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熱血豪傑ビッグバンダー!  作者: ハリエンジュ
★第一話『主人公はおデブちゃん!?』
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その4 ビッグバンダー『トヨウケ』

★第一話『主人公(ヒーロー)はおデブちゃん!?』

その4 ビッグバンダー『トヨウケ』


 爆発音と共に、爆風が公園に吹き荒ぶ。

 おれは咄嗟にエレノアちゃんとチャドくんを庇うように抱き寄せ、煙臭い空気の中、数回咳きこんでから目を凝らした。

 煙がまだうっすら残っていてもわかるくらいに公園のスクリーンはぐちゃぐちゃに壊れており、スクリーンが設置されていた辺りには、代わりとでも言うかのように巨大なシルエットが見える。

 人型の、大きな何か。

 煙がゆっくりと晴れるにつれ、その全貌が明らかになった。

 全体的にごつごつしいフォルム、頑丈な装甲、黒く塗りたくられたボディ、両手にはビーム機能を擁する銃砲が多数取り付けられている。

 その物体の頭部で一際目立つ、『眼』の代わりをした、禍々しく濁った緑色に光る瞳のレンズは、おれたちを捉えて離さない。

 あれは――『ビッグバンダー』の一種だ。

 今日に予選日が割り振られているのはおれの担当の第29地区と、あと、確か第1地区。

 予選が行われているのはこの公園じゃないのに、何でビッグバンダーが中立地区のこんな場所に?

 疑問符を頭に浮かべつつ、おれはこの状況で腕の中の二人の子どもをどう守り抜こうか思案する。

 すると、件のビッグバンダーのスピーカー越しに下卑た声が聴こえてきた。


「ははは! セントラルエリア、フェアリーパーク区域は俺、クエイク=ワイルダーが制圧した!! 予選中の第29地区のファイター候補生全員に告ぐ!! ここいら付近の民間人を見殺しにしたくなければ速やかに降伏しろ!!」


 ――なるほど。

 そういうズル、するわけね。

 恐らく今の脅迫通信は、予選会場で激戦を繰り広げる寸前だった他のファイターにも届く仕掛けになっているんだろう。

 嫌なことするね、全く。

 ちら、とエレノアちゃんとチャドくんの方を見やると、二人の瞳は恐怖で揺れていた。

 チャドくんはまだ怯え、より緊張感の方が勝っているようだったが、エレノアちゃんの怯えようは異常だった。

 肩が小刻みに震えていて、今にも大粒の涙が溢れそうで。

 おれは、ふっと笑ってエレノアちゃんとチャドくんの頭をぽんぽんと優しく撫でる。

 二人がおずおずと俺を見上げる。

 大丈夫、守る方法はもう決まった。

 チャドくんのどこか堂々としたところも、エレノアちゃんの抑えられているであろう優しさも。

 おれは、クエイク=ワイルダーと名乗った目の前の脅威には絶対奪わせはしない。


「……さってと。まず、エレノアちゃん。チャドくんも。――ちょーっと失礼」


「え? ……ひゃっ」


 立ち上がって、チャドくんを背負い、エレノアちゃんを横抱きにする。

 割と窮屈な体勢だけど、まあ仕方がない。

 おれはもう一度穏やかに笑い――はっきりと言った。


「大丈夫だよ、二人とも。怖いことも悲しいことも何もない。だって――おにーさん、これでも結構強いから」


 そう言っておれは二人を安全な場所へ移そうと走り出すが、クエイクが駆るビッグバンダーに動きを勘付かれて威嚇の意味で砲撃を一発浴びる。

 威嚇、と言ってもそれはロボットの、ビッグバンダーの機体同士だから『威嚇』で済む言葉であって、エネルギー弾で構成されたビームを傍の壁に発射されると、生身だと直接当たってないにしろ感じる衝撃がかなり辛いことになる。

 だから、本当ならおれの逃走は二人の少年少女をより一層怯えさせる結果になるわけだけど――おれにしがみついてるから横顔が間近にあるチャドくんも、おれが抱き上げてるから常に表情を確認できるエレノアちゃんも、揃ってぽかんとしていた。

