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熱血豪傑ビッグバンダー!  作者: ハリエンジュ
第四話『さあ、手負いの獣とダンスを』
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その5 泥んこダンスで夢いっぱい

★第四話『さあ、手負いの獣とダンスを』

その5 泥んこダンスで夢いっぱい



teller:バッカス=リュボフ



 ――今日も今日とて、くそったれな治安の街の騒音は、賑やかに笑い転げている。



 ファイター・サポーターに課される治安維持任務は、シフト制である。

 なるべくスケジュールが平等に行き渡るように、上層部やサポーターの計らいでシフトは調整されているようだが。

 最近のおれはシフトが入っていない日や時間帯でも、半ば寝食を忘れる勢いでせっせと治安維持任務にのめり込んでいた。


 全てはお金を貯めて、食費を我慢して最新のゲームを買って、共通の話題を利用してティーンエイジャー組と仲良くなる為。

 せっかく同じ寮にみんなで住んでいるんだ。親睦を深めるに越したことはない。

 あと単純におれは少年少女をよしよししたくなる自称持病を持ち合わせているんだ。


 今日の任務内容は、徒党を組んだ非公認ファイターが起こした犯罪行為の取り締まり。

 ショッピング街の金庫を狙って、それぞれのビッグバンダーを駆って自分の欲望の赴くまま暴れ回る彼らを、おれは片っ端から取り押さえて無力化していた。


 おれの愛機・トヨウケは体重移動だけで相当な衝撃を相手の機体に食らわせることができる。

 だからタックルは勿論、転げ回って移動してその勢いのまま相手を轢くようにブーストをかけるなど、いつもより気合いの入った力技で非公認ファイターを次々に無力化・捕縛していく。

 当然おれ一人じゃそんなにこの戦いは上手くいかない。

 おれの最高の相棒・ピアスの力も合わせてこそだ。


 タックルの直後、体勢を崩した状態で即座に起き上がれるのも、転げ回って相手に突撃する時に方向が逸れないのも、逐一ピアスがシールドを的確に張り巡らせて、トヨウケをシールドで押し出す形で即座に体勢を、重心を整えてくれるから上手くやれてる。

 さすがおれの相棒。


 だから最近の任務での戦闘において困ってることはほぼない。

 あと必要なのは、努力と根性。

 そしてへこたれない心。


 おれは今日もボウリングのボールさながらの猛スピードで街中を駆け回り、非公認の悪いおにーさんたちをドッタバッタとなぎ倒している。

 もしかしたらここ最近カーバンクル寮で一番精力的に活動しているのは、おれかもしれない。


 ただ一つ、どうしようもない不満を上げるとするのならば。


「……お腹空いたぁ……」


 普段から毎日規格外にボリューミーな食事を楽しんでいたおれにとっては、節制したり、ごはんのことを全く考えずこういう任務に集中するのは、一種の人権侵害だった。


 ……いや、この道を選んだのは他でもないおれの意思なんだけど。





teller:オリヴィエール=ロマン



「おーおー、やってるやってるー」


 それぞれ色が違うカラフルな三段アイスをぺろぺろ舐めつつ、気合い十分で暴れ回るトヨウケを観察していた花楓が、どこか愉しそうに言った。


 バッカスは若者と仲良くなりたいから、という不純な動機でここ最近は治安維持任務にひどく熱心に取り組んでいる。

 相手がテロリスト紛いの犯罪者だとしても、未知の異界生物アンノウンだとしても、そんなものは怖くないのだとばかりに日々転げ回り暴れ回り街の平和を守っている。


 そういえばバッカスの愛機・トヨウケは飛行機能が搭載されていないんだったか。

 それでも今のところ特別苦戦する様子も見せていないのは、サポーターであるピアス=トゥインクルとの連携が非常に上手く噛み合っているからこそなんだろう。


 アイスの一段目を食べ終えた花楓が、戦闘中のトヨウケを遠目で観察しながらにこやかに言った。


「このぶんなら、バッカスも念願のゲーム機買えちゃうかもね!」


「その前にあのメタボのことだから、勝手に飢えて倒れて周りに迷惑かけなきゃいいけどな……つーかゲーム買うとか言ってるけど、あいつゲームしたことないだろうに大丈夫なのか?」


 花楓に笑いかけられて、愁水が顔を顰めながら言う。

 しかし、花楓も俺も目を丸くして愁水を見上げた。


「え。そこは愁ちゃんがフォローしてくれるから大丈夫でしょ? お店連れてって良さげな機種選んでくれるでしょ??」


「いや、俺もゲームに詳しいわけじゃねーからわかんねえよ。学生時代とか周りに勧められてやってただけだし。今じゃ流行りも変わってるだろうし正直ちんぷんかんぷんだ」


「えっ」


「え……」


 花楓とオリーヴの、言葉にならない呟きが空気に消え入るように漏れた。


 しばし、静寂がその場を支配し。


「なんで二人揃ってこの世の終わりみたいな顔してんだよ!! 当たり前のように知識面で俺を頼る前提で行くんじゃねえ!! 俺だって世の中で知らねえこと山ほどあるわ!! 人を素で辞書扱いすんじゃねえ!!」


「そんな……! 愁ちゃんがゲーム機に詳しくないなら、バッカスはどうやってゲームを買えばいいのさ!?」


「普通に調べればいいだろうが!! それか店員に聞けよそんくらい!!」


「お前に聞いた方が大体の出来事は早く済むだろう」


「お前らの俺に対するその全く嬉しくねえ絶対の信頼はどっからくんの??」





teller:???



 バッカス=リュボフが街をトヨウケで駆け抜け、治安維持任務に励んでいる時。


 同じく治安維持任務に取り組んでいた、一体のビッグバンダーが一瞬バッカスのトヨウケを振り向いた。


 聖女を思わせ、同時に悪魔を思わせる洗練されたデザインの、レイピアを握り締めた美しき銀色の機体。

 そのコックピット内で、顔を画面で覆い、モニターを見つめている少女。

 彼女はトヨウケとその内部映像がモニターに映し出されたのを見て、一瞬息を呑んで、それから俯いた。


「……バッカスさん……」


 彼女――仮面の戦士セイレーンこと、エレノア=ウンディーネは、今日もバッカス=リュボフとの一瞬の出会いと交流を、温かい思い出を胸に、支えに生きて、戦って、そして自らの心の均衡が崩れていることに見ない振りをする。


 今日も今日とて、くそったれなこの世界では、何かを求め走ることすらできない溺れたままの少女が一人ひっそりと、今にも涙の海を溢れさせようとしていたのだ。

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