その17 ハリボテ・ファットマン
★第七話『水の底の誓い』
その17 ハリボテ・ファットマン
teller:バッカス=リュボフ
今日のオリーヴ氏は、誰の目から見ても活き活きとしていたように見える。
最近のオリーヴ氏は、生きる上で何らかの目的を見つけたらしい。
さっきも『寄るところがあるから』なんて言って、珍しく食事の誘いに応じてくれなかった。
オリーヴ氏が見つけた『何か』をおれは知らないし、それはきっとカエちゃんも愁ちゃんも同じ。
いつかおれたちにも話してくれればいいな、なんて呑気に考えつつ、おれはホットドッグをむしゃりと貪る。
活き活きしていたと言えば、愁ちゃんの話は欠かせない。
今日おれは、愁ちゃんが過去に、愁ちゃんの愛しの聖歌ちゃんと初デートの経験がある事実を知ってしまった。
初デートの内容については教えてくれなかったけど。
何で未だに告白できてなんだろうってくらい、鈍いおれの目から見てもお互いを大切に想い合っている愁ちゃんと聖歌ちゃん。
愁ちゃんは今日、聖歌ちゃんの為に戦い抜いた。
今も愁ちゃんは、サポーター業務に忙殺されている聖歌ちゃんを心配して彼女の元に行ってしまった。
愁ちゃんが聖歌ちゃんの為に生きているって部分は、思えば最初から一貫しているのかもしれない。
ブレない男はかっこいいね、なんて思いながら、おれはずず、とポトフを啜る。
カエちゃんはカエちゃんで、愁ちゃんと聖歌ちゃんの関係ににやつきながらも、猫のように気まぐれな彼はやりたいことがいっぱいあるのだと自由極まりない発言を残して、ふら、とどこかへ行ってしまった。
カエちゃんはまだまだ10歳の子どもだ。
そりゃあやりたいことも、夢や希望もいくらでもあるだろう。
若いっていいねえ、としみじみ思いながらおれは、フルーツタルトにがぶりと齧りつく。
カエちゃんも、愁ちゃんも、オリーヴ氏も。
みんな何か、抱き締めたいくらいの大切なものを持っている。
それが夢でも愛でも目標でも、彼らには生きる為の何かがある。
みんなどんどん、生きる目的を見つけていってる。
……おれって、なーんもないんだよなあ。
生きてるだけで毎日幸せ。
生きてりゃなんとかなる。
毎日楽しいし全部愛しい。
でもそれだけじゃ、だめな気がする。
だっておれ、色々ハリボテで出来てるから。
がぶ、と大きな大きなハリボテを作るための栄養素をまた咀嚼しおれの中に取り入れる。
少しでも満たされた気になる為に。少しでも自分という存在をいっぱいにする為に。
――本当はずっとずっと、空っぽのくせに。




