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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第4章:神の器の奮闘記
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第47話 救世主再び!?

「お父様っ!!入ります!!」


 ドアがバーン!と開いたと思ったら、嵐みたいな勢いでアリスとコンバインさんがなだれ込んできた。


「農場中がザワついてるじゃない!天貴が神の器ってどういうこと!?」


「隊長!寮の方で騒ぎになってますぜ!」


「アリス、コンバイン!まずは落ち着け!」


 ラクターさんが両手を広げてストップをかけるも、二人の興奮はブレーキ不能状態。仕方なくポツポツと事情を説明していくと、だんだん空気が真剣になってくる。


「じゃあその噂、完全なウソってわけじゃないのね?」


「でもおかしいぜ。地下で二人きりで話しただけだろ? 誰が漏らしたんだよ」


 コンバインさんの疑問に、部屋の空気がズンと重たくなる。


 そして、ミミが沈黙を破った。


「全部ミミの責任かもでふ……」


 ぎゅっとノートを抱えて、しょんぼりMAXでぽつりと呟く。


「…………」


 シンとする部屋の中で、アリスがふっと歩み寄って、やさしく微笑む。


「大丈夫。ミミが広めたんじゃないって私は信じてるよ。ノートに書いただけなんでしょう?」


 ミミがコクリと頷いた。


 アリスは一歩、ミミに近づいて小さく笑った。


「じゃあ、誰が何のために広めたのか。それはちゃんと調べよう?」


「……ミミ、やりまふ!」


「ね、みんなも!お父様はみんなに一度説明しましょ!」


 アリスの声に、ラクターさんが静かにうなずき、コンバインは拳を握りしめて気合を込めた。


 俺も、そっとミミに目をやりながら頷いた。


 *****


 その時、玄太は農場の離れにある寮に、クータンを背負って乗り込んでいた。


「おいっ!てんぱいの変な噂流してるのはお前かっ!」


 玄太の言いがかりに近い怒鳴り声に、数人の農夫たちがびくっと振り向いた。


「な、何言ってんだぁ!オラぁなんも知らねえってば!」


「じゃあ、そこのおじさん!そのヒゲが怪しい!」


「ぬし、これは隠密とは言い難いの」


 クータンが冷静にツッコむが玄太には聞こえていない。


「ん?そう言うおめえは、神の器さまと親しいやつじゃねえか!」


 別の男が指をさして言うと、周囲がざわついた。


「ま、まぁ……親しいっていうか、それ以上って言うか〜?」


「ほぇ〜!じゃあ、あんた!神の器様に王国を取り戻すようおねげぇしてくれよ!」


「頼むよぉ!オラのかあちゃん、帝国の監視下にあってさぁ」


「んな!?てんぱいは便利屋じゃないっすよ!!」


 玄太の声が寮中に響く。


「ケチくせえ事言うでねえよ!救世主は民を助けてなんぼだろ!」


「王国を復興してくれるなら、おれはカフェの子に結婚申し込むんだ……!」


 農夫たちは完全に“都合のいい神の器”像で盛り上がりはじめていた。


「みんな落ち着いて!困らせては可哀そうだわ」


 そう言って、玄太に近づく鶏小屋の女。


「っほ、話が分かる人がいたっすね、クータン」


「ふむ……」


 その女は値踏みするように玄太をジロジロと見回しながらそっと耳元で囁いた。


「ねえ?神の器の人、天貴さんって言ったかしら?」


「てんぱいの事知ってるんすか?」


「まあね。だって、農場の主人が神の器を独り占めしてるって噂で持ち切りだもの」


「っは?しょーもな!何の話っすか?」


「だからぁ、ラクターがあなたから天貴を奪おうとしてるって事よ」


 そう言って、玄太に近づいてくる牛舎の女。


「ラ、ラクター隊長はそんな男じゃねえっす!!」


「そう思いたいわよね?でも私、聞いたんだよね」


「それ、私も聞いたわ?地下室でコソコソふたりきりで何かしてたって……いやだわ」


 不敵に笑いながら、玄太に近づく洗濯舎の女。


「地下室でって……なんすかそれ!?」


 ニヤリとする三人の女の言葉に、ぐっと言葉が詰まる玄太。


(そう。小さな不安が芽生えれば、それでいい)


「でもさ、もし本当に大好きなてんぱいが他の人に……」


(あとはその不安を私のアストラで揺さぶるだけ)


「ちがうっす!!てんぱいは、誰のものにも……ならない……」


 突然、野菜かごの中からクータンが飛び上がる。


「ぬしよ、気をやるでない」


 玄太の揺れる瞳が、一瞬だけハッと見開かれる。


 だが――


「でも……でもっす……!」


 三人の女の視線が、じわりと玄太を取り囲む。


「でも、確証はない。でしょ?」


「……確証はないっす」


「じゃあ、てんぱいの事、守らなきゃ」


「……当たり前っす。てんぱいは……誰にも奪わせないっす」


「何を言う!やつの目も心も、ぬしに向いておるではないか」


 クータンの必死の叫びもむなしく、玄太はゆっくりと振り返った。


「てんぱいを、取り戻しに行くっす!」


 沈黙。


 だが、その中から徐々に、ひとりふたりと手が挙がる。


「そうだ!天貴様が神の器なら、救世主として俺達を守ってくれなきゃ!」


「救世主さまがいれば、帝国なんて怖くねぇ!」


「家族と村を、俺達を守ってもらおう!!」


 声が広がり、気づけば玄太の背後には寮の農夫たちが十数人。誰も彼もが“神の器”に期待と妄信を重ねている。


(てんぱいは、おれのもんっ!そして、みんなの希望っす!!)


