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076 貧民区2

 マフィアからの誤解を解くために、ノエルたちと合流して彼らのアジトの一つへと向かう。

 

「悪いな。話の流れでノエルたちまで一緒に来てもらって」

「仕方ないだろう。例の不審者がまさかマフィアに手を出していたとはな。余程のことが無い限りは奴らに協力する姿勢は見せておいた方が良い」


 マフィアの仲間が襲われたのは3日前とのことで、俺達には一応冒険者の依頼を受けていたというアリバイがある。

 その事実確認をしている間、俺達はマフィアの監視下に置かれるというわけだ。

 ただ待っているのも時間の無駄なので、襲われたというマフィアの仲間と話をさせてもらうことになった。俺達もその不審人物のことは探しているわけだしな。


 最悪、そのマフィアを襲ったという不審者が学園から失踪した生徒だという可能性もある。

 それも含めて情報は集めておきたいのだ。


 カットラス男に連れられて来たのは寂れた酒場だった。

 鬼人達が店に入ってきたことで中にいた客たちが一斉に身構えるが、カットラス男が目くばせするとすぐに元の位置に戻った。

 そのままカットラス男は店の奥にある扉へと進んでいく。

 奥の部屋に入ると怪我をした男たちが身体を休めていた。


「なんだテメエら」

「落ち着け。少し話をするために連れてきただけだ」


 部屋に入ってきた俺たちを見て色めき立つ怪我人たちをカットラス男が諌める。


「ここにいる怪我人が?」

「ああ、例の不審者に襲われた連中だ」


 怪我人たちはなだめられてもなおこちらを訝しげに見ている。

 見た限り対した傷は負っていないように見えるが、襲われた後でよそ者の存在に過敏になっているんだろう。


「あんた達を襲ったっていう人物について聞きたいことがあるんだが」

「なんだ、こいつら衛兵なのか?」

「いや、昨日から貧民区で人探しをしてるらしい。お前らを襲った奴が探し人かもしれねえんだとよ。どのみちこいつらの素性も確認しておく必要があるから、一旦ここに招待して互いに話を聞くことにしたんだよ」

「まあ、ガイウスがそう言うなら良いけどよ」


 カットラス男はガイウスという名前らしい。

 ガイウスがうっかり名前を口走った怪我人に眉をひそめる。


「それで、何が聞きたいんだ」


 怪我人の男が改めて聞き返してくる。


「襲ってきた不審者ってのはどんな奴だったんだ?」

「どんな、つってもなあ。ローブ姿で目深にフードを被っていたせいで殆ど顔も見えなかったしな。いきなり目の前に現れたと思ったら、何も言わずに襲いかかってきやがって、このザマだ」

「その怪我、相手は剣か何かを使っていたのか?」


 怪我の様子を見る限りは斬り傷のようだ。

 気になるのは刃物で斬られたにしても、縦に横にと無差別な向きの傷跡だ。


「いや、ありゃあスキルだ。身体のあちこちから刃物を突き出してきやがった。予備動作もない上に、ローブを突き破ってくるから避けるのも難しい」

「なるほど……。確かに厄介そうだが、それにしてはみんな軽症で済んだようだが」

「俺らはな。あいつは俺らには見向きもしねえで新入りを襲いやがった。俺らの傷はなんとか新入りを逃がそうとして受けたもんだ。狙われてた新入りの方は傷も深くて、そっちで寝かせてるが長くは持ちそうもねえ」


 どうやら直接狙われたのはその新入りの方らしい。

 明らかに1人を狙っていたとなると、怨恨か何かだろうか。

 マフィアを襲った人物はローブに身を包んで顔もろくに見えなかったらしい。しかし直接狙われた新入りの方なら斬り付けられたときに顔くらいは見ているかもしれない。


「その新入りさんとは話せないのか」

「話を聞くなら好きにしろ。まあ話せるならだがな」


 ガイウスに尋ねるとぶっきらぼうに答える。

 どうやら話ができないほどの深手を負っているらしい。ダメ元でも一応会ってみるだけはしておきたい。正直それくらいしか今はできることがないからな。


 その新入は部屋の隅で寝かされていた。

 よほど重症なのなのか弱々しい呼吸を漏らして、体中を包帯で巻かれている。

 その包帯も全体的に血が染み込んでいて、それが黒く固まりかけている。さらにその固まった血の隙間から、まだ流動性のある赤黒い液体が滲み出ている。


 声を掛けるために近づくと、ねっとりとした鉄臭さが強くなりその悲惨な傷の生々しさを叩きつける。

 3分の1ほどを包帯に隠された顔には苦痛に歪んでいる。よく見ればまだ少し幼さが残っているようにも見える。


「あれ、この人って……」


 恐る恐る後ろから様子を見に来た三嶋が戸惑うように零す。

 その様子に嫌な胸騒ぎしながらも聞き返す。


「もしかして、知ってるのか?」

「たぶんなんですけど……。野津先輩に似てるような……」


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