その12 さあ、命を食べよう。
★第二話『永遠少年殺人事件』
その12 さあ、命を食べよう。
teller:バッカス=リュボフ
「と、言うわけで、愁ちゃん、おれとオリーヴ氏はすっかり仲良くなりました!」
「飯食ってる時にやたらと重っ苦しい話しないでくれるか?」
翌日。
おれとオリーヴ氏、そしておれが早朝からのドアノック攻撃で強制的に連れ出した愁ちゃんとファミレスで朝食を食べている時。
昨日の詳細を愁ちゃんにざっくり話したら、愁ちゃんには物凄く眉を顰められた。
それでも店から逃げ出すなんてことはしない辺り、愁ちゃん結構優しいな。
愁ちゃんよ、きみの優しさはおれの飯友ターゲットセンサーに引っかかってしまったぞ。
今後も誘おう。
ピアスも誘おうかと思ったけど、ピアスは何やらファンクラブができてしまった。
『ピアス姐さんを慕う会』とか、そういうやつ。
確か、レイアちゃん&テレサちゃんという女の子ペアと……ピアスが昨日助けた、椎名くんって言う儚げできれいな男の子。
彼女らにすっかり懐かれたピアスは、しばらくそのファンクラブと行動を共にすることにしたらしい。
ピアスは年下に慕われてんのに、おれは一応年下の愁ちゃんにゴミを見るかのような目で見られている。
なんてこった、雲泥の差だ。
……とは思ったけど、実のところ大しておれはそこんとこを気にしていない。
威厳がない自分には慣れっこだ。
さてと、と電子端末、いや私物であるロマネスクの曲専用の音楽再生機をオリーヴ氏に見せる。
もう片手ではハンバーグをフォークでぐちゃぐちゃと食べながら。礼儀作法はガン無視で。
「オリーヴ氏、これおれの推しアイドルユニット・ロマネスク! オリーヴ氏はパッと見どの子が好みとかある?」
「好ましいやつか……? ……俺は、この青い髪の女だな。一番歌声が伸びやかだ」
「おっ、歌姫レイニーたん推しか~見る目あるねオリーヴ氏~」
「……なあ、俺、ここにいる必要あるか?」
タバコを片手に、ほんのり引き気味に俺らの様子を窺いながら、適度な量の朝食に手をつけ終わった愁ちゃんがそう言ったので。
「え、だって誘わないと愁ちゃんぼっちになっちゃうじゃん」
「はっ倒すぞ」
「あだっ」
テーブルの下で、足を思い切り踏まれた。痛い。
しかしこの痛みも、ごはんを食べることで回復しよう。
そうすれば、おれは無敵だ。
オリーヴ氏と仲良くなって、より一層思ったことがある。
死を想え。
今日もおれは、世界のどこかの死を食べて、おれとして、バッカス=リュボフとして生きている。
どこかで死に、どこかで生き、どこかで産まれる見知らぬ誰かへ。
――どうか腹いっぱいの、幸福もしくは、愛よあれ。
◆
teller:花楓=アーデルハイド
カーバンクル寮の地下の地下。
厳重に封鎖された地下室。真っ暗なそこが、おれとおれの『相棒』の部屋で世界だった。
そこでおれ――花楓=アーデルハイドは、最新型のコンピュータの、正確にはおれの相棒のパソコンを眺める。
バッカスおじちゃんとオリーヴおじいちゃんを列車に閉じ込める嫌がらせは失敗。
でも、それじゃつまんないよね。
「……次は、誰と遊ぼうかにゃあ」
にゃはは、と至って明るく笑うおれを、おれの『相棒』が膝を抱えたまま心配そうに、何か言いたげに見ていたけど。
おれの心には、彼の綺麗すぎる優しさは響いてはくれなかったんだ。




