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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第3章:てんぱいを追って ~アルカノア農場戦記~
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第41話 さよなら青パン、そして導流晶

 俺は玄太を救うべく導流晶が眠っている地底湖に潜って水流と絶賛格闘中。


(……くそっ!ここで引いたら、意味ねえだろ!)


 俺は岩にしがみついたまま、とっさに思いついたプランBに変更。


(このまま腕を伸ばしても、届かねぇなら、いっそ…!)


 俺は逆らうんじゃなく、あえて流れに乗るように身体を押し出す!

 勢いに任せて飛び込んだ瞬間、吸い込み口のすぐ脇の導流晶の塊に全力で手を伸ばした!


(……と、届けぇぇぇぇぇっ!!)


 指先が触れ、掴んだ感触があった。けどがっつり根付いてて、全然抜けねえ!!


(くそっ、ここで離すかよ……!!)


 足で水底を踏みしめ、腹筋に全力で力を入れると、叫ぶつもりで気合を込める!


(玄太が待ってんだよぉぉぉぉ!!)


 ミシッ……バキッ!


 岩の奥で何かが割れる音がした!


(きたっ!いける!!)


 次の瞬間、手の中にあった結晶がふわっと動いて……ゴリッ、と抜けた!


(…………!!)


 導流晶を根こそぎ引っこ抜いた瞬間、水流が一段と荒れて背中をグワッと持ってかれる!


(ヤバッ!すぐに離脱!!)


 岩を思いっきり蹴った勢いてその場から離れようとすると足に何かが絡みつく。

 見下ろすと、足首にまとわりついた何かがユラリと揺れている。


(っくそ!水草か!?いやこのタイミングふざけんな!!)


 「うおりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 焦りながら、全力バタ足でそれを振り払い、水面目指して一直線。


(……いっ、息がやべぇ……!)


 でも視界が歪んでくる。頭がくらっとする。でも!


(離すかよ、この導流晶だけは……!!)


 もう限界。


 でも意地と気合で、足を思いっきり蹴って水面をぶち破る。


「ぶはぁっ!!!!!!!!」


 勢いよく湖から飛び出した俺は、紫に輝く結晶を頭上に突き上げる。


「ぜえっ、はっ……!取ったぞぉぉぉぉ!!」


 その瞬間、アリスがまん丸い目で固まり、直後にバッと視線をそらした。


「天貴……!その、前がっ……!!」


「前!?魔物か!?」


 慌てて湖を振り返ったが、何もいない。


(あれ?じゃあ、前って……)


「……って、おい……!?うそだろ!?」


 ふと下半身に目をやると、履いていたはずの唯一の装備がなくなっている。


「うおおおおいっ!?どういう原理だよ!!」


 とっさに、手に持ってた導流晶で前を隠す。


 キラキラと輝く紫の結晶。

 魔力の流れを正常化させる奇跡の石が、まさかの最前線をガード。


(よし、ついでにここの魔力も正常化!って、冗談言ってる場合じゃねえ) 


「見てない!なにも見てないからっ!!」


 アリスは背を向けたまま、必死に目をそらしていた。声が若干震えている。


「ごめんごめん!今すぐ着るから!」


 慌てて岸に転がっていたツナギに駆け寄り、びしょびしょの身体をねじ込むように滑り込ませた。


「ふぅ……セーフ……!」


「いや、ぜんっぜんセーフじゃないわよ!?」


 導流晶を握ったまま、俺はその場にへたり込みながら、びしょ濡れの髪をかき上げた。


「……まったく。カッコよく決めるはずの導流晶GETの瞬間がただのパンツ消失エピソードになるなんて、誰が想像したよ!」


「いや、私は知ってたけど……」


「はい…?あ~、あれだ。未来視で!?さすがアリス!………って2回も見られてんじゃん!」


「……仕方ないでしょ!実際に‟起こる未来”が視えるんだから!」


「そりゃそうだ!」


 俺たちは、あははと笑いあうと、一気に安心感が襲ってくる。


 そして、お気に入りの青パンツが吸い込まれた地底湖を後にした。


(……いいんだ。パンツ一枚で玄太が救えるなら!!)


 *********


 帰り道、さっきのスライムが大鼠を溶かしている衝撃場面に出くわすアクシデント。


「うわあああああ!!溶けてる溶けてるぅぅぅ!!」


「死臭に反応したのね。スライムは世界のお掃除屋さんでもあるわ」


「理屈とかどうでもいいってレベルでエグすぎなんですけど!?」


 さっきまで天井でプルプルしてただけなのに、スライムの下にはすっかり液状化したネズミの残骸がじゅぶじゅぶと泡を立てていた。


「マジ無理…早く出よう。パンツ無しでこの光景はメンタルにくる」


「もうツナギ着てるでしょ!一旦忘れてよ、それ!」


「だって、スース―すんだもん!」


 洞窟を抜けるまで、俺のテンションはだだ下がりだった。

 そして外に出た瞬間、光がまぶしくて思わず目を細める。


「はぁ…晴れしらずの山が快晴なんて!改めてみるとすごいわ!」


 アリスが驚いたように、見上げた空はまるでずっと昔からそこにあったかのような、青一色の広がりだった。


「これは……天貴と玄太さんの絆の力だわ…!」


 アリスが女優のように両手を広げて空を見上げてわざとらしくつぶやいた。


「いや、晴れてるのは“晴れ呼びの石”の効果だし、そういうのとは別物じゃね?」


「言わなくていいから、そういうこと!」


 空の下でツッコみ合いながら、濡れた服のまま坂を下りていく。

 

(待ってろよ玄太。あと少しの我慢だぞ…!)


