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熱血豪傑ビッグバンダー!  作者: ハリエンジュ
第八話『ラブ&ピース』
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その3 深刻初恋副作用

★第八話『ラブ&ピース』

その3 深刻初恋副作用



teller:New fighter



 はじまりは、まだ、おれが4歳の頃。


 近所の公園まで遊びに行こうとはしゃぎすぎて、思いっ切り走ってたら、派手にすっ転んで、膝を擦り剥いた。

 結構血が出て、かなり痛かったけど、泣いたら負けだと思ったからぐっと耐えて蹲っていたら。


「――だいじょうぶ、ですか?」


 柔らかい、声が聴こえた。


 傷口から視線を逸らし、顔を上げて、おれの時間は確かに止まった。


 艶やかな金髪を二本のリボンで結った、おれと同い年くらいの――異常に愛くるしい女の子。


 肌白い。綺麗。

 髪も勿論綺麗。きらきらしてる。

 なんなら目の色も綺麗。


 かわいい、とか、きれい、とかそんな言葉ばかりが、一瞬で脳内を埋め尽くした。


 女の子が、自分の髪を結っていたリボンを二本とも、ふいに解いた。


 リボンを解いた髪型も可愛くって、心臓がばくばくと高鳴った。


 女の子が、そのままリボンでおれの膝の傷口を縛る。


 え、手、ちっさい、かわいい。

 っていうか、今、おれ、あの、触られて。


「えっと……おうちにかえったら、ちゃんとしょうどく、してくださいね」


 そう言って、微笑むその子を至近距離で直視した瞬間。

 おれの心臓とか体温とかその他もろもろが、とにかくやべーことになって。

 ――あまりにも早すぎる初恋を、おれは経験してしまったのだ。





「あの……咲斗(さきと)さん、今、ちょっと、よろしいでしょうか?」


「ぅえっ、ぁ、ぇ、あ、な、なに?」


 突然かなりめちゃくちゃ大好きな声が聴こえて、おれ――咲斗(さきと)=ガルシアは、思いっ切りひっくり返った声を上げてしまった。


 慌てて口を片手で押さえても、もう遅い。

 おれがこの子の前でとんでもなくだっせえ姿を見せたのは、紛れもない事実だ。


 長い金髪、いかにも深窓の令嬢といった清楚な雰囲気。

 こんなにお淑やかで上品なのに、このカーバンクル寮に来るまでは一般庶民のおれと同じ学校に通っていた。


 ジゼル=ダフネシオン=エンジェル。

 おれの、現在進行形の初恋の相手。

 おれとは一応同い年だけど、ジゼルの方は生粋のお嬢様。


 ジゼルは、緊張でがちがちに固まっているおれに遠慮がちに書類らしきものをいくつか差し出してきた。


「これ、整備許可の書類です。ファイターから必要事項を記入してもらわないと、わたくしの独断では整備できなくて……」


「ぁ、えっ……ぁ、そっ、か」


 かなりぎこちない動作で、ジゼルから書類を受け取る。


 あれ? 待って?

 この紙さっきまでジゼルが触ってたんだよな?

 それって、やばくねえ?


 色々と頭がパンクしそうになって、真っ赤になって立ち尽くすおれを見て、ジゼルは少し悲しそうな顔をした。

 ジゼルは何か言いたげだったけど、すぐに言葉を飲み込んで。


「じゃあ……また後で」


「へ、ぁ、う、うん……」


 最後に見せた表情も、やっぱり悲しそうなものだった。


 おれはジゼルと会えて、声を聴けて、幸せいっぱい胸いっぱいなんだけど、ジゼルはそうじゃないんだよな。

 困るよな、こんな、ジゼルを前にした時だけこんなにポンコツになるおれとの接し方なんてジゼルわかんねえよな。


 おれは、ジゼルにずっとずっと片想いしている。

 ジゼルのことが好きだ、大好きだ、全部好きだ。

 ジゼルを好きな気持ちなら、誰にも負けない自信がある。


 でも、なんていうか。

 言ってしまえば――おれは初恋を拗らせていた。


 ジゼルと初めて会って、恋に落ちたのが4歳の頃。

 それから今に至るまで13年ほど、おれはジゼルだけをかなり一途に想い続けている。


 だからこそ。

 好きすぎて、何をどうしたらいいのかさっっぱり、わかんねえ。


 うっかり変なこと言って、うっかりやなことして嫌われちゃわねえかな、とか、こんな気持ち、迷惑じゃねえかな、とか。


 そう思ってぐだぐだ想いをずーっとずーっと拗らせてきたのに、たまたま興味があったビッグバンダーのファイター候補生になって、それなりに訓練を続けていたある日、上層部から突然ジゼルをサポーターに宛がわれた。

 あの時は、その場で気絶したし三日寝込んだ。


 何で?

 何でジゼル?


 いや、嬉しいけど、めちゃくちゃ嬉しいけど。

 おれの心臓がもたない、死んでしまう。


 ……おれが搭乗するビッグバンダーの名前は『アポロン』。

 マシンガンを武器に戦う銃撃戦専門のビッグバンダーだ。

 正直戦闘センスには自信がある。

 戦闘シミュレーションだって絶好調だ。


 ただ、おれはジゼルが絡むとだめだ、本当にだめなんだ。

 サポーターであるジゼルの声が通信機越しに聴こえただけでパニックに陥って、判断力やら集中力やらがほぼゼロになってしまう。


 あまりにひどい有り様だったから、ジゼルには戦闘中は頼むから話しかけないでくれと土下座する勢いでお願いした。


  ジゼルはきっと、こんなおれに戸惑ってる。

 だって、長年一緒にいるのにまともな会話すらできていない。


 勿論おれはジゼルにちゃんと、好きだ、なんて言えてない。


 そんなおれにここまで避けられて、ジゼルはおれがジゼルを嫌っているものと思っているかもしれない。

 っていうか、おれの方が既にジゼルに嫌われているかもしれない。

 やべ、泣けてきた。


 がっくりと項垂れ、肩を落とす。


 ああ、もう。

 どこで間違えたんだろう、どこからおれはこの拗らせ過ぎた恋心を軌道修正すれば良かったのだろう。


 まだ間に合うのかな、間に合うといいな。


 好きで好きで好きでたまらないあの子の姿を思い浮かべるだけで心臓が弾け飛びそうになるおれの恋路は、まだまだ先が長いんだろうな、と思った。

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