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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
序章:てんぱい最後の三日間
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第6話 てんぱい、悩む

 部屋に戻ってクータンを定位置の座布団にポフッと座らせると早速ウトウト始める。

 そして俺は机に持っていく物の候補をズラリと並べ、早速頭を抱え長考モード。


「野菜の種は確定。っと、あと二つかぁ…」


 ①薬。

(あると便利なのは間違いないが緊急性は無いか?)


 ②コンパス。

(土地勘ゼロの異世界なら役立つのか?日常で使ったことねえしな)


 ③テント一式。

(やっぱりこれか?稼げるまでは宿にも泊まれないし!あると安心感が違う)


 ④ライター。

(さすがに火くらいはあるよな。なんでこんなの買ったんだろ)


 ⑤万能折りたたみ式ナイフ。

(護身用もかねて…でも魔物とかに襲われても戦える気がしねえ)


 候補を一通り見つめて、俺は溜め息をついた。ありったけの貯金で換金できそうな貴金属を買うって手も…いや、さすがにそれは勇気が出ないし…。


 もしくは…!っと、父親の写真に目が留まる。


 写真の中では、いつものテンガロンハットをかぶった父さんが俺を見つめていた。


「やっぱ…これかな」


 そう言って俺はテンガロンハットを頭にかぶる。


 すると、トントンとドアがノックされ玄太が戻ってきた。台所にサッと買い物袋と大量のミルクフランスを置く。

 第一声で「てんぱい、決めましたか?」と来たので、俺は迷いを振り切るように口に出した。


「野菜の種、テント一式、それと父さんのテンガロンハット…あとはどうにでもなれ!…だろ?」

「テントっすね!やっぱてんぱいが向こうでいきなり野宿とかやってたらおれ、心配で眠れませんから!」


 そう言ってお釣りを返そうとする玄太に、「いや、お前が持っておいてくれ」と言いかけて、飲み込んだ。

 たかが数千数百円のお釣りだけど、こいつには金とか、そういう形をとるのは失礼な気がした。


(じゃあ、俺は玄太になにが…どんな、お礼ができるんだ?)


 台所で料理を始めた玄太の背中をボーっと見つめながら、「先輩」という立場に胡坐をかいて、玄太の好意に甘えてばかりの自分にため息が出た。


(とりあえず、今は終活するか)


 ササっと部屋を小綺麗に掃除し、スマホとPCの中身を整理する。

 

 ふと気がつけば部屋中には、ふわっと広がるスパイシーな香りが満ちていた。


「なにやら異国の香りがするのぉ?」


 クータンが目を覚ましちょこんと座りながら鼻をくんくんさせている。


「あ、クータンも食べるっすか?カレーっていうすんごい美味いもの!」


「否!」と即答し、机の上の甘乳パンを指さすクータン。


(揺るがないな…こいつ)


 そう思いながら俺はミルクフランスを取ってクータンに渡す。


「てんぱい、お待たせっす!さ、食べましょ!」

「お~!肉団子カレー!」


 玄太特製の肉団子カレーは、定番中の定番でいわゆる玄太飯の王道メニューってやつだ。


(ああ、これが食えるのも今日が…)


 いやいや、流石にこの思考回路しつこいな…。センチメンタルすぎるだろ、今日の俺!そんな自分にツッコミを入れつつ、カレーにパクついた。


「ん~!今日もうめぇな!玄太の肉団子カレー!」

「っす!このカレーまじ最強っすから!なんと!飽きてきたら肉団子をほぐしてキーマカレーになるんすから!」


 このセリフ、何度か聞いた。


「“もし”カレーが余ったら肉団子つぶしてキーマカレーに進化!」とかなんとか。

 しかし、玄太はこのカレーに飽きた様子もなく、余らせたところも見たことがないので、結果、肉団子カレーがキーマカレーになった姿を俺は一度も見たことがなかった。


「おい玄太!何杯食うんだよ!?ちょ、クータン!2本目は食いすぎ!!」

「も~てんぱい、細かい事気にしすぎっすよ!」

「そうじゃそうじゃ!」


 ったく、こいつらと住んでたらエンゲル係数がこの部屋の天井突き破りそうだぜ。

 …そんなこんなで、転生前夜はこの世界最後の夜とは思えないほど楽しく過ぎて行った。


 *********


「あー…朝か」


 この世界で過ごす最後の朝が、静かにやって来た。眠い目をこすりながら、いつものブルーのツナギに袖を通すと…ん?


「あ、てんぱい!おはようございま~!」

「おお、ぬし!ようやく目覚めか」


 朝っぱらからミルクフランスにがっつくクータンと、スイカにかぶりつく玄太。いつもなら種も気にせず食べてるのに今日は丁寧に種を集めてるな。


「玄太は朝っぱらからスイカか?」

「スイカはい作っても美味いんすよ!はい!てんぱいのミルクフランス!」


 玄太が満面の笑みでそれを差し出してきた。


「…いや、今日はちょっと…」


 返事を待たず、ミルクフランスは容赦なく俺の口に突っ込まれた。


「目覚めの一本っす!」


 玄太の得意げな顔が朝日を浴びて輝いていた。


 部屋から外へ出ると、そこにはいつもの穏やかなおやっさん農場。

 当然、と言えば当然で「俺の状況」以外はこの世界は通常運転だ。「今日は鶏小屋っす~、てんぱ~い」と泣く玄太と一時の”涙の別れ?”をして、俺はいつもの牛舎に向かう。


 今日の夜、俺はこの世界を去るらしい。それでも変わらない日常に従って、今日も俺はいつも通りの作業をこなす。

 正直言うと、めっちゃイヤだし逃げたくなる。でも多分どこへ逃げても無駄なんだろう。


「お前、誰だよ?なんで俺から“今”を奪おうとするんだ?」


 空を見上げ声に出して、“誰か”に抵抗してみる。俺に白羽の矢をたてた、俺の知らない“誰か”に。


(決まった…!)


「…ふむ?そのように急くならば、今すぐ飛ぶかの?」

「どわぁあああ!!」


 思念体のクータンが肩に乗って、「どうするのじゃ?」みたいな顔をしている。


「ふ…、仔牛よ、転生直前の悲しき青年の気持ちは分かるまい?」

「はて?ぬしは三日で命消えゆく我の気持ち、分かるのかえ?」


 クータンが遠い目でポツリと言った。


 ……しまった。


 完全に地雷を踏んだ!この勝負、勝てる未来が見えねぇのは予言者じゃなくてもわかる。


(にしても、三日で死ぬなんてひでぇルールだ)


「んで!?…今日は何用で!?」


 こんな時はとっとと話題を変えるに限る。


「うむ、最後の神託を伝えようと思ってな」

「さいごのしんたくぅ?」

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