを追いかけた。
「ここ、ちゃんとした建物もあるんだな……」
横目に見えるのは、透明な壁で囲まれた家っぽい何か。中では小さな精霊たちが泡で遊んでたりしてて、なんか平和な光景だ。
「ほんと……街っていうか、村みたいな……」
道の周りには、水草みたいにゆれる光の柱があって、泡が上にのぼってく。それはまるで、水中に浮かぶ天の川、なんてな。
「こっちこっち。ちゃんとウチの女王に挨拶してもらわないと。勝手に山を晴らした罪人としてね!」
「女王!?んで、罪人って!!?」
玄太が「やっぱ帰りたいっす」と小声でつぶやいたけど、はいスルー。
「大丈夫よ。優しい人だから。雷落とされるくらいで済むかも」
「怖いわそれ!!!」
そんな軽口を叩き合いながら、俺たちは街の奥のひときわ目立つ建物へと向かうことになった。
そこは、水晶のように透き通った、静謐な建物だった。まわりでは精霊たちがふわふわと泳ぐように動き、水音がかすかに響いてくる。
「おおおお……」
玄太が完全にぽかーんと口を開けて見上げていた。
中は外よりさらに静かで、天井にはゆれる光の帯。壁の向こうを、魚のような影がすいーっと通っていく。
「ここが……精霊の女王の家?」
俺がつぶやいた瞬間、ウォルがぴたりと立ち止まった。
「着いたわよ。ちゃんと礼儀正しくしてよね?」
くるっと振り向いて、ちょっとニヤッとした顔を見せるウォル。この人、油断ならねぇ。
「女王サマって、どんな人なんすか……?」
玄太の小声に、ミルルがニコっと笑って言った。
「えっとね~、ウォル様のママ!」
「え、じゃあこの人、王女サマなの!?へぇぇぇ」
俺と玄太、息ぴったりで叫んでしまった。
「そうよ?もっと敬っていいのよ?」
ウォルがどこか誇らしげに胸を張る。
「やれやれ、お姫様にしてはおてんばだ」
「てんぱい、それ死語っすよ」
「うるへー!」
……とか言ってたら、ウォルがいきなりキリッと振り返った。
「……さあ、入って」
ウォルのひと声で、俺たちは無意識に背筋をしゃんと正した。
中はほの暗くて、ひんやりしていて、どこか水の底みたいな空気。しんとした静寂の中、ひとつの声が響いた。
「……あら。お客様?」
水に溶けるように澄んだ声。その声の主は、水が渦を巻いて自然に形作ったような玉座の中央にいた。
水でできたようなキラキラしたドレスをまとってて、The女王って感じ。
「人間がここまで来るなんて、珍しいこともあるものね」
その声にはトゲはなかったけど、視線を細めてどこか探るような感じ。
「えっと……はじめまして。俺たち、雨を……というか、あの、結果的に止めちゃってて……」
俺がしどろもどろになってると、ぽんっと肩を叩いてくれたアリス。「落ち着け」って目が言ってる。
「ええ。分かりました。よく来てくれましたね」
女王は静かに歩み寄ってくる。
その一歩ごとに、足元の水がふわっと花のように咲いては収まっていく。
「私はセレヴィア。この山の守り手にして、雨の律を束ねる者です」
あっ、なんかすっごい立派な肩書ききた。
「私は、アルカノア農場のアリスと申します」
「俺は天貴!で、こっちは…」
「てんぱいの相棒、玄太っす!!」
「……ふふ。にぎやかなのは嫌いじゃないわ。さあ、話しましょうか」
こうして、俺たちは雨の律の本丸に、正面から踏み込んでいくことになった。




