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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第4章:神の器の奮闘記
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第50話 古強者を超えて

 ヒートアイランドの中を平然と進んでくる白銀騎士。


「近づかれたらなすすべがねえ!なんとかあいつが来る前に!」


「てんぱい!もうこれ、解除して逃げっすか?」


「いや、下手に背中を見せたらまずいだろ」


「そ、そっか……そうか!」


 その時、玄太の目がキラリと閃いた。


「てんぱい、雨っす!とびっきりのやつを一瞬だけ降らせて下さい!」


「……んあ?どういうことだよ!」


 熱も雷も効かないガチガチの騎士にそんなん効くのか?という俺に玄太は早口で説明する。


「てんぱい!今ここ、焼け野原みたいになってるっすよね!?」


「ああ!ヒートアイランドでフライパンMAXだ!!それで!?」


「じゃあ、この灼熱のフライパンに、冷たい雨を急に降らせたらどうなるっすか!」


「そりゃぁ、ジュジュって跳ねて……」


 俺はハッとする。


「そうか……気化爆発的な!?」


 灼熱の大地に雨粒が落ちれば、水蒸気が一気に膨張を起こす。


 まるでフライパンに水滴を落とすように。しかもこれは、異常気象クラスのスケールで!


「てんぱい、やっちゃいましょう!!」


「やるしかねぇ……か。俺達も多少ダメージ食らっちまうかもしれねえぞ?」


「はい!てんぱいと一緒なら怖くねえっす!」


「よぉし、玄太!俺から離れんじゃねえぞ!!!」


 両腕を天へ突き上げ、俺はスカイリンクを限界まで開放する。


「来い……!」


 ゴゴゴゴゴ……。


「ゲリラ豪雨!!」


 黒雲が一気に広がり、雷鳴が唸り声のように空を裂く。


 ──ザアアアアアァッ!!!


 滝のような豪雨が一瞬、熱された地表に叩きつけられた。


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチンッ、ジュウウウウウウ……!!


 あらゆる場所で瞬間的に蒸発が起こり、蒸気が爆発的に広がる。


「来る……!玄太、丸まれ!!」


「っひ!」


 丸まった玄太を、俺は体全体で包みこむ。


 そして、背中に熱を感じた瞬間に歯を食いしばると、大気がグンッっと揺れた。


 ──ボガァァァァァァァァァァァァァァン!!!


 超高温の地表+冷水=気化爆発。


 膨れ上がった水蒸気が周囲の空気を押し出し、爆音と共に中心から炸裂する。


 熱気、爆風、衝撃波。そのすべてが、騎士を包み込んだ。


 オオオオオォォォォォォン…………。


 白銀騎士の影は、爆ぜる蒸気の中で崩れていった。


 *****


 爆風が晴れると、そこには体の大部分を失った騎士の骸と青白い光を放つ剣が。


 その残った骸もサラサラと風に溶けるように少しづつ散っている。


「……終わった、のか?」


「てんぱい……や、やりました……!!」


 玄太が、ずぶ濡れの顔で笑った。


「まったく!俺のプロデューサーは無茶な提案しやがるぜ」


「ここぞって時に決める男なんすよ、てんぱいは!おれの究極のアイドルっすから!」


 俺たちは少しの間くっついたまま、さっきまでの事が嘘だったかのように真っ青な空をぼーっと眺めていた。


 その時だった。


 風に紛れるように、優しい声が古戦場に響いた。


【…………戦士よ……」


 風に散っていたはずの骸が、ふと止まる。


 そして、その中心。まるで最後の意志が宿るように、剣だけが青白く脈動を始めた。


「……ん?てんぱい?なんか言いました?」


「いや、あれ……」


 俺は崩れかけた骸に近づいて声のぬしを見下ろした。するとまた、胸の奥に直接語りかけてくるような声が響いた。


【……あなたたちから……懐かしい匂いがする……】 


 その声は、どこか遠くの風に混じるように、静かで、柔らかくて……。だけど、言葉の端々には拭いきれない未練のようなものを感じた。


【……私が守れなかったもの……あなたたちなら………きっと………】


「あの!あなたは一体……!?」


 そう言うと、剣の光が一層強くなり、次の瞬間、俺の目の前にすっとその柄が浮かんだ。


「てんぱい、これ……くれるって事っすかね?」


「わかんねえけど、多分……」


 俺が剣に手を伸ばしかけたその瞬間、一筋の風が吹いた。


 その風はどこか花のような香りがした。


(あれ……この風の匂い、どこかで)


