第11話 忠犬、閃く
クダンは三日で死ぬはずだったのに、そのクータンは今日も隣で甘乳パンをもぐもぐと、いつものように生き生きとしていた。
そして玄太はというと。
「あ゛あ゛あ゛……てんぱいが消えていくぅぅぅ……」
枕をぎゅっと抱きしめながら、布団の上でゴロゴロ転がっていた。
布団や枕にほんのり残るてんぱいの匂いだけが、いまの命綱。それを頼りに、なんとか生き延びてきたというのに、その残り香も風前の灯火である。
玄太はまさに今、崖っぷち状態。
「にしてもさぁ……」
横目でチラッと見ると、甘乳パンに夢中な小さな仔牛が視界に入る。
「よく飽きないっすねぇ、それ」
クータンはそのままパンをもぐもぐしながら、ふっとこちらを見てこう言った。
「ぬしも毎日、鳥の四肢を煮込んだ異国の汁を飽きずに食しておろう」
いつものクータン節で言い放ち、もぐもぐタイムを続行。
「チキンカレーな!安くい美味いんす!クータンも食えばわかるっすよ!」
クータンは一度だけ目を細めて、鼻でフンと笑った。
「我はこれで十分……否、これこそが至高じゃ」
三日を過ぎてからというもの、クータンはやけにしゃべるようになった。まるで死ぬ運命から解放された途端、口のチャックまでぶっ壊れたように。
「でもなんでクータンって、生き延びれたんすかねぇ?」
玄太がボソッと疑問を口にすると、クータンはもぐもぐしたまま、ちょっとだけ首をかしげた。
「我は神託を告げるのみに在る存在。それ以外の背景は知る由もなし」
「ふ〜ん」
玄太は布団にゴロンと横になり、スマホを手に【クダン 三日】と検索する。
「……ネットだと、五日とか生きる事もあるとか書かれてるんすね」
五日どころか、とっくにそれ以上生きているクータンを見る限り、運命の日が来るのはまだまだ先になりそうだ。
【件・くだん……家畜などから突然産まれ、数日で死ぬ。その口は、予言をするためだけに存在し、死ぬまで食べ物などは口にしない。しかし、予言は必ず的中すると言われ……】
「ふぅん……ん?」
画面をスクロールしていた玄太は、とある一文に違和感を覚えて手が止まった。
【死ぬまで食べ物などは口にしない】
「…………え?」
ゆっくりと横を見る。
「むぅ……」
そこには、甘乳パンの最後のひとくちを、名残惜しそうに眺めているクータンの姿が。
「あの、クータン?」
玄太が小さく手を上げて声をかけると、目だけでこちらを見る。
「今、おれ、すっごい衝撃の事実に気づいちゃったんすけど……」
「ぬしの腹がポテッとしておる件か?」
「違いますぅぅぅ!そんな事は前から知ってますぅぅ!!」
って何言わせんすか!っと、スマホの画面を突きつける玄太。その画面には、【死ぬまで食べ物などは口にしない】の一文がしっかり表示されていた。
「クータンが生き残った理由って……」
クータンはパンを持つ手をピタッと止めて、耳を傾けている。
「甘乳パン食いまくってるおかげかもっす!」
ふたりの間に沈黙が走る。
「ふむ、それは合点がいく見解じゃの」
「でっしょぉぉぉ!!!」
玄太は、謎の大発見をした学者のように拳を握りしめた。はしゃぐ玄太を見てクータンまで嬉しくなってくる。
「ぬしがせっせと甘乳パンを運んでくれたおかげかの」
「いや~これ、てんぱいにも早く教えたいっすよ!」
そう言って、ぱっと笑顔になる玄太だった。しかし5秒と持たずに、はしゃいだ気持ちがスンとどこかへ引いていく。
「……てんぱい、今ごろ何してんすかねぇ」
部屋の空気が少しだけ、しん……と静まった。
すると、もぐもぐしてたクータンが、ぽそっとつぶやいた。
「……では、見てみるかの?」
「は?」
その瞬間、玄太の体が時間停止でもしたかのようにピタッと止まった。




