表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第5章:神の器の奮闘記 ~スカイリンク封印編~ 
62/159

第62話 晴れしらずの山、再び

 再びやってきた、晴れしらずの山。


 メンバーは前回同様アリスと俺、そして今回は玄太もひっついて来た。

 装備はアリスは自慢の弓。俺の腰にはエレメタル製のスコップ、ブルーストライク。

 玄太はリュックをしょっての探索パーティ。


「てんぱいがまた倒れたらおれがおぶらなきゃ!」


 ……だって。


 今日はどうせスカイリンク使わねえっての!


 そしてこの山は、相変わらず湿った空気と、ぬめっとした岩肌。晴れ呼びの石の効果で雨こそ降ってないが、まさに、歓迎されてない感フルスロットルだ。


「ここが……てんぱいが導流晶を見つけた場所っすか?」


 玄太がじっと、山の中腹にぽっかり口を開けた洞窟を見つめる。


「そう。前はアリスと二人でな。スライムと鼠、そんで最後は地獄の地底湖で水中アドベンチャーだったぞ」


「大げさねぇ。地獄は言いすぎじゃない?……でも、まあ間違ってないかも」


 アリスがふっと笑って俺に目配せする。


 ……いや、マジでデッカイ鼠だけでも、アリスがいなきゃ詰んでたからなぁ。


(現代人にとっちゃ、猫くらいの大きさの鼠ってだけでアウトなんだよ!)


「まぁ、一回入ってるしもう怖いもんはねえ!」


 なんて、強がる俺。


「でも、その時って導流晶取っただけなんすよね?」


「えーっと、まぁ…」


「そうよ!取るだけ取って、速攻帰還!だって、あの時の天貴ったら、玄太が~玄太が~!ってもう大変だったんだから!」


「えぇぇ~!!?てんぱいそんなに…!?」


「はぁ!?俺そんなん言って……」


「て、てんぱい…おれ、嬉しいっす…」


 玄太を横目で見ると、マジで嬉しそうに赤くなってやんの。


「ん、いやまぁ、コホン……そうだな」


 まぁ、いいか。いや、正直言うとあのときは心配すぎて確かに余裕がなかったしな。


「ともかく!中に入る準備はいいな?」


「問題ないわ」


「雨呼び調査隊、始動っすね!」


 俺たちは暗光石を腰に下げ、再び洞窟へと足を踏み入れた。


 ********


「ゲド将軍!」


「なんだ。何か掴んだか?」


 晴れしらずの山。その名の通り、常に霧と雨に包まれていた山が、突如として晴れ始めた。その異変に気づき、ゲド一行は偶然にもこの地に調査で訪れていた。


「洞窟へ向かう林道で、農場の者らしき一行を確認したとの報告が!」


「なにぃ……?アルカノアの連中だと?」


「はい。青いツナギの男と、十五、六の娘。特徴からして、農場の者かと!」


「……よりにもよって、このタイミングで、あの二人がここに?」


 ゲドは眉を寄せ、濡れた山肌を見上げる。


「鉱石の発掘かと思われます。近辺から微弱ながら結晶反応も確認されています!」


「ほう……物資補給にしては、やけに踏み込みが深いじゃねぇか」


 ゲドは腕を組み、にやりと口の端を吊り上げる。


「この状況でわざわざ農場を離れるなんて、よっぽどの理由だろう」


 そして、空を見上げた。


「……気象を操れる奴なんて、そう多くはない。わざわざここを晴らせてまで動く理由はなんだ?」


 遠く、霧が引き始めた山腹の向こう。

 偶然のはずの遭遇に、ゲドは確信を覚えていた。


「……くくっ。面白ぇ展開になってきやがった」


「将軍、どうなさいますか?」


「奴らも手ごわい、慎重に追え。まだ手は出すな」


「了解!」


「奴らが何を掴むのか。しばらく、観察させてもらうとしよう」


 *******


 ──ポタ、ポタ、ポタ……


 天井から滴る水音だけが、無音の闇に響いていた。

 濡れた岩。重たい湿気。ひとつ踏み出すごとに、足元が少しずつ闇に沈んでいく。


「こっちは地底湖の方向、今回は鉱石の群生地を目指すから深部へ向かいましょう!」


 アリスが前を指差す。けど、少しだけ足がすくんでいるようにも見えた。


「え、深部!?ちょっと心の準備が……」


「ここまで来て心の準備も何もないでしょ!」


 そう言ってズンズンと進むアリスの尻を追って、俺たちは暗光石の淡い光を頼りに、じわじわと奥へ進んでいった。


 ぬめるような岩の感触、地下水のにおい、そして重くなる湿気。


「……なんか、前と空気が違う気がするんだけど」


 俺がつぶやくと、アリスも一度立ち止まり、小さく頷いた。


「ええ。前より色んな気配が濃い……」


「ま、まさか……前よりデッカイ鼠とか、出ないよな?」


「さあ……?」


「おい、嘘って言えよ」


 軽くツッコミを入れつつも、アリスの視線は真剣だ。


「違うのよ。冗談じゃなく、この洞窟ってずっと雨続きでほとんど情報が無いの」


「ってことは、とんでもないものが潜んでいても……」


「でっけえナメクジとか、いやっすね…」


 おい、玄太。そういう壮大な振りはやめろ。


「とにかく気をつけて。鉱石の群生地は、その力に寄せられていろんなものが集まるはず」


 ごくり、と玄太がつばを飲む音がやけに大きく響いた。


 そのときだった。


 「……ズルリッ」


 誰かの足音?いや、違う。岩が、ひとりでに軋んだような……


 俺はとっさに暗光石を掲げて洞窟の奥に目を凝らす。

 霧が濃く渦巻くその先に、なにかが「ゆらり」と動いた。


「……てんぱい、今、なんか……いたっすよね?」


「……ああ。いたな」


 次の瞬間、視界の闇の中から、低く、濁った「うなり声」が響いた。


「ぐぅぅぅ……ッ」


 うなり声と同時に、闇の奥からそれは姿を現した。


 ぬらりと光る灰紫の皮膚。まるで粘土細工のようにどろりと崩れた体型。そして、まるで溶けかけた仮面のような顔。


「……なんすか、あれ……」


 玄太が、震えた声でつぶやいた。


「ナメクジ……?いや!よく分かんない!」


「お、おい……!ナメクジって言ってたの、フリだったのかよ!」


 アリスが前に出て、警戒の構えを取る。


「くっそ、アリスでも分かんねえのか……!」


 俺は腰からブルーストライクを取り出して、一応構える。


(こんなん、役に立たねえかもだけど、やるっきゃねえ)


「アリス、玄太、いくぞ!」


「いいわ!」


「おっしゃあああああっ!」


 ジメジメした洞窟の中、なぞの異形との戦いが始まった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