 そして剣を手に取った瞬間、ふっと力が抜けたように骸はさらさらと崩れて消えた。まるで、俺に何かを託し終えたように、風へと溶けていった。


「あの人、満足できたんすかね」


「ああ。何か、大事なものを守ってた人だったんだな」


 ふたりでしばらく、骸があった場所を見つめていた。


 *****


 農場へ戻ろうと古戦場を後にすると、林を抜けた先でラクターさんと鉢合わせた。


「あれっ、ラクター隊長! 迎えに来てくれたっすか?」


「ああ……少し心配になってな」


 そう言ったラクターさんの目が、俺が手に持っている“青い剣”へと向く。


 その瞳が一瞬、大きく見開かれたのを俺は見逃さなかった。


「はっ!その剣……どうやって手に入れた?」


「え、あ……いや、その……色々あって……」


 俺がしどろもどろに説明しようとすると、ラクターさんは力が抜けたようにうつむいた。


「……いたのか?……騎士が」


「え?あ……はい」


 それだけをぽつりと返すと、ラクターさんは少し黙ってから、背を向けて歩き出した。


「………強かったか?」


 その問いに、俺は一拍置いてから、はっきりとうなずいた。


「……とても」


「そうか。……なら、いい」


 それだけをぽつりと残し、ラクターさんは前を向いたまま言った。


「さあ、帰るぞ。晩飯前には戻りたいからな」


「……はい」


「あの、てんぱい……?」


 いまいちピンとこない玄太が歩きながら、不安そうに俺の手を握る。


「うん。大丈夫。……帰ろう、俺たちの農場に」


(俺もよく分からないけど、さ)


「なんか悪い感じはしない……だろ?玄太」


 そう言って玄太の手を強く握り返した。


 *****


 帰りの馬車で、俺たちは手を繋いだまま、しばらく無言だった。


 だけど、その静けさに我慢できなくなった玄太が、突然口を開く。


「にしても、ラクター隊長もひでえっすよ!まさか、マジで幽霊出るとか思ってなかったっすからね!?」


「っば、おま!いきなりそれ!?」


 俺がツッコむと、すぐ横で手綱を握っていたラクターさんが、とぼけ交じりにぼそり。


「だから、言っただろう?『残留思念があるかもしれん』と」


「いや、“かも”っていうか、それ。確信アリっすよね?」


「玄太、お前……“かも”って言われたら、8割ぐらい出るやつだぞ」


「じゃあもう“出る”って言ってくれたほうが親切っすよ!!」


(いや。出るって言われたら行ってねえだろ?)


 そうツッコもうと思ったけど、やめた。


「おれ、てんぱいの腕の中で命の振動感じながら丸くなってたっすからね!?」


「はっはっは、天貴に抱いてもらったのか。役得だったな」


「いや、そうなんすよ!てんぱいから抱きしめてもらってラッキー……って、隊長!!!」


「わっはっはっは!」


 そうやって馬車の上でじゃれ合いながら、俺たちは揺れる景色の奥に、農場の風車を見つけた。


「……ま、俺は感謝してるぜ。玄太にな!」


「て、てんぱい……。ズズッ………プロデューサーっすから……当然っす!」


 そんな俺たちを横目で見ながら微笑むラクターさん。


「てんぱい!そういや剣なんて使えるんすか?」


「いや、使えねえ!」


「っすよね…」


 俺は青い剣先を見つめながら、少し考えてラクターさんに聞いてみた。


「ラクターさん!!この剣、本当に好きにしていいんすか?」


 ラクターさんは前を見たまま片手を挙げてひょいひょい振った。


「え、てんぱいどうするんすか!?それ」


「うん、俺でも使える何かに……ノーグさんに相談してみよっかな」


「そういやこれ、さっき青雷吸収してたっすよね」


「うむ、その剣はすべての属性を吸収するエレメタルで打たれている」


 属性攻撃吸収の剣?そんなやばいやつだったのか。


「炎も吸収してしまうんで普通の鍛冶職人では鍛えられんが、ノーグのアストラなら何とかなるだろう」


「え、あの人ただの発明家じゃなかったのか……」


「ん?あいつのアストラはクリエイター。鉱物を加工する能力だ」


 マジか。じゃあ、あの人にとって農具の発明っていう要素は、単なる趣味的なやつなんじゃ…。


「……お、てんぱい!農場見えて来たっす!飯だ飯だ!」


「ははは、そうだな!飯にしよう!」


「よーし、今日は俺もいっぱい食ぅ……」


 その時、突然俺は全身の力が抜けて、玄太の肩にダランと寄りかかった。


「て、てんぱいったら!今日は大サービスっすね」


「………」


「……てん、ぱい?」


「………」


「てんぱい!?」

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