075 貧民区1
思わぬ由良先生との再会、その翌日も俺達は貧民区での捜索を続けている。
貧民区での聞き取りの結果、人を探しをしているという不審人物の目撃情報が何件かあった。
それも目撃された人物の見た目はバラバラで何人かいるらしい。そのうちの1人は由良先生だったとして、他に目撃されたのは生徒の誰かかもしれない。
捜索は三嶋と矢早銀に加えて、ノエル、ヴォルフガング、エリアーヌの鬼人族3人が手伝ってくれている。
昨日は俺とノエル、残りの四人で組んで二手に分かれて捜索したが、今日は俺、三嶋、矢早銀の3人で貧民区を捜索している。
ノエルたちは少し離れたところに隠れて周囲を警戒しているはずだ。
「先生。これって僕たちが囮ってことですよね」
「まあ、そうなるな」
俺達は今日、ただ昨日と同じように捜索しているわけではない。とある人物たちからの接触を待っているのだ。
とある人物というのは、この貧民街を取り仕切っている集団――簡単に言うとマフィアだ。
なぜわざわざそんな危険な連中を待っているかというと、ノエルたちからの助言に従ってのことだ。
この先も貧民区を含めてこの街中で生徒を探し続けるなら、いずれはマフィアとも関わることになるだろうと。
自分たちが取り仕切ってる街でよそ者が何かを嗅ぎ回っていれば、マフィアも良い気はしないし敵対勢力なんかと勘違いされるかもしれない。
実際はただ居なくなった子どもを探しているのに過ぎないのだが、相手がどう判断するかは分からない。
なので下手に勘ぐられるくらいなら早めにマフィアと接触しておいて、無害であることを見せておいた方が良いとのことだ。
可能ならば相互利益を提示してなにか情報を得られれば助かるが、立場上裏社会の人間と勝手に取引するわけにもいかない。
マフィアとの接触だが、当然こちらからこんにちはとアジトを訪ねるわけにはいかない。場所もしらないしな。
そこで相手の方から接触してくるのを待っているのだ。
先の通り、俺たちよそ者が何かを探し回っていればそのうち向こうから接触してくるだろう。
多少危険な賭けでもあるが、ノエルたちが少し離れたところで警戒してくれている。
ちなみに俺と生徒たちが囮役なのは鬼人達では警戒されてしまうからだ。
ヴォルフガングとエリアーヌは身体も大きく下手にちょっかいを掛けられない雰囲気だし、ノエルは昨日ちょっかいをかけてきた人物を鉈の一振りで黙らせたという噂がこのあたりで広まっているようなのだ。
「いやそのことなんですけど……。矢早銀さんがいても警戒されるんじゃ」
「なんでだ? もしかして昨日何かあったのか?」
「昨日、聞き込みしているときに少し離れた建物の二階から私たちの様子を見てる人がいたのよ」
「だからっていきなり弓矢を放つことないと思うんだけど」
「おいおい。まさか――」
「言っとくけどちゃんと外したわよ」
「一応護身用に持っていた弓でいきなり説明もなしに射るもんだから、こっちは気が気じゃなかったけどね」
さすがに射抜くことはしなかったという。不審人物とはいえ直接何かをされたわけじゃないので、さすがの矢早銀も加減したらしい。
不審人物に気づいたのは矢早銀だけだったようだ。状況もわからないままに矢を放たれた三嶋やヴォルフガングたちも焦ったことだろうに。
「それで警戒されてるかもってことか」
「離れたところで様子を見てたのに、いきなり攻撃されたわけですしね」
「でも昨日の人物がこのあたりを牛耳っているマフィアの仲間とは限らないでしょ」
「それはそうだけど……」
三嶋の言わんとすることも分かるが、結局そんな心配は必要なかった。
数人の男たちが少し距離を取って俺たちを取り囲んで立っている。全員がこちらの動きを警戒するように様子を窺い、武器に手をかけている者までいる。
そのうちの一人が海賊が持ってそうなカットラスをチラつかせながら一歩前に出る。
「お前らがうちの若いもんに傷を負わせやがった、最近この辺を嗅ぎ回ってるやつだな」
いきなり盛大に人違いされている気がする。
この辺りを嗅ぎまわっているというのは、おそらくは俺たちが探している人物のことだろう。
しかしマフィアの仲間に手を出したという新情報が加わってくると、それが生徒ではないことを祈りたくなる。
「俺達は確かに人探しをしているが、この辺りに来たのは昨日からだ。あんたらの身内に手も出していない、と思う」
できるだけ刺激しないように落ち着いて答える。
昨日ちょっかいをかけてきた連中をノエルが蹴散らしてはいるので、知らずに手を出していたら申し訳ない。
「あ? 歯切れの悪い答え方しやがって。お前ら鬼人族ともつるんでたんだろうが。そいつらはどうした」
「今日はちょっと別行動でな。近くにはいるはずだが」
一応牽制するためにも付け加えておく。
答えた瞬間、男たちがきょろきょろとあたりを警戒するが、そう見えるところには隠れていないと思う。
「何を企んでいる?」
「企んでいるというか、本当に人を探しているだけなんだ。鬼人族にはちょっと縁があって手伝ってもらってるが。この辺りを探すとなると少しくらい用心も必要だろ」
俺の話に多少納得はしているようだが、完全に疑いを晴らすまでには至らない。
「ちなみに、あんたらの仲間が襲われたのはいつ頃なんだ?」
「3日前の昼頃だ」
「それなら俺たちは貧民区に足を踏み入れてすらいない。ちょうど3日前なら冒険者の依頼も受けていたからそれは確認してもらえれば証明できるだろう」
受けていた依頼はおなじみのエダキリムシ(今回は普通サイズだった)の駆除だから、森での目撃情報はないだろうが。一応、死骸の処理手続きなどもしているので、貧民街でマフィアを襲う時間が無いことは分かるだろう。
カットラス男が近くにいたバンダナ男に指示を出すと、バンダナ男は冒険者組合のある方向へと走って行った。
「冒険者組合には確認させてもらう。それまでお前らには俺らについてきてもらおう。近くにいるという鬼人族も一緒にな」
「鬼人族もいっしょで良いのか?」
「妙な真似をする気なら俺らとの全面戦争になることを理解しておけよ。それに隠れてこそこそ狙われるのも落ち着かねえ。お前らが無実だというなら姿を出してもらうぞ。安心しろ、お前らが襲ってきた奴と無関係なら手を出すようなことはしねえさ」
ノエルたちは戦力としてはかなり高いと思うが、さすがにマフィアという組織相手では多勢に無勢と言うことだろう。そもそも争うつもりもないしな。
まずは疑いを晴らさなくては話が進まないし、ここは条件を飲むしかない。
あとは生徒の手がかりという意味では、マフィアを襲った人物と俺たちが無関係の方が良いのか悪いのか、なかなか頭が痛い問題だ。




