その1 所詮その程度の隣人
★熱血豪傑ビッグバンダー! 第九話『檻重ねワンダーランド』
その1 所詮その程度の隣人
teller:New fighter
自分の価値に気付いてしまったのが、俺はきっと、他のやつより早かった。
亜杜=レアード、17歳。
第75地区代表ファイター。
搭乗機体:アルテミス。
そんな記録の下、今の俺はこの居住空間で息をしている。
カーバンクル寮。そう名付けられたファイターとサポーターの巣窟で。
この星の運命を、未来を左右する人間の集まりに、俺なんかが混ざっている。
ひっそりと、紛れている。
カーバンクル寮の廊下のベンチに座り、イヤホンをしたままぼんやりと窓の外を見る。
別に何か、見たかった景色があるわけじゃない。
俺の目線を裏切って、視界の端で存在を主張するのは三人の少年。
俺と同い年の、17歳の男のファイター三人。
いつも不機嫌そうに眉間に皺を寄せた柚葉=シェリンガム。
いつも楽しそうに笑っていることが多い壱叶=キッドマン。
三人の中では一番表情がコロコロ変わる咲斗=ガルシア。
この三人は最近、しょっちゅうまとまって行動を共にしているのを見かける。
気でも合ったのだろうか。
ここにいるファイターは全員、最後は戦う運命にあるはずなのに。
最後の最後、セカンドアースの命運を決める勝者はたった一人のはずなのに。
視線を完全に窓に映し、俺の世界から三人を消し去る。
イヤホンから流れてくる音楽に意識をゆだねる。
まあ、どれも。
俺には関係の無い話だ。
俺は、無能なんだと思う。
75地区の代表ファイターに選ばれた、そこが俺の上限だ。
地下のシミュレータルームで訓練を重ねても、俺の技術やセンスが更に磨かれる気配は無い。
俺は自分の限界を、自分の到達点を知ってしまっている。
自分が辿り着ける場所まで知ってしまった。
俺にはこれ以上がない。ここまで、来てしまった。
あとはたかが知れてる。
俺はこの程度の人間だと、俺は知っている。
本戦が始まったとして、俺には勝ちが限られている。
そもそも俺には勝ちたい強い理由もない。
だから俺はずっと、この寮では場違いなのに。
「よーっす、亜杜! なーに聴いてんだ?」
場違いの俺を、今日もお前は簡単に見つける。
栗毛のサイドテールの、八重歯の女。
俺と同い年の、俺にとってのサポーター。
雫=パトリッジ。
日陰者の生き方が楽になってしまった俺にとっては、遠慮も容赦もなく一番隣で無邪気に笑うこいつは、どんな景色よりも眩しい。
イヤホンから流れるラブソングの意味も知らない雫はまだ、俺の正しい価値に気付いていない。
ただここにいるだけの俺なんかの隣を、こいつは自ら望んできて。
「美味そうな菓子見つけたから、亜杜にもやるよ! 遠慮すんな! アタシのおごりだ!」
どさどさと俺の手に溢れんばかりのカラフルな包みを、乱暴に開けた袋から雫は落としていく。
ああ、またこいつは。
何もできない俺の手に、荷物ばかり増やしていく。
何もしようとしない俺の視線を奪って、何かを探せと手を引っ張っていく。
「……うるせ」
「んだよ、亜杜が喋んなさすぎなんだって!」
ずっと、そうだ。
その強引さが、煩くて、俺には痛くて痛くて痛々しくて――未来を真っ暗にしている俺には、ほんの少しだけ。
少しだけ――心地良かった。




