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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第5章:神の器の奮闘記 ~スカイリンク封印編~ 
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第65話 水の精霊さん

「この女神人形!雨を返してって、たぶんそう言った!」


「あ、雨っすか?」


「まさか、この山の雨を止めたから……?」


 アリスが顔を上げた瞬間、空間の奥で水音がひとつ、ぽちゃん……と落ちた。


 気まずい雰囲気が漂う。


「……でも、雨ってただの天気じゃないすか?」


「この山にとっては、そうじゃなかったのかも。雨が封印であり、この地の循環そのものだったとしたら……」


「そ、それめっちゃRPGであるやつっすよ!?封印を解いたら古代兵器復活するとか、ラスボスの片腕だけ先に出てくるとか!」


「お前は黙っとけ!……でも、マジで晴らしたのが原因だったらどうすんだよ」


「でも、この女神像が生きてるわけないっすよね」


 そこまで言ったときだった。


 聖堂の奥、泉の水面がピチャッ!と大きく跳ねた。


「っ!?てんぱい、あれ見てください!」


 水面が泡立つ。霧が立ちのぼる。


 その中から、半透明で揺らぐような身体。あの時逃げた水の精霊の子どもじゃない。もっと大きくて圧がある、完全に大人って感じ。


「……ボス!?」


 突然姿を現したその青い精霊は、無言で俺たちをじーっと見ていた。


「……空を晴らしたのは……あなたたちなのね」


 その声は水の波紋のように、空間にこだました。


「あ、あの……ごめんなさい。知らなくて……」


 アリスが申し訳なさそうに頭を下げる。でも精霊はすぐには反応しなかった。


 俺も思わず一歩だけ前に出て、手を上げた。


「待ってくれ!本当にマジで悪気はなかったんだ!ただ、あのままだと山の中がずっと大雨で、こっちもけっこう必死でさ」


 俺の声が聖堂に響く。


「精霊さん、ごめんなさい」


 玄太もお辞儀しながら詫びを入れたけど、精霊は何も言わずに、ただじっと下を見て、なんかプルプルしてる?


(やばい、こりゃ怒ってるな。ていうか、怒ってるのに静かなのが一番怖いぜ)


 俺たちの喉がゴクっと鳴ったその時だった。


「……ぁ…」


「…あ?」


「……あ~もぉぉぉ!!そんな連続で謝らないでよ!!こっちが何も言えないじゃない!!」


 突然声を張り上げた精霊に、俺たちは目を丸くした。でも、 なんかキレ方が予想外すぎんか!?


「やっぱ、めちゃ怒ってるっすね…」


 玄太が恐る恐る後ろに下がる。


「……あのね。怒ってるよ?めちゃくちゃ怒ってるよ!?でもね!!怒る前に『ごめんなさい』って連打されると、逆にタイミング逃すの!!」


「そ、それは、なんかすみません……」


「あっ!また謝った!!あーもう!」


 ぷしゅー!とまた泡が弾ける。これ、完全に喋るタイプの精霊だ。


「はぁ。とにかく、話は聞いた。晴らしたのはあなたたち。でも、知らなかったってのも、嘘じゃなさそうね」


 さっきまでのピリピリした怒気は、ちょっと和らいでる……気がする。


「ただし!!こっちがどれだけ困ったか、ちゃんと説明するわよ」


「……え?説明するの?」


「するに決まってるでしょ!あなたたちが原因なんだから!!」


「で、でも私たちあまり時間なくて~…」


 その言葉にどうやらカチンときた精霊さん。


「はぁぁぁ?時間ないのはこっちなんですけどぉぉ?」


 精霊が即ツッコミ。ピシャリと水音が跳ねた。


「雨が止まったせいで水が流れなくなって、子供たちは不安で落ち着かないし、もうパニックよ!?それなのにごめんなさいって言って“じゃあまた!”って帰るつもりだったの!?」


「そ、そこまで言ってないけど……!?」


 俺が両手を上げて否定しかけた時、精霊はさらに前のめりで詰め寄ってきた。いや、水の上に浮いてるんだけど、ぐいぐい迫ってくる圧がすごい。


「言ってなくても空気がそうでしょ!!ごめんね~って手土産も置かずに帰る迷惑人!!」


 ぷしゅー!とまた泡が弾ける。


 おしとやかそうな外見とは裏腹に、テンション高め。


「……悪いと思ってるなら、とっとと雨降らして帰ってよ!!!」


 そこで玄太がふと思い出したように首を傾げた。


「アメフラシてよ?あぁ!そうだ、てんぱい!この精霊さんに聞いてみるっすか!?」


「なによ!こっちが頼んでるのに!そっちが質問する気!?」


 精霊がぶんぶん体を揺らしながら抗議の構え。だが、俺も負けじと前に出る。


「いや!違くて、俺たち用が済めばすぐにでもここから退散するんで、その時には元に戻せるんだけど…!」


「けど、なによ!?」


 吐き捨てるような声に、一瞬ひるみかける。でも、こうなりゃここで聞かなきゃもったいない!


