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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
序章:てんぱい最後の三日間
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第4話 てんぱい、会議する

 俺は使った農具を洗うため、事務所横の水道まで足を運んだ。


 事務所の前では、おやっさんが退勤する人たちを毎日欠かさず見送っている。自分も作業で疲れてるのに、こういうところマジで尊敬する。


「おやっさん、お疲れ様です!」

「おう、天貴!おつかれさん!」


 おやっさんのすぐ後ろにある小さな洗い場で、俺は自分が使っていた農具を洗う。農具が少ない時はササっとここで洗うのが便利だ。


 そして…、クータンは俺の背中にぺったり張り付いて、おそらく眠っている。


「思念体まで送ってきて寝てるとは何事だよ…!」


 と小声でツッコんでおく。


「‥‥天貴?お前今日、なんだか楽しそうじゃないか?」

「そ、そっすか?…はは」


 やばっ。俺が自分の背中に()()()()()()()してるの見られたか?


「活き活きしてるっつーか、うん、まあいい事だ!」

「はは…そっすね」


(うん、玄太とクータンがずっと一緒にいて騒がしいのは確かだな!)


 その時だった。わはははと笑うおやっさんのもとへ、駆け寄ってくる一人の若者がいた。


 ―――――――玄太だ。


 なんだか俺、胸がざわざわするけど気のせいか?


「おやっさーん!お疲れさまっす!」

「おぉ玄太か! おつかれぃ!」


 いつもの退勤の挨拶…考えすぎ。と油断した、その瞬間。


「おやっさん、おやっさん!喋る仔牛って、見たことありますか!?」


「ぶっっっ!!!」俺は盛大に吹いた。


(玄太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?)


 ド直球、ドストレート。今日のぶつぶつタイムで出した答えがこれかよ!!!!!


「しゃべる仔牛だぁ〜?」


 おやっさんは、またバカなこと言い出したなーと、めんどくさそうに眉をひそめる。

 すぐ後ろで農具を洗っていた俺に気づいた玄太は、ウインク一発&「任せてください☆」のドヤ顔をかましてきた。


「そんなもんいるわけないだろ!玄太ぁ、夕方なのにまだ寝ぼけてんのか!」


 当然の回答だ。すぐさま“洗い終えた農具”と“玄太”を回収しておやっさんの元を去る俺。


 *********


「ふう、冷や汗かいたぜ玄太ぁ。いきなりあんな質問したってなぁ…分かるだろ?」

「だって…あれ…?てんぱい?なんで背中にクータンくっついてんすか!?そこはおれの席だぞ!」


 玄太は背中のクータンに気づき、そのまま引きはがそうと勢いよく手を伸ばした。

 …が、手はスカッと空を切った。さっきクータンが言っていた通り、本体を認識している玄太には“コレ”を認識できるらしいが、やはりそこは思念体なので触ることはできない。

 その騒がしさに、クータンがふっと目を開けた。


「クァ…騒がしい仔豚よ。おぬしが()()にしがみついたら、天貴が潰れるぞ?」

「くーーーーっ! 生意気な仔牛!!」


 はぁ、とたんに騒がしくなってきた。こんな時…こいつらを黙らせるには、やっぱりアレしかない。


「おい!部屋に戻る前に飯食って──購買で甘乳…じゃなくて、ミルクフランス買ってくか?」


 ピタッと口論が止まり、二匹(一人と一匹)は同時に俺の方を向いた。


「所望する!」「行くっす!!」


 …こういうとこだけ、息ピッタリだな…。


 *********


「さて。それでは只今より、第一回・てんぱい異世界転生会議を開催しまーす!」


 部屋に戻るなり、どこから取り出したのか真面目そうな黒縁眼鏡をかけた玄太が勝手に議長を名乗り、「てんぱい異世界転生会議」が始まった。


「転生ではないぞ。正確には()()()()じゃ」

「細かいことは、どーでもいいのっ!」


 うん、まあ、こういうのは大事だよな。ところでこんなホワイトボードどっから持ってきた?そんな俺の疑問をよそにサラサラと今までの情報と対策、他に知るべきことなどを書き出す玄太。


 玄太とこうやってバカ騒ぎできるのもあと二日か…。


「はい、それでは重要参考人、クータンさん!てんぱいが向かう新たなる世界について、証言をお願いします!」


(…おい、なんだよこの裁判みたいなノリ)


「ふむ、ここほど文化や化学は成熟しておらん。その代わり…」


 いきなり会議の核心を突く頼もしい議長。


「その代わり、あちらは科学のことわりに頼らぬ地。術と異能が人の生を支える世界じゃ」


 はい、出た。いわゆる異世界。もう何を言われても驚かない自分に正直驚いてる。

 そして、あーでもない、こーでもないと話し合いは続く。


「申しておらなんだが此度ぬしが向かう地は、ここほど穏やかではない。戦あり、時に魔物あり…、それが日常という世界じゃ。心して臨むがよい」


「はい、そこ!後出しは禁止!重要事項の伝達は速やかにお願いするっす!」


 議長げんたは何事もなかったかのように、ホワイトボードに「戦、きけん」と項目をサラサラ追加。


(ってか、おいおい…それ、かなりヤバい世界じゃねぇか!?)


「な、なあ?俺なんてすぐやられちまうんじゃないか?」

「安心せい。ぬしにはかの地で生きぬく為の”相応の異能”が授けられるはずじゃ」

「異能っ!?てんぱい、すげえっす!」


 なるほど、ある程度適応能力は与えられるのか…って、おい。なんなら俺、今一瞬、ちょっとワクワクしちまったよ。

 そんなこんなで俺があと二日の間に“しなければいけない事”がだいたい判明した。


 1.家族に「しばらく旅に出る」と言っておく。

 2.農場のおやっさんに休職願を出す。

 3.スマホやPCの中身を整理しておく。

 4.3つの“必要な物”を考えて揃えておく


 4の下には超重要と追記され、「後悔しない選択を!!」と、赤い太ペンで囲われている。


「俺の本当に必要なものってなんだ…、何を置いていったら後悔するんだろうな…」


 こうして「てんぱい異世界転生会議」は無事閉会。その後「会議中は我慢してた」とのことで、玄太とクータンの「甘乳パンの取り合い」が始まり、騒がしくも楽しい夜は更けていった。

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