 俺は導流晶をぎゅっと握りしめ、ラクターさんの馬車を目指して歩き出した。


 *********


 馬車に揺られ、帰路を急ぐ馬車で一息つくと、聞き覚えのある声が響いた。


『……天貴、姉上。大事ないかの』


「っ!?」


 アリスの視線がぴたりと停止し、俺の頭の上を凝視する。


「え?クータン!?なんでここにいるの!?」


 俺はすぐに気づいた。俺の頭の上にクータンの思念体がいる。


『姉上、これは思念体じゃ。気に留めるな』


「留めるわよ!普通!?」


「アリス、クータンはこういうやつだ。慌てると損するだけだぜ?早く慣れるしかない」


「な、なるほど」


『……まぁよい。冗談を言ってる場合ではない』


 思念体の声が、急に真剣なものへと変わる。


『天貴、急げ。玄太の容態が悪化しておる』


「……っ!!すぐ戻るから玄太に待ってろって!」


 俺は馬車の荷台に飛び乗って、ラクターさんに声をかけた。


「ラクターさん!玄太がやばい!急いでくれ!!」


 前方を見つめたまま、ラクターさんは軽くうなずいた。


「おう、聞こえてる!振り落とされんようにしっかり捕まっとけ!」


 その瞬間、馬車がグッと地面を蹴るようにして、猛スピードで走り出した!

 風を切る音と、車輪のきしむ音。道なき山道を突っ切るようにして、俺たちは農場を目指す!


「耐えてくれ、玄太!もうすぐ、導流晶を持って帰るからな!!」


 その時、帰り道の向かう先で誰かが叫んだ。


「……おい、あれ見ろ。あの馬車、農場の奴じゃねえか?」

「っへ!ここであいつらを捕らえればゲド様から褒美が出るぞ!!」


 数人の兵士が、道端からこちらに馬を走らせてくるのが見えた。

 その後ろにはさらに馬上の兵士たち。全部で七頭、完全に囲む気だ。


「っくそ~!急いでるときに限って……!ラクターさん!振り切れますか!?」


「やってみるさ!つかまってろ!!」


 馬車がギュンッと横滑りしながら、兵士たちの横をすり抜けていく!


「うぁ!!この野郎!!」

「おい!逃がすな!」


 俺は後方を振り返りながら、ポケットの中の導流晶をぎゅっと握った。


(もう誰にも邪魔させるかよ……!)


 ごぉぉぉ……ッ!


 馬車の車輪が砂埃を巻き上げ、農場への帰路を疾走する。

 その後方、風に揺れるマント。七頭の馬を駆る兵士たちが、こちらを追いかけてきていた。


「っくそ、めっちゃいるじゃんか……!」


「お父様!数、七人!馬の速さもこっちと変わらないわ!!」


 アリスが振り向きざまに弓を構える。俺も馬車の端に手をかけ、スカイリンクの術式を起動する。


(行ける……ここから狙える……!)


 ガクンッ!


「うわっ、ちょ!馬車揺れすぎっ!!」


 馬車が岩に乗り上げてガタつくたび、視界がガクンとズレる!


「アリス、狙える!?」


「無理!精密射撃は絶望的!!」


「くそっ……!」


『絶体絶命じゃの』


 そして、後ろの兵士たちは抜け目がない。

 こっちの弓や青雷を恐れてか、馬を走らせながら決して一列にならず、三方から散開するように接近してきている!


「分かっててやってんのかよ……!」


 ビシィィィィ!!


 俺もアストラで青雷をしかけるが、馬車の揺れで狙いが定まらない。


「くそっ…!」


 そうでなくとも、兵士たちはまるでこっちの武器の性能を熟知しているかのように、縦横に距離を取りながらばらけて追ってくる。


 前に出過ぎず、でも離れすぎず、射線を絞らせないように走りながら散開する。


「これ、完全にこっちの攻撃対策してる追い方だろ……!」


 焦る俺の声に、アリスも小さくうなずく。


「多分、農場に突っ込んだ時の情報が伝わってる。私の弓と、天貴の青雷……」


「マジで厄介だな……!」

 

 そうこうしているうちにジワジワと背後から、七頭の馬が追いすがってくる。

 無茶な速度のはずなのに、向こうは慣れてるのか、じわじわ距離を詰めてきていた。


(まずい……玄太がやべえんだ。ここで足止めされるわけにはいかねえ!)


 俺たちの焦りと風がぶつかり合う。

 次の一撃、絶対に外せない!!次の一撃、絶対に外せない!!


 と、そのときだった。


(……あっ!)


 ふと、頭の中にあいつの声が蘇る。


「やっぱ大勢を相手にするときはコレっすよね~!」


「ほう、天貴のプロジュースの件か?」


「そうっす!範囲攻撃ってやつっす!」


 玄太が、クータンとベッドに寝転がって盛り上がってたあの時だ。


(あの時は話半分に聞いてたけど、大勢に有効ってやつ…!)


 後方から、馬のいななきと男たちのはしゃぐ声が混ざって聞こえてきた。


「お、おい!あれ見ろ、女乗ってるぜ!」

「おっしゃ!やる気出できた!」

「へっへ~!じゃあ俺は小僧の方いただきだ~!」


(……クソっ、調子に乗りやがって……!!)


「アリス!ちょっとだけでいい、時間稼いでくれ!」


「ま、前の大技、いくの!?」


「いや、ダウンバーストはこの速さじゃ間に合わない!」


「じゃ、じゃぁ!?」


「まだ誰にも見せたことない、異常気象……今こそぶっ放す!」


「……分かった!時間稼ぐわ!」


 俺は馬車の振動に耐えながら奴らの頭上へ向かって、両腕を広げ空へ集中する。


「あいつら……全部ぶっ飛ばしてやるよ!!!(………たぶん)」

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