「ここに、アメフラシって生物います?」


「はい!?いるけど!?それがなにか!?」


 精霊が目をカッと見開く。なぜかそんなの常識!と言わんばかりの全力のリアクション。


「ひょっとしてそいつの核って、雨を呼ぶ力とかあったりします?」


「あったりまえじゃない!アメフラシなんだから!」


 また泡がぷしゅー!っと元気よく弾けた。

 すぐさまその場にいた全員が顔を見合わせる。


 そして、俺は玄太の肩をバシッと叩いた。


「おい、聞いたか!やっぱりアイツの核を集めれば雨呼びの材料になるんじゃねえの!?」


「ほんとっすね!一気に謎が解けましたね!」


 興奮ぎみに口にすると、アリスも小さくうなずいて前に出る。


「私たち、これを集めてて…!」


 アリスは腰のポーチに手を伸ばし、さっき玄太が拾ったアメフラシの核を取り出した。


「んん?それ、どうして持ってんのよ!」


 精霊がぐいっと近づいてくる。声も近い。


「さっき、ここへ来る途中で拾って!」


「拾ったぁぁ?……あ~。またミルルねぁ!?あの、いたずらっ子!」


 ぷくっと頬を膨らませるような仕草で精霊が怒ってみせる。


「……ミルルって、もしかして俺たちがさっき出会った、ちっちゃい精霊?」


 どうやら、俺たちが出会った子どもの精霊には名前があったらしい。


「んまぁ、いいわ!あなたたち、この山晴らしちゃうレベルの人たちだし、争っても良い事なさそうだし!」


「あ~!それは晴れ呼びの……もがが」


 とっさに正直に言いかける玄太の口を慌ててふさぐ。


(良い流れ来たんだからバカ正直にいうなって!)


 流れを察したアリスが咄嗟に援護。


「もちろん、こちらも争う気は全くありませんわ!」


「……?じゃあ、私たちの町に案内するけど、変なことしないでよ?」


 精霊がくるりと宙で身をひるがえす。


「変なことって、たとえばどんな事っすか?」


 玄太が小声で聞いてきたので、俺はすかさず脇腹を指でつついた。


「あひっ!てんぱぁい!いや、聞いてみないと分かんないかなぁって」


「ったく、お前は!こういうときは黙って従うのが正解なんだよ」


「ん〜、じゃぁ着いてきて~」


 そう言って、精霊はポチャンと水の中へ消えた。


「…え?」


「ぇえ?」


 一瞬、誰もが固まって顔を見合わせた。

 水の中へすいっと行ったよな?着いてきてって?


「お、おいおい……俺たちもここに沈めって!?」


「てんぱぁ~、おれ泳ぐのはあんま得意じゃ…」


 俺と玄太がワタワタしてる横で、アリスが水辺にしゃがみ込む。


 アリスがそっと水面に手を伸ばすと、まるで吸いつくように指先を包み込む。


「ねえ、これ。濡れないし、冷たくないよ」


 アリスが手を水に入れながら驚いている。


「なにぃ!?おい玄太!お、俺たちも!」


「はい!てんぱい!」


 確かに水面に手を入れても、濡れた感じがまるでしない。むしろ、やわらかい膜に包まれたような不思議な触り心地だった。


「これ、入れってこと?」


 俺がそう言うと、アリスはすっと立ち上がり、こっちを見た。


「たぶんそうね。あの精霊、『着いてきて』って言ってたし」


 アリスは一度、俺たちを見たあと、今度はゆっくりと足を水に入れた。


 不思議なことに、靴も服も濡れない。


「うん!大丈夫。さぁ!行くわよ!」


 そう言って全身飛び込むと、吸い込まれるようにアリスの体が水の中に消えた。


「え、ちょっ!アリス!?」


 声をかける間もなく、女子達にに置いていかれる俺たち。


「ま、マジで行くっすか?」


 俺たちも、ためらいながらもう一度水面に手を当ててみる。


「よし。いくぞ、玄太!」


「ててててんぱいぃぃ!じゃあ手、つないで!!」


 振り返ると、玄太が目をうるうるさせながら両手を差し出してきた。


 ……なんだよその顔。怖いのか、甘えてるのか、どっちだ。ちょっと笑いそうになりながら、俺は片手を伸ばした。


「ほら。しっかり握ってろよ」


 掌が触れ合った瞬間、玄太の手がギュッと握り返してくる。思ったよりも力強い。


「ふう!てんぱいと一緒なら怖くないっす!」


 俺たちはビビりながらガッチリ手をつないで、水の中へ飛び込んだ。

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