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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第3章:忠犬はてんぱいを追って
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第35話 スカイリンクは、進化する

 小さな仲直りをした俺たちは、二人そろって屋敷に向かった。


 俺の少し後ろを、背中をわずかに丸めて歩く姿は、まだどこか緊張している。それでも、俺に歩調を合わせてくる足取りは、どこか弾んでいた。


「入れよ!みんなにちゃんと挨拶しようぜ!」


「じゃぁ、おじゃましまーす」


 玄太は遠慮がちに靴を脱いで、ちらりと屋敷の奥を見回した。初めて入る大きな屋敷に、目の奥がきょろきょろと落ち着かない。


「にしても、でけえ家っすねぇ……」


「ああ、大勢で住んでるからな! 俺もここで下宿してるし」


「へえ…………いいすね」


 その声はまだ少し鼻にかかっていて、泣いていたのがバレバレだ。そんな玄太の肩を軽く押して、俺はリビングのドアを指さした。


「行けよ。開けてみな?」


(ふっふっふ……玄太のやつ、驚くぞ~)


 玄太を誘導しながら、ニヤニヤが止まらない。


「え、入っちゃっていいんすかね?」


 少しだけ息を呑んだ玄太が、ドアノブに手をかける。耳が少し赤くなっているのが、なんか可笑しい。


 ガチャ……。


 ――その瞬間。


「あ!天貴お兄さん、おかえりなさい!」


「待ってたぜ!主役たちのお戻りだぁ!」


 どっと浴びせられた歓迎と歓声に、玄太は一瞬でフリーズした。目をぱちくりさせたまま、それでも、視線はしっかりごちそうテーブルへ。


 さすが、食いしん坊の嗅覚だ。


「おわああああぁぁぁっ!?」


 叫びと同時に、派手に一歩二歩と後ずさる玄太。


「ま、このごちそう見たらそうなるよな」


 テーブルの上には、骨付きの炭火ステーキがドーン!


 肉汁あふれるローストチキンの丸焼きがドーン!


 焼き立てのパンと、にぎらんサンドの山がドドーン!


 さらに、ブリリアントトマトとチーズの山盛りサラダに、黄金色に揚がった謎のカリカリフライ、その他色々からおまけのフルーツまで、全てがキラキラと光っていた。


「異世界ディナーすげえ!だれか、誕生日なんすか!?」


 玄太がぐいぐい袖でヨダレを拭いてると、その前にどっしりとした足音が響く。


「ようこそ、アルカノア農場へ。俺はこの農場をやってるラクターだ。よろしくな」


 ラクターさんが玄太の前に立ち、ニカッと笑った。


「玄太です!よ、よろしくお願いしまっす!」


(うわ、でけえぇ!異世界版おやっさんだぁ)


「今夜は戦ってくれた皆への感謝の宴だ。それと、君の歓迎会も兼ねて、な」


「え、おれの歓迎……?本当に?」


「それにね、天貴と玄太さんのおかげで農場を守れたこともね」


 アリスがふふっと微笑んで、しれっと追い打ち。


「おれとてんぱいの……!?そんなの……神イベントじゃないっすか!!」


 玄太のテンションは最高潮。


「さあ、思いっきり食ってくれ!」


 ラクターさんの号令と共に一斉に「いただきます!!」と叫んで、宴がスタート。


 気が付けば玄太は、右手ににぎらんサンド、左手にチキンの丸かじりスタイルで、両手をふるふる震わせてる。その目はもうキラッキラしてて、今にもこの世界に住民票出しそうな勢いだった。


(この国、滅亡してるから無理だけどな)


「ってか、お前、ちょっと落ち着け。初対面でその食い意地はだいぶ攻めてるぞ」


 俺が横からツッコむと、玄太は「むひゅっ」て言いながらチキンの骨をキレイに外した。


(っく……今のコイツに何を言っても無駄か)


 呆れてふと顔を上げたら、優しい顔で俺を見る女子二人と目が合う。


「天貴、本当にありがと!あなたの新しい技で農場を守れたようなものだわ」


「ほんとです!あの技、すごかったです!どかーんって!」


 アリスとシーダさんが、ヒーローを見るような目で俺を見てたけど、俺の中にはちょっとだけ、引っかかるモヤがあった。


(玄太が俺を支えてくれたところまでは覚えてる。そのあと二人で空に指さして……)