 クータンは野菜かごの中で、微かに身じろぎしたが、口は開かなかった。


「だから……だからこそ!てんぱいは、最強でなきゃいけねえっす!」


 玄太は拳を握りしめ、くるりと振り返る。


「てんぱいをラクター隊長から取り戻すっす!!」


「おおーっ!!」


 わらわらと寮から飛び出す農夫たち。その先頭には、野菜かごinクータンを背負った玄太がいた。


 農夫たちの後ろから、三人の女が目を細めてついてくる。


「ふふ……見事に広がったわね」


「不安から生まれたこの小さな火種、やがて大きな混乱となるのよ」


「……ゲド様も、きっとお喜びになるわ」


 *****


「じゃあ、お父様!一度、寮に行ってみんなに説明を!」


「うむ!急いだほうがいいな!」


 そう言って、全員がラクターさんの部屋を飛び出そうとしたその時だった。


「あっ、俺!その前に玄太起こしてきます!」


「俺たちは先に向かう!天貴も玄太君とすぐに来てくれ!」


「分かりました!」


 そう言いかけたままアリス達が屋敷の玄関を開けた瞬間、ものすごい声が飛び込んできた。


「てんぱいを返せー!!」


「神の器は、俺たちの救世主なんだー!!」


 屋敷の前では農夫たちの声が響き渡っていた。その叫びを先導していたのは、他でもない、クータンを背負った玄太だった。


「な、なんで玄太さんがここにいるの!!」


 アリスが呆れたように声をあげた。


「天貴が起こしに行ったんじゃなかったのか!?」


「いや、待て!ここは俺が話す」


 ラクターさんがゆっくりと階段を降り、玄太と向き合った。


「玄太君。これはどういうことだ?」


「ラクター隊長に告ぐ!おれのてんぱいをすぐに返してほしいっす!!」


「返す……?何を言ってる!天貴は今、君を起こしに……」


「とぼけてもダメっす!!地下でふたりきりで“何か”してたの、知ってるんすから!!」


 玄太の声が響き、周囲の農夫たちがどよめいた。


「それはっ……誤解でふ……」


 ミミが小声で前に出てくるが、玄太の目は揺るがない。そして、農夫たちの興奮も止まらない。


「神の器を解放しろー!!」


「帝国を倒してもらうんじゃああ!!」


「神の器様は私たちの希望よ!!」


 完全に神の器が推しの子となった農夫たちの熱が、屋敷を包み込んでいく。


 その様子に耐えられなくなったコンバインがギリッと拳を握って前へ出る。


「勝手な事言ってんじゃねえよ!天貴ひとりに押し付ける事じゃねえだろ!!」


 その時。


 玄太の背中の野菜かごがもぞもぞっと動き、ちょいちょいと手招きする前脚が見え隠れ。


「農場の主よ。我をそちら側へ。これは、少々厄介な事態ぞ」


「ク、クータン!?お父様!クータンをお願い!」


 ラクターは玄太の背中からひょいッとクータンを抱えて腕に抱いた。


「あ!クータンまで奪う気かー!」


 玄太の怒号に、さらに混乱しそうな場。


「落ち着けっ!全員いったん黙れって!!」


 コンバインが全身で抑え込み、ラクターさんが抱きかかえたクータンに尋ねる。


「クータンよ!何があったのか教えてくれ!」


「……これは、洗脳に近いものじゃ」


「洗脳!?」


 ミミが目を見開き、コンバインが一歩前へ出る。


「誰かが、玄太や農夫たちの小さな不安を利用し、怪しげな力で膨張させておる……」


「誰かってそれ、まさか農場の中に……?」


 アリスの問いに、クータンはゆっくりと頷いた。


「ふむ。こやつは農夫たちと話しておったが……話すそばから、みるみる洗脳されたのじゃ」


「それって、まさかアストラかよ!?」


 コンバインが眉をしかめる。


「これ、農場内に何者かが入り込んでるってことじゃ……!?」


「そうなると厄介だ。心を操る類の力は、目に見えん分、解くのが難しい……」


 アリスとラクターは顔を見合わせる。


「うむ、すぐには分からぬじゃろう。肝心の玄太に話は通じん。長期戦を覚悟するのじゃ」


 クータンの重たい声に、場の空気がズシッと沈む。


 その時、ミミがピクッと顔を上げた。


「いた……!」


 みんなが一斉にミミを見る。


「ミミ、どうしたの?」


 ミミは小さく息を吸い、震える指先で農夫たちの集団の後方の一点を指差した。


「……ミミ、聞こえたんでふ……いま、あの人……笑った……」


 静かな声でそう言ったミミの視線の先。そこには、集団の陰に隠れるようにたたずむ、鶏小屋の女の姿があった。


「な、なにを言ってるんです?それより神の器を早く出しなさいよ!」


「っく!」


「そうよそうよ!誤魔化そうたってそうはいかないわ!」


 牛舎の女が叫ぶと、また再燃するように農夫たちが騒ぎ出した。


「だめ、ミミ。しらを切られたら真相が分からないわ」


「うむ、収拾がつかん。ここは一旦……」


「一旦は無しっすよ!!てんぱぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 そのときだった。


「おい、こんなとこで何してんだよ、玄太!」


 皆が注目は一斉に玄関にくぎ付けになった。


「来た!神の器だ……!救世主様だ!!!」

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