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忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」  作者: 竜弥
第1章:忘れ物の日々
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第13話 忠犬、キレる

 ピコーン。


 クータンのツノが光った。その瞬間、俺はズザザッと正座する。もはやパブロフの玄太。


「クータン!」


 最近になって、クータンに便利機能が搭載されたのだ。思念体パワーが回復すると、ツノが一瞬光る。


「てんぱいの様子見てきてほしいっす!」


「ふむ……では参ろうかの?」


 クータンはふわっと光りながら、思念を飛ばし始めた。


 ―――異世界・アルカノア農場


 コンコン!と、ドアを叩く音。それと共に、クータンの思念体も到着した。


 扉を開けると、息を切らしたオレンジ色の髪の少女が飛び込んできた。


「アリス!何かわかったのか!?」


「はぁはぁ……分かったわ、天貴!農場の雨がやまない理由が!」


 そう言ってアリスは、青くきらめく宝石のようなものを高く掲げた。


「雨呼びの石!この石がある周辺は強制的に雨を降らせる!王宮保管対象の魔道具よ!」


「王宮保管対象!?なんでそんなものが……まさかっ!」


 アリスは息を整えて、力強くうなずいた。 


「そう、絶対あいつよ!ゲドがこの農場にこれを埋めたのよ!」


「そのせいで俺のスカイリンクが効かなかったのか!?」


(むぅ、限界じゃ)


 夢中でアリスと話していた天貴は、背後に訪れていた小さな気配に気づくことはなかった。


 *****


 閉じていた目を、ゆっくりと開けるクータン。 


「……ふぅ」


「てんぱい何してましたか!?ご飯!?それともお風呂!?」


 新婚の嫁のようにまくしたてる玄太に、クータンは淡々と告げた。


「ふむ……部屋に婦女が訪ねてまいった」


「………………………………何?」


 ――――待って、死ぬ。


「て、て、てんぱいの部屋に女子が来たぁぁぁぁぁぁ!!?」


 顔を真っ赤にして叫ぶ玄太。


「して、婦女の息遣いが荒かったのぉ」


「あばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!!」


 玄太は自家発電でもしそうな勢いで部屋中を暴走する。


「ぬしよ、落ち着け。まだ続きがある」


 クータンがそう言うや否や、さっきまで暴れまわっていた玄太は一瞬でクータンの前で正座する。


「なにやらゲドという者の妨害に巻き込まれ、異能が使えぬらしい」


「え、スカイリンクが?ゲドの妨害?なにそいつ、やばくないっすか?」


 打って変わって深刻に考え込む忠犬を横目に、クータンはボソッと一言だけ言い捨てた。 


「以上じゃ」


 **********


 そして。


 玄太はいつもの日常に戻る。次の日も、また次の日も。おやっさん農場はいつもと変わらない朝を何度も迎えた。


 それだけ。玄太も何も変わらない。いや、変わっていないふりをしてるだけ。心の奥では、ちゃんと何かが崩れていってる。


「ちょっと牛舎担当!これ、ちゃんと仕舞っといてください!」


「あ、す、すまねえっす」


 そして、農場の皆はてんぱいの話題を日に日に口にしなくなった。


「その時おれ、てんぱいに言ったんすよ!そしたらぁ……」


「てんぱい?あぁ、天貴?あいつ今何してんの?」


 あの人がここにいた、という足跡だけが薄れていく。


「今日のランチの肉だんご、てんぱいの好物だったんすよねえ!」


「お前さぁ、もうてんぱいの話題はいいって!それより昨日さぁ……」


「あ、うぃっす……」


 そして玄太は、徐々に誰とも喋らなくなった。


(まぁ、おれなんてもともと一人だったわけで……これが普通だし)


 そんなある日、賑やかな食堂の中でいつものように玄太は誰にも気づかれないまま席を立つ。


 食堂を後にしようと出口へ向かう途中、不意に耳に飛び込んできた大切な人の名前に、足がぴたりと止まった。


「天貴?あーいたいた、逃げたんだろ?あの腰抜け」


(…………………………………あ?)


 玄太の中で何かが止まった。


「おやっさんは妙に肩入れしてたけどよ、正直あんなの飼い犬にも劣るわ」


 なに、こいつ。


「偉そうに夢語ってたんだろ?笑わせんなよ」


 何も知らないくせに……マジで黙れよ。


「大口叩いといて、飽きたらさっさと消える。そういう奴を見ると胸糞悪くなるんだよ」


(何も知らないくせに……!!)


 気づいたときには、玄太はその男の背中の真後ろに立っていた。


「いつか自分の農場持ちたいだっけ?ばーか、身の程を……ああん?なんだテメェ?」


 自分よりずっと年上の先輩とか、そんなのどうでもよかった。


「……てんぱいは……逃げてないっす……」


 震える声で、必死に絞り出した。その瞬間、そいつがニヤリと笑って口を開く。


「あ~、おめぇ、あの若造の腰ぎんちゃくだったよな?へっ、旦那に捨てられたかぁ?」


 ──ブチッ。


 その瞬間、玄太の頭が真っ白になった。


「……しろっ…」


「あぁん?なんて?」


「訂正しろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 怒鳴りながら、玄太は拳を振り上げていた。

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