その2 暴発寸前・悪魔の娘
★第六話『暴走暴発暴虐ガールズ!』
その2 暴発寸前・悪魔の娘
teller:New fighter
「いいか、おめーは、人間なんだ。人間、なんだよ。あたしと同じ。同じなんだ」
わたしの真っ赤な両手を握る彼女の手は、わたしの所為で同じく赤に染まって行く。
そんなことも気にせず、彼女はわたしの目を真っ直ぐに見つめていて。
憎らしいくらいに真っ直ぐで綺麗なその瞳が、何だか不思議と愛おしくなって。
姉のような、母のような人。
それでいて、友のようで――愛しくて、恋しくて。
「人間、なんだよ。おめーは。ちゃんと、人間なんだ」
繰り返しそう言う彼女に強く抱き締められた、その時。
わたしは自分がどんな顔をしていたのか、不思議と思い出せない。
……それだけは、思い出せない。
◆
「……キャハハッ、バッカみたい」
ニュースの画面を見て、わたしは甲高い声で笑う。
画面の中では、煙が立ち上り、いかにも豪奢な建物が半壊状態。
ちかちかと光るサイレンの赤い光――に誤魔化された、地面に散らばる血の赤。
「ほんと、バカみたい。自分が管理できる側の人間だと……裁く側の人間だと思い上がってるから、こんな目に遭うのに。ねえ?」
画面上の赤と同じ色のストロベリージャムをトーストに塗りたくる。
自分の隣に座らせたボロボロのうさぎのぬいぐるみに向かって問いかけるように、わたしは小首を傾げた。
勿論反応はぬいぐるみからは返って来なかったけれど、モニターから流れる『政府高官自宅をテロリスト一派が襲撃』の音声に、わたしはまた愉しく笑う。
「なーに笑ってんだ、悪趣味なヤツ」
とん、とテーブルにお皿が置かれる音と共に顔を上げる。
呆れ顔でわたしを見下ろすのは、ボブショートの活発そうなお姉さん。
女性性の塊みたいな豊満なバストを持つのに、男勝りな言動の所為でそういう色香は全く感じさせない、さっぱりした人。
――わたしの、大好きな人。
「おはよっ、恵夢! だーって、嬉しいんだもん、偉そうな大人が、痛い目見るのってさあ」
「他人の不幸を喜ぶんじゃねえよ。ったく……」
「――他人じゃないよ? わたしに、とっては」
わたしの言葉に彼女は眉を顰め、リモコンを手に取りテレビの電源を切った。
真っ暗になった画面に映った、わたしの姿。
リボンで纏めたツインテール、ゴシックロリータ調の服装。
お子様みたいな童顔に、幼児みたいなちまっこい体型。
だけど、わたしの現在の『設定年齢』は、れっきとした18歳。これでもレディだ。
――わたしの名前は、ドロッセル=リデル。
第89地区、代表ファイター。
わたしの目の前に居る大好きな彼女の名は、恵夢=チェンバーズ。
わたしのサポーターで――あの日、わたしを抱きしめてくれた人。
だいすき。だぁいすきよ、恵夢。
そうね、わたしは人間、だものね。
人間なら、何かを憎んでも妬んでも、いいよね。
普通の感情だよね、普通のことだよね。
普通の人間なら、当たり前だよね。
だから。
「ぜーんぶ、壊れちゃえば良いのに……」
だから、私はこの世界に復讐するの。
こんな世界、ぜんぶ壊れてしまえばいい。
わたしを苦しめたんだから、他でもないわたしが裁く。
世界がわたしを『悪』だと罵っても、構わない。
わたしが人間らしくある為に、大好きな恵夢と同じ存在である為に。
――わたしは、全てを憎み、全てを壊すの。




