BLのための世界観造り
王太子アイメリックと皇太子ギオを恋人にして
幸せになってもらう。
そしてそれを嗜みたい。
そう決めてからの私の行動ははやかった。
まずはアイメリックとギオに早い段階で出会ってもらうために、皇国・ラトとギオについて徹底的に調べ抜いた。
こういうときに、小説の知識を使うよりも、
自らで手に入れた情報を使うのは、
転生者のチートに対するちょっとした反骨精神なのかなと自分で感じる。
ラトでは7歳の誕生日を迎えてからの2年間、
王侯貴族は必ず他国に留学するという慣習があり、
皇太子であるギオは、自由に留学先を選べる。
ここをなんとか、
我が国・ロシュフォールにしてもらうため、
ギオのお眼鏡にかなうように公爵令嬢としての権力を使って様々な根回しをした。
例えば、
ギオは幼い頃から武人として生きている。
そんなギオが身体をつくるために有益となるような食事メニューをいくつも世間に布教させた。
とくに騎士達が好んで食べるように、
各騎士団にはケッセル公爵家から毎食提供し、
騎士家系の貴族をケッセル公爵家の晩餐へと招待したり、領地内外問わず、騎士達がよく訪れる街の出店に融資してメニューを使用してもらったりした。
前世の私は、自炊が大得意なことに加え、
父が有名なスポーツ選手だったこともあり、
物心ついた頃から、口にしてきたのは身体作りに特化しつつも美味しい料理たち。
これがかなり功を奏した。
他にも、
ギオが香水の匂いが苦手ときけば、
公爵夫人のお母様に社交界の新たな流行として香水を使わないスタイルを広めてもらい、
1人が好きだときけば、
王族や他国の要人しか入れない別荘地を
ケッセル公爵家の領内につくり、
[ 我が領地にお越しの際はぜひ ]と予め案内を送って存在を認識してもらったり、と
コツコツと全身全霊の根回しを重ねた結果、
なんとギオの留学先はロシュフォールに決まった。
そして、それと同時に進めていたのが、
同性愛を受け入れる世の中を造ること。
元々、法律では結婚も認められているものの、
実際に同性同士の恋人や夫婦は中々みられない
というのも、この小説の世界、
攻略対象の中のひとりに同性愛者ゲールがおり、
ゲールが異性なのにヒロインを好きになるルートや
ヒロインが振られ、他の男性と結婚するルートなどが存在するおかげか、この世界の王侯貴族の血をひく男性は子を産むことも可能なのだ。
しかし、庶民間ではそうはいかない為、
あまりこの事実は広まっておらず、
貴族達の中での暗黙の了解のようになっている。
これを打開し、BLウェルカム!な世界を造るために、
王子と貴族令息のBL小説・絵本・劇を信頼できる作家につくらせ、数多の記者に広めさせた
ご令嬢たちにも無邪気に布教し、
娘が腐女子になったことで、貴族のご両親もBLに対して少し寛容になったりと、公爵令嬢ならではの悪知恵も働かせた
男性からも一目置かれる美人なイケメン侯爵にコンタクトをとり、家に認めてもらえない彼の恋人との結婚をケッセル公爵家の権力をもって後押ししたりもした
シェイク○ピアの名作のような切ない恋物語を
ハッピーエンドに塗り替えた運命の恋ーー
といった感じで社交界の注目を欲しいままにしてもらい、(公爵家の力をつかって広めた)
男性陣にも同性愛に目覚めるきっかけを与えたりと…
この世界をBL世界に変えるために
ありとあらゆる手を尽くした
ギオとアイメリックがお互いに惚れるかもしれない、
惚れてもいいんだと思えるきっかけ作りを全身全霊で行った。
そしてロシュフォールに留学にきたギオとアイメリックを引き合わせ、ケッセル公爵領につくった例の別荘地を、まるで2人の秘密基地のような、心安く憩いの場として提供し、その仲を存分に深めてもらった。
別荘地の中にある2人がお気に入りの図書室には、
これでもか…!ってほどBL関連の本を置き、
置く本にもこだわった。
『幼馴染のことが愛おしくて監禁したいっ』
『ヤンデレな幼馴染が可愛くて仕方ない件』
『隣国の皇帝が、他国王子の俺を妃にしようとしてる…!〜 国のしきたりなんて俺様が変えてやる〜』
『恋をするのは異性だとは限らない。』
こんな感じの本をやたら並べておいた。
例のイケメン侯爵を別荘地に招き、
夫とのデートをギオとアイメリックに見せつけてもらったり、2人がお忍びで城下に出ようものなら、
エキストラとして雇った皆さんに幸せそうな同性愛カップルを演じてもらって、2人に同性愛の思想を植え付けたりもした。
人は、本人から聞いた話よりも、
第三者から聞いた噂話のほうをより信用するという
心理学を学んでからは、
ギオとアイメリック双方に、
互いの良いところや素敵な言動を告げ口しまくった。
転生ヒロインが2人に近づこうとしようものなら、
公爵家の権力を振りかざしてせき止めたし、
女というものが、いかに殿方の前で取り繕っているかなど、少し誇張してギオとアイメリックに言い聞かせた。
肝心の王様・王妃様に関しても、
ギオとアイメリックが結婚しちゃって国統合するのめっちゃ良くないですか?というような話を無邪気な少女のふりをしてさりげなく伝えて、
そんな形もありか…と一瞬でもよぎらせるなど、
ありとあらゆることをやり尽くした。