 隣ではにぎらん肉をほおばる玄太、そしてチキンをむしゃむしゃしてる玄太。


「……なあ」


 なんとなく口を開いた。


「俺の新しい技とか言うけどさ……正直、あんま覚えてないんだよね」


 ぽつりと落としたその言葉に、場の空気が一瞬ピタッと止まった。


「……え?」


「だってさ、玄太に“こうしろ”って言われた通りに指差したら……なんかドンって。以上!」


 全員がぽかんとした顔になって、開き直った俺に視線が集中する。


「もしかして天貴、あのとき何が起きたか本当に……?」


 アリスが戸惑い気味に言いかけたそのとき、元気な声が割り込んできた。


「ってことで!ここで説明タイムっすね!!!」


 玄太がずしゃっと立ち上がって、にぎらんサンドの最後の一口を口に放り込んだ。


「今日炸裂したてんぱい必殺の異常気象。その名もっ!!ダウンバーストっす!!」


「ダウンバ……?聞いたことのない言葉だな」


 ラクターさんが首をかしげる。


「ダウンバーストっす!上空に溜まった空気の塊が、地表めがけて一気に落ちてくる超下降気流っす!」


「空気の塊が……落ちるのか!?」


 玄太に負けない勢いでステーキにかぶりつくコンバインが目をまん丸にして聞き返す。


「そうっす!めっちゃ重たい空気がドォンッと落ちて、ズバァッて破裂して、ビュオーーッて爆風になるんすよ!火なんて一発っす!」


(ドォンッとか、ズバァッとか、こいつらしい説明だな)


「しかもこれ、実在する異常気象なんすよ!」


「で、それを……天貴がスカイリンクで強制的に呼んだって事か……!?」


 農場のみんながざわざわっとざわめき始めると、やたら俺に視線が集まってきた。


「俺は実際に起こる天候しか呼び出せないから、さ」


 そう言って小さく肩をすくめると、「へぇ〜!」っていう感嘆の声があちこちから飛んできた。


 玄太は「待ってました!」って顔でさらに加速する。


「てんぱいが知ってた天候って、晴れと雨、雷くらいっすよね?やべえやつといえば、台風くらい?」


「ああ。そうだな。ってか、普通はそんなもんだろ?」


「そっすよね!!だから、おれが世界中で実際に起こったあらゆる異常気象を調べてきたんす!その1つが今回のダウンバーストってわけっす!!」


「おい、ネットで調べて来たのか?賢いな、お前……」


「おれ、ゲームで詰まったら速攻調べるタイプなんす」


 小声で耳打ちする俺に、玄太はふふんと胸を張る。


「てんぱいのスカイリンクを強化するのは知識!なら、実在するやべえ天候の知識が多いほどてんぱいは強くなるんす!」


「スカイリンク、やっば……」


 自分のスキルなのに、思わず口から漏れたその言葉に、なぜか場がわっと笑いに包まれた。


「なるほどな……つまり、命令する内容次第で、まだまだ色々できるってことか?」


 ラクターさんが重々しくつぶやく。


「その通りっす!まだまだ使える異常気象、いっぱい持ってきてるんすよ!」


「知識でアストラが広がる……面白い発想だ」


 ラクターさんが口角を上げると、場のボルテージが一気に上がる。


「夢あるな、それ!」


「知識で強くなるのって、なんかいいな!」


 アリスも、目をぱちぱちと瞬かせながらうなずいていた。


「知識で……技が増える……?今まで、そんな発想なかった!」


 その反応を見た玄太は、「よっしゃ」と言わんばかりにポケットから折りたたんだ紙を取り出す。


「爆弾低気圧!スモッグドーム!コールドスナップに、ヒートウェーブ!てんぱいはまだまだ進化するっすよ!!」


「おお〜〜〜〜!!!」


 その言葉で、宴は完全にヒートアップした。


 俺はその盛り上がりのど真ん中で、自分のアストラの可能性に正直ドキドキしていた。


(そうか……俺のスキルって、そうやって広がるんだ)


 玄太が調べてくれた、知らない空。その知識が、俺に新しい力を与えてくれる。


(ひょっとしたら玄太、それを伝えるためだけにここへ……?)


