自宅警備員から戦闘員へ
教官1は夏海達を引き連れ、校舎に入る。
ここはまさに学校だった。
ただし、窓には鉄格子があり、夏海達の首には鋼鉄のチョーカーがある。
「ここまで大人しくついて来たな」
教官1は笑みを浮かべて言う。
確かに、すでに手錠は無いから、暴れるも逃げ出すも出来そうだ。だが、正直、ここが何処で、何をされるかもわからない場所で、誰も無謀な事はしないだろう。
「あの⋯さっき、戦争って」
金髪の少女が質問をした。誰もが思ってたことだ。
「なるほど⋯450は良い質問だ。だが、ここでは質問が許可された時だけ、許される。それ以外は全て了解または短くりょだ。だからお前に罰を与える。本当はここに来るまでにバカが手本を見せてくれると思ったがな」
教官1は手にしたリモコンを動かす。
刹那、450が首を両手で押さえながら、倒れ込む。
「そのチョーカーは首を絞める機能がある。遠隔操作も可能だが、許可なく敷地外に出たり、強引に外そうとしてもだ。因みにこのリモコンを奪っても外せないからな」
教官1がリモコンを操作すると苦しんでいた450が息を吹き返す。相当に苦しかったのだろう。目を真っ赤にしている。
「この野郎。人が大人しくしてりゃ」
450は今にも飛び掛かりそうな形相だった。
「良い面だ。さすがだな」
教官1は笑みを浮かべる。その姿に450は更に怒りを強くする。
「特別だ。掛かってこい。ガキ」
教官1の言葉に450は我を忘れて飛び掛かる。
格闘技経験があるのか。喧嘩慣れしてるのか。450の動きは鋭かった。誰もが一撃は入ったと思った。
だが、教官1は笑いながら、彼女の一撃の前に彼女を蹴り飛ばした。
軽々と吹き飛ぶ450。
「遅いな。お前、戦場だと、死んでるぞ?」
倒れた450に対して、教官1は笑いながらリモコンのスイッチを押す。
すると450は悶絶した。
「さて・・・お前らは我々の指示に従わないといけない。まぁ、社会に迎合せず、お荷物になっていた奴らを社会に貢献させてやろうと言うのだ。感謝して貰いたい。その為にはまず、その鈍り切った身体を鍛え直し、使えるようにしないといけない。これから半年でお前らの体を使えるようにしてやる。ダメなら、死んでもらう。ゴミは不要だからな」
死んでもらう。その言葉は冗談じゃないと誰もが感じた。
450が席に着き、ここの説明が始まった。
「ここは国立女子防衛高等学校。高等学校とある通り、高校ではある。便宜上、お前らを教育するあ為に設立された学校となってるからな。だから、普段はちゃんと高校の勉強もして貰う。点数が足りないとかは認めない。馬鹿は馬鹿で足手まといだからな。それ以外は筋トレか戦闘訓練。お前らを立派な戦闘員に育ててやる。まずは3年間。女子高生と戦闘員を両立して、成果を残せたヤツは卒業として、社会に送り出してやる。それ以外は留年か・・・死だけだ」
誰もが暗い気持ちになった。そして、先ほどの事があるから、下手に質問も出来ない。ただ、聞くだけしか出来ない。
「ふむ・・・暗いなぁ。じゃあ、質問を許可する。誰か質問をしたいヤツは?」
夏美は少し気になった事があり、手を挙げる。
「451か。何だ」
「あの・・・戦闘員とは何をするんですか?自衛隊みたいな事ですか?」
「良い質問だ。自衛隊では出来ない事をやらせる」
「自衛隊では出来ない事?」
「そうだ。自衛隊や警察は知っての通り、人を殺す事は前提としてない。自衛隊は戦争が始まれば、戦うだろうが、今の日本において、戦争は最終局面でしかない。つまり、ほとんど、無い。あるとしても平和維持活動などでの突発的な事態ぐらい。率先して、人を殺さないわけだ。警察だって同じだ。しかし、こんな日本においても平和だと思われている現状の蓋を開いてみると意外とドロドロしているもんでね。その中には結構、荒事が必要な場合もあるんだよ。これまでは自衛隊や警察の極一部が裏でやっていたが、人材不足や色々厄介事があってね。そこである程度、ある程度自由の利く人材を一から育てて、運用しようとしたのが、今回の制度だ」
「本当に人殺しをさせるんですか?」
「そうだ。日の目を見る事は無いが、国益の為に働ける」
「殺されたら・・・」
「言っただろ?死んだら・・・そこで終わりだ。仲間が減れば、残ったヤツのリスクが上がる。それだけの事だよ。我々からすれば、お前らは使い捨ての駒だからな」
「そんな・・・」
教官1の屈託の無い笑みでの会話は底知れぬ恐ろしさを感じた。
そして、明日からのカリキュラムが発表される。
午前6時起床。
午前6時30分から10キロランニング。
午前7時に朝ごはん
午前7時半から体操と筋トレ
午前8時半ホームルーム
午前9時から午後4時まで従業
午後4時から戦闘訓練
午後7時晩御飯
午後8時風呂
午後8時30分自習
午後10時睡眠
考えようによっては運動部の女子高生みたいな感じだが、社会不適合者の集まりにおいては地獄のようなメニューだった。
夏美はこのメニューを脱落せずにやり切れる自信など微塵も無かった。