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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
序章:てんぱい最後の三日間
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第3話 クータン、爆誕

玄太から一言

転生前の物語もいよいよ本番!

とっとと異世界行きやがれ!なんて言わず、おれとてんぱいとクータンとのドタバタ劇を楽しむっす!

「ふぅん、じゃあこの怪しい仔牛が俺のてんぱいを連れ去ろうとしてるって事っすね?」


 ジーっと目を細めてクダンを怪しむ玄太。


「てんぱいに迷惑かけるお前!何者だ!?」


 すると、ちょっと不気味な感じでクダンは答える。


「Qü'dhân…」


「…ん? く、くー…」


 相変わらずこいつ、名乗る時だけ変な発音。絶対雰囲気重視でわざとやってるだろ?そして玄太はちょっと考えた後、ポンっと手を打った。


「タン?…クータン、仔牛のクータンか!」


 あ、なんかクダンがクータンになっちゃった。まあいいか。


「ほう…我をクータンと申すか。…ふむ、なかなか風雅な響きよ。気に入ったぞ、仔豚の若人わこうどよ」


「おれは、コブタじゃなくてゲ・ン・タ!仔牛のローストにして食っちまいますよ!?」


「まあまあまあまあ!」と、俺は慌てて玄太をなだめて、座らせる。


「それにしても、てんぱいも水くさいっすよ!今朝の仔牛のこと隠してるなんて!」


 そう言いながら、玄太は勢いよく“俺んちにあったミルクフランス”の袋をバリバリ開けてぱくっ。


「おやっさんにバレたら、コイツが可哀そうなことになりそうって…だろ?」


「て、てんぱいってばやさしいっす!おれ、一生ついて行くっす…!」


 玄太の目がまたウルウルしてくる。


(ウルウルしてるけど、ミルクフランスを食う手は止まらない)


 そんな俺達をよそに淡々と話しだすクータン。


「悲しむでない。この若者は天に選ばれたのじゃ。それは栄誉なことじゃ」


 そう言いながら、クータンも勢いよく最後のミルクフランスの袋をバリバリ開けてぱくっ。


(あ、最後のミルクフランス!俺の昼飯…)


 その言葉を聞いた途端、真顔になった玄太は再びジーッと声の主をにらみつけた。


「…おい、クータン!」


「何用じゃ?…これはやらんぞ?」


 玄太は“そそそっ”と無言で距離を詰め、クダンの目の前に座り込んだ。


「それって、絶対にてんぱいじゃなきゃダメなんすか!? モグモグ…」

「決定事項じゃ。モグモグ…」


「てんぱいは、いつ戻ってこれるんすか!?…モグッ」

「使命を全うすれば、おそらく…むぐ…」


「そこでは、ここと連絡取れるんすか!??」


 その質問で、クータンは衝撃の一言を放つ。


「無理じゃ。地球ここではない、そもそも次元が違う全くの異世界じゃ」


「…………は?」


 地球じゃない?異世界?この仔牛いま、さらっと何を言った!?戸惑う俺をよそに、その衝撃回答にもまったく動じない玄太。


 ミルクフランスを頬ばりながら、さらなる質問を連発しヒートアップ!


「で、それってどこから行くんすか!? モグモグ…使命ってなんすか!? モグモグ…」


 俺の頭にずっと引っかかってる疑問を、玄太が全部、いや、マジで全部ぶつけてくれる。


「あ!ところで持ち物は何か持っていけるんすか!? もぐもぐ…ゴクッ」


 お、そこ大事!よくぞ聞いてくれた!と耳の穴をかっぽじる。


「天は3つまでの持ち込みを許しておる、ただし3つまでじゃ、これは絶対的ルールじゃ」


(なるほど、って‥‥っち!たった3つかよ!)


 なんとなく漂っていた嫌な予感は的中した。最初から「この世界と縁が切れる」と言っていたから、“アメリカ”とか“フランス”とか、そういう次元の問題ではなさそうな気配はあったが、まさか異世界とは。


 それにしても、二人(いや、一人と一匹)のやりとりは見ていて楽しくて楽しくて飽きない。


 正直、やり取りが早すぎて内容全部は覚えてないけど、ひとつ、確かに聞き逃せなかったのは…


 ──電子機器、持ち込み不可──


 …えっ、それ。スマホも? ノーパソも? 充電器も??


 3つまでというルールだが、電子機器などあちらの世界には存在しない素材や摂理が関りそうなものは、存在そのものが否定されるらしい。


 もし逆に向こうからこちらへ転移する場合、魔法物資などが否定されるのと同じ道理だと聞けば納得。


 そうなると、俺には何が必要か?


「…ここはかなり悩みそうだ。」


 にしても、使命がどうのってだけでも震えるのに、向こうではスマホまで使えないとか、それモーレツに不安なんですけど!?


 ゴーン、ゴーン。


 昼休憩の終わりを告げるベルが、農場に響きわたる。


「我は、少し眠る」


 そう言い残して、クータンはちょこんと丸くなり、そのままスヤスヤと眠りについた。


 俺と玄太は顔を見合わせることもなく、何も言わずに午後の作業へ戻る。いつもはおしゃべりに花が咲く玄太も今日は作業中ずっと「ぶつぶつぶつ…」と、独り言を言いながら作業している。


 あーでもないこーでもないって、脳内シミュレーション中なんだろう。俺もあえて何も話しかけずに作業に没頭した。


 玄太と作業分担が別れたあとも、いつものように農場をまわり、いつものように作業をこなす。


 するとその時。


「…ほぉ、この営みがこの世界でのおぬしの使命なのか」


「ん?ああ、使命ってか仕事な? …って、はぁ!?」


 ふと声のする方を振り返ると────クータンが、ちょこんと天貴の肩に乗っていた。


「な、なんでここにいんだよ!? 部屋で寝てたろ!!」


「これは実体にあらず!わしの精神だけが形を成した、いわば思念体のようなものじゃ」


 思念体って…、いやいや勘弁してくれ。へんてこな仔牛を肩にのっけて作業してるところ他の人に見られたら俺が色々疑われる。


「ふむ。我の本体の存在を認識しておらぬ者には、これは見えぬ。安心せい。」


 なるほど~って感心してる場合じゃない。


「用があるなら、さっきみたいにテレパシーでよくね?」


 そう言うと、クータンはちょっとだけ目を細めて呟いた。


「三日しか生きらぬ命じゃ。せめてこの世界を、目に、心に、体に刻みたいのじゃ」


 …っち、泣き落としかよ。


 とはさすがに言い返せなくて、俺は無言のまま肩をすくめた。にしても、さすがは思念体。肩に乗っているのに、重さはまったく感じなかった。


「ま、特に邪魔しないならお好きにどうぞ!」


「ふむ、悪いの。おぬしの素養を見極めたいのでな…」

「そよう~?なんじゃそりゃ」


 クータンは「気にするな」とだけ言って、肩の上でポスンと座ったり、背中へ移動したりして遊びだした。


 俺はため息まじりに干し草を集めるための“スキ”を手に取り外に出る。すると、まるで俺の気持ちを映すように空が少し淀み始めていた。


「ぅん?軽く降りそうだな…」

「ほう…、ぬしは空の機嫌を読むのか」


 空が曇れば雨が降る。そんなの、ただの常識だ。


「んなわけあるかっての。はぁ、今から外作業なのに降られたらめんどくせぇ…」


 クータンは、俺の肩の上でじっと空を見つめていた。


「ふむ、底知れぬ不安の色…。ぬしと空と、心の波が呼応しておるようにも見えるのぅ」


 そんなのはみんな同じだろ?そう言いかけたが話が長くなりそうなので喉の奥で飲み込んだ。


 クータンはまだ空を見ていた。気にせず俺は、干し草集めの作業を始める。


 だけど、いつもより風の向きが少し気になった気がした。

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