 ――多分おれが、こんな状況でも歌って笑いながら、それでいてエレノアちゃんとチャドくんを軽々と抱えながら全力疾走している事実にびっくりして、二人とも感情が恐怖の方に向かなくなっているんだと思う。

 おれが歌っているのは勿論ロマネスクの楽曲で、しかも推しのクラリスたんのソロパートが多い『きゅんふわスイートパーティ』という……。


「くそっ、おい! そこの民間人、止まれ!! 何でガキ二人連れて止まらねえんだ!! お前らに逃げられたら台無しなんだよ!!」


 スピーカー越しにクエイクの怒声が響く。

 そりゃそうだろう、おれらに逃げられちゃクエイク側の計画はおじゃんだ。あの公園、おれたちくらいしか居なかったし。

 クエイクのミスはだいぶ多いと思うけど、こいつの大きなミスは目をつけた場所と、相手が悪いと思う。我ながら。

 先程も言った通り、こちとら生身でちびっこ二人を抱えてビームから逃げているわけで。

 ビームの直接的な被害だけじゃなく、ビームが撃たれたことで壊れ降りかかる壁やら諸々のオブジェクト全般の破片からもちびっこ二人を絶対に守らなくちゃいけないので、途中から無理矢理チャドくんを引きずり下ろし、エレノアちゃんと一緒くたに横抱きにする形になって走る。

 やっぱりこの方が楽だし、確実に二人を守れる。

 そう思ったらやる気が出てきて、おれはますます笑顔で歌い続けた。

 なんか額から血が軽く流れてるけど、それも気にならないくらい軽快に走る。


「ば、ばっかす! なんで歌って、わ、わ、血がでてるぞ!? このまま逃げたら、ばっかすが……! あ、うわ、おねーちゃんが固まってる!! おねーちゃんが固まってるぞばっかす!!」


 驚かせすぎたらしい。おれの血を見せてしまったことでエレノアちゃんがどうやら一瞬意識を飛ばしてしまったらしく、ようやくチャドくんが焦るようにおれの名前を呼んだ。

 慌てたように、血を拭ってくれるかのように伸ばされたチャドくんのちっこい手。

 チャドくんの目を見ると、そのくりくりとした男の子の目からはクエイクが駆る未知の黒いビッグバンダーへの恐怖心はもう感じられない。

 良かった、好きだったものや、憧れてたものを嫌いになんのは、悲しいから。


「ははは、すまんねチャドくん、エレノアちゃん! もう、この鬼ごっこ終わるから安心しなって!」


「お、おにごっこ!? なにかのよーどーさくせんか!? で、でも、ずっと逃げてただけじゃ……」


「いんや、作戦とかじゃない! だけど、逃げてたわけでもない! 言ったろ、おれ、結構強いんだ。だからまあ、準備運動みたいなもん!」


 そこでようやくおれは立ち止まる。

 自分が思いのほか汗をかき、息を切らしていることに気付き、また笑う。

 こんなのロマネスクのライブ会場だと当たり前の姿だから、おれの方は何一つ最初から心配ごとはない。

 ふくよかな大人がひたすら走る様は、この子たちには、襲ってきたクエイクには、どれだけ滑稽に映っただろうか。

 でもおれは、こういうカロリー消費は、好きだ。

 生きてるってわかるから。

 走ったり飛んだり跳ねてると、辛くて、苦しくて、でも、楽しいから。

 おれはここに居るんだって、動けるんだってわかって、嬉しいから。

 生きて、生きて、それで、生き延びた末に。

 次は何を食べようかな、なんて、さらに未来を求められるのが嬉しいんだ。

 おれは、生きてるんだ、生きるんだ。

 だからこれは逃げるんじゃない、生きる為の希望を、すぐ先の未来で食べたいと思える美味しいものを見付ける為に日々必要な生命活動で――やっぱりおれにとっては準備運動みたいなもん。

 

