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幕間022 縫条正義の奴隷たち4

「護衛の件だが、他の面子は決まってるのか? さすがに俺一人ってわけにはいかないだろ。ユキもまだまだ実力不足だしな」


 セイギ様の護衛を任せられたイヴァンさんが尋ねます。

 私もセイギ様の付き人としてイヴァンさんに訓練を受けていますが、ようやく能力向上が形になってきた程度です。身体能力は種族的に低くはないつもりですが、戦闘となると冒険者の鉄級にも及びません。


「それがまだ決まってなくてな。旦那の立場上、下手に外部の奴を雇うこともできないからな。基本は旦那の奴隷の中から見出せれば良いだが……」

「そうは言うであるがな。せっかく自分の能力に気づけたのなら、それを活かせる道に進ませてやりたいのである」


 セイギ様が見出した奴隷たちのスキルは、すべてが戦闘向きと言うわけではありません。

 フゴさんのように診療所向きの能力もあれば、汚れた水を綺麗にするなんて限定的な能力もあります。

 セイギ様はそういった奴隷たちに対して、彼らが自分の能力を知ったことで目指してみたいと決めたことを尊重してくださります。

 護衛に向いた能力を持った奴隷というのは中々いるものではないのです。


「それなら、クレナが適任だろう」

「あの兎月族の女か。確かにあの相手の認識を偽装できるスキルは護衛に活かせるかもしれねえな」 

「ふむ。『幻想夢』であるか」

「あらぁ、私の話かなぁ?」


 蠱惑的な声を響かせてクレナさんがセイギ様の背中に寄りかかるようにして現れました。

 白桃色の髪に同じ色の垂れ下がったうさぎ耳、女性らしい曲線に流れるような仕草でセイギ様の背後から腕を回します。

 クレナさんは事あるごとにこうしてセイギ様に触れてくるのです。まったく困ったものです。

 それを引っぺがすのも私の恒例のお仕事になりました。


「ユキちゃんも相変わらずねぇ」

「そう思うなら揶揄うのを止めたらどうだ」

「嫌よ。この可愛い反応を見たいんだから」


 呆れ気味のイヴァンさんに、クレナさんが楽し気に笑みで返します。


 クレナさんのスキル『幻想夢』は幻覚を作るのではなく、相手の認識を誤魔化すものです。

 他の奴隷たちとは違って、クレナさんは最初から自分のスキルを正確に理解して使いこなしていました。そんなクレナさんが奴隷になっていたのには何か目的があったそうなのですが、それもセイギ様と出会ったことで方針を変えたのだそうです。なんだか色々と不思議な人です。


 初めて会ったときは私たちが醜いと思う姿に誤認識させていました。

 相手の目にどう映るかはその人の記憶に依存するので、クレナさん自身にもどう見えているかは正確にはわからないそうです。


「そういえば、ご主人様にはこのスキルを見抜かれていて、誤認はしていなかったのよね」

「ふむ。吾輩には忌避するような見た目という感覚がないであるからな。元の世界だとそもそも容姿による人の見分けなどつかなかったであるし。ちょっと変わったバニーガールにしか見えなかったであるな」


 セイギ様はたまによくわからないことを言います。

 それにしても、バニーガール……。なんだか魅惑的な響きです。


「ご主人様、そのバニーガールってなんなの?」

「吾輩の