「……玄太、ありが──」


「締めるのは、ちょっと待つモ!!」


 礼を言って感動のまま終わろうとしたこの話。


 前のめりに割り込んできたモーちゃんに


「もう一つ!モはこの仔牛さん……すっごく気になるモ!」


 次の瞬間、みんなの視線がソファのど真ん中でドヤ顔してるクータンに集中する。


「た、確かに!なぜこの仔牛はここにいるんだ?」


 ラクターさんまで眉をひそめてクータンをじっと見ている。


「任せるモ!テイマースキルで会話するモ!!」


 モーちゃんが片手を突き出すと、頭上にふわりと鼻輪のかたちをした金色の紋章が浮かび上がった。


「アストラ・モーモーコンタクト、発動だモ!」


 場の空気がピリッと張り詰めた次の瞬間。


「……ふぉ?牝牛の童よ、何用じゃ」


 眠そうで重たいけど、なぜか耳に残る声が場に響いた。みんな一斉に、目をまんまるにしてクータンを凝視する。


(モはモーちゃんだモ!君の味方だモ!)


「……それは頼もしいの。我はクータン、天貴と玄太に愛でられておる」


(それはすごいモ!天貴たちにもテイムの素質があるんだモ!?)


「ふむ、あやつらは良きあるじじゃ」


 ふたりが何か感じ合うように見つめ合い、て蹄と手のひらをぺちっと合わせると、空中の紋章がすっと消える。


「よし、通訳するモ!」


 くるっとみんなに向き直ったモーちゃんが、胸を張って宣言した。


「この仔牛さんはクータンだモ!天貴と玄太の牛さんで、ふたりにすっごく懐いてるモ!」


 その瞬間、場に変な静寂が走った。


「……えっと。今の通訳、いる?」


「いや、ふつうに喋ってたよな?」


「ふむ。そのとおり、我は普通の人語を発しておる」


 クータンのマイペースな一言で、モーちゃんがピタッとフリーズする。


「モモモ!?さっきのやり取り、みんな理解してたモ!?」


「モーちゃんこの子、テイマーじゃなくてもしゃべれる仔牛だべ~!」


 さすがにこの場で放置しとくわけにもいかず、俺は玄太にそっと目配せした。


「なぁ玄太。ちょっと、説明たのむ」


「えへへ……そっすね。すんませんモーちゃん」


 玄太が照れくさそうに一歩前に出て、みんなに向かってぺこりと頭を下げる。


「この子はクータンっす。おれと一緒にここに来たっす。見た目は仔牛だけど、中身はもう……ほぼ人間っす!」


「ふむ。我は天啓の使徒にして、ふたりの運命の導き手なり」


「いや、それちょっと盛ってるっすね!」


 笑いと拍手がわっと広がり、クータンはご満悦な様子。


「実は私も、さっきこの子が普通にしゃべっててびっくりしちゃったの!」


 そう言ってアリスがクータンの肩に手を置いた。


「じゃあ、その子もアルカノア農場の新しい仲間ってことだな!」


 ラクターさんの一言で皆がクータンの周りに集まってくる。


「っは!面白いやつが二人も来たな!俺はコンバイン!よろしく頼む!」


「私ライラよ!クータンすっごくかわいい!よろしくね!」


 小さな体から響く不思議な声と、おっとりした仕草にみんなくすくすと笑っていた。気づけば、もう完全に仲間として受け入れられてた。


「クータンは最初てんぱいが育ててたんすけど、おれが託されたんす!」


(玄太?そんなことまで、やけに詳しく説明するんだな?)


 玄太がクータンの頭にそっと手を置いた。


「……いわば、てんぱいとおれの……子供みたいなもんす!」


 わざとらしく涙を拭く素振りで『良いこと言った!』みたいな玄太。


「お、おい!その表現はちょっと誤解生むだろ!?」


 すかさずツッコんだ俺の横で、クータンものそっと口を開く。


「ふむ。玄太には母の味で育ててもらったの」


「ほらそこ!もっとややこしいって!!」


 みんながドッと笑って、どこかあったかい雰囲気に包まれていく。


「要するに、すっごい仲良しってことね!」


「なんかもう家族って感じです!」


 クータンも交えて、宴会の輪がもうひと回り広がった気がした。

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