 だっておれは、幸せな自分を上書きして、もっと幸せになって、また駆けていきたいから。


 軽く呼吸を整えてから、おれはペンダントのように首から下げてはいたけどコートの隙間に隠れていたホイッスルを片手で掴む。

 エレノアちゃんがそのホイッスルを見てひゅっと息を呑んだ。

 そして、おれは――。


「……っ、降り臨め!! ビッグバンダ―・『トヨウケ』!!」


 ――全力で叫んで、その名を呼んで、ホイッスルを思いっ切り吹いた。

 瞬間、ばちばちと電流が空に昇る。

 電流は青空に魔法陣として展開していき――そこから真紅のロボットが顕現した。

 相対する黒いビッグバンダ―に負けず劣らずがちがちで固めたごつい装甲、だけど拳に銃砲はない、装備もない。

 拳のみを武器に戦う肉弾戦専門、地上戦特化、耐久性重視のビッグバンダー『トヨウケ』――それが、おれ、バッカス=リュボフがファイターとして搭乗する機体だ。

 おれがもう一度ホイッスルを吹くと、おれたち三人はトヨウケの胸部のコックピットにワープしていた。

 このビッグバンダー召喚技術、ワープ技術は、セカンドアース太古の『召喚魔法』を取り入れた特殊な技術らしい。

 バトル・ロボイヤル運営上層部に、魔法、呪術に詳しい人間が何人か居るんだとかで。

 おれが操縦席に座り、そんなおれの膝の上にはエレノアちゃんとチャドくんが乗っかっている。

 正直ぎゅうぎゅう詰めだった。ほとんどおれの脂肪のせいかもだけど。

 さて、とまずは機体を動かすべく真っ先に目に付いたレバーを片手で握り、アクセルに足をかけた時。


『……馬鹿ス?』


 ――通信機越しに、低く唸る声が聴こえた。

 おれは思わずヒッと短く悲鳴を漏らす。

 おれを『馬鹿ス』だなんてひっどい蔑称で呼ぶ人間なんて、一人しか居ない。

 予選会場で今までこの機体を整備してくれていたのであろう、おれの、たった一人の『相棒』だ。

 おれがさっきまでの汗とはまったく別物の冷や汗をダラダラと流していると、コックピット中に怒声が響いた。


『アンタ、こんな時間までどこで何やってたのよ!? バカじゃないの!? もうとっくに予選は始まってんのよ!?』


「ごめん!! ほんとごめん!! しょうがなかったんだって!! ちょっとプレミアムチョコレートシュークリームとロマネスクのライブが――」


『ハァ!? また食べ物とアイドル関係!? いい加減にしなさいよこの色ボケデブス!』


「デブスはまた意味合いが違ってこねえ!?」


 『相棒』とぎゃーぎゃーと言い争いを始める俺を、エレノアちゃんもチャドくんも呆然と見つめている。

 『相棒』のおれに対する罵詈雑言は予想以上にひどいもんだった。

 『相棒』がおれの傍にいるちびっこに配慮した上でいてもなお、ここではとても書けないようなことも言われた気がしたので秒で記憶から汚い言葉を消していく。

 おれの『相棒』はいつも、色んな形でおれの脳を、心臓を動かしてくれるんだ。

 やがて、チャドくんが一足先に我に返って言った。


「ばっかす……びっぐばんだーのふぁいたーだったのか!?」


 心なしかきらきらしているチャドくんの瞳に、おれも目を合わせる。

 やっぱり、チャドくんはこの目で堂々と生きていく方がステキだとおれは思う。


「そ。第29地区の候補生。そして――今から第29地区正式ファイターになる男・バッカス=リュボフとはおれのこと! 夢は宇宙中の人々が好きなだけ自分の好きな美味しいご飯を食べられる世界を作ること! ってなわけで、スクリーンぶっ壊れてロマネスクのライブ中継が観れなくなった恨みもあることだし、ご飯の後にちびっこ二人に嫌な思いをさせたことも許せないし――」


 今度こそ、レバーを握り、アクセルを踏む準備をする。

 操縦体勢を、完全に整える。


「――さあ、始めるぜ!!」


 ビッグバンダ―『トヨウケ』、完全始動!

 ――なんてな。

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