第15話 忠犬、再起する
「てんぱいはおれを選んでた!三つの選択におれを……」
その事実を思い出すたび、うひゃあぁぁぁぁと布団の上を転げ回る。しかし5分と立たずに「こんなおれなんて」と、情けなさに襲われてシクシクと布団にくるまる。
(ほんとおれ、情けない)
そして朝が来る。
食う。働く。食う。甘乳パンを買う。クータンに渡す。
ついでにおれも食う。
毎日、その繰り返し。
「てんぱい、何してんすかねぇ?クータン」
クータンが思念を飛ばしてる間だけが、今の生きがいだった。
「え、てんぱいの野菜の種、芽が出たんすか!?うしっ!」
「へえ、農場の仲間?いっぱいいるんすねぇ」
そして、匂いが染みついた布団も、枕も、みんなの記憶からも……てんぱいは日に日に消えていく。
「天貴?だれだっけ?」
そんな声が、農場でふと耳に届くたびにそいつを睨みつける。
でも、何も変わらない。
(じゃあ、そうやっててんぱいが消えていく世界を受け入れるかって?)
「否………っす!!」
というわけで、サッと黒縁眼鏡を取り出した。
「それでは只今より、第二回てんぱい異世界転生会議を開催します!」
「……本人もおらぬのに、何を決めるのじゃ?」
首をかしげるクータンに、玄太はビシッと指を突きつけた。
「今回の“てん転会議”は、今まで集めた情報からてんぱいの近況をまとめるんす!」
「ふむ」
キョトンとするクータンを横目に、玄太は部屋の隅からホワイトボードをゴロゴロ引っ張り出してきた。
「ではまず、てんぱいはあっちでも農場で世話になってるんすよね?」
「そのようじゃの」
「じゃあ、その農場の女子はアリスって子で……」
「……」
マーカーをキュキュッと鳴らしながら、今までクータンが持ち帰った断片情報をササッと書き出していった。
「よし、できたっす!こんな感じっす!」
【てんぱい異世界情報まとめ】
・アルカノア農場ってとこで働いてる
・アグリスティアっていう王国らしい
・農場にアリスって女子がいる(※てんぱい狙いの可能性あり・要警戒)
・農場には仲間がたくさん(※誰かてんぱい狙ってる可能性あり・要監視)
・てんぱいの野菜はうまく育ってる
・スカイリンクはゲドってやつの陰謀で使えなかった(※ゲド、ブラックリスト入り)
・最近アグリスティア王国が危機?(※情報不足)
玄太はホワイトボードを見ながら、腕を組んで唸った。
「っふぉ、こうしてみると理解が深いの。ぬしは愉快なことをする」
「う~ん、てんぱい本人の情報が圧倒的に足りないっすねぇ……」
もう一度、書き出したボードをにらみつける玄太。
「あ!大事なこと忘れてたっす!」
慌ててマーカーを握り直し、一行を書き足す。
・青いパンツを履いていった(重要)
「とりあえず、よし……っと!」
ふうっとひと仕事終えた顔をする玄太。その時だった。
ピコーン。
クータンのツノが、満タンチャージの合図を響かせる。
「来たっ!」
即座に玄太は正座すると、神妙な面持ちでクータンを見つめた。
「クータン!お願いするっす!」
「ふむ。やむなし」
クータンはふわりと目を閉じると、また体がほんのりと光を帯び始める。玄太は両手をぎゅっと握りしめ、じっとその光を見守った。
(てんぱい……今、どうしてるっすか)
*****
異世界・アルカノア農場。
(ふむ……これは、ただごとではないの)
クータンが降り立った先、そこにはいつもと違う重苦しい空気が漂っていた。農場の中では農夫たちが動き回り、立ち込める煙に巻かれている。
「アグリスティア王国が堕ちた!!」
風に乗って男たちの声が聞こえる。
(戦か……)
そして畑の端では、天貴が空をにらむように立っていた。
「こんな時に、天候なんかじゃろくに戦えない……何も守れねぇよ」
クータンはその姿を、静かに見守った。
(むぅ、限界じゃ)
思念体が活動限界を迎えかけた、その時だった。
「……クータンか!?玄太の頼みで来てるんだろ?」
クータンの存在を感じ取った天貴が、こちらを振り向く。
「あいつに伝えてくれ!もう俺の事は忘れて、自分のために──」
そこまで聞くと、クータンの体はふわりと光に包まれ異世界からフッと消えた。
「自分のために、生きてくれ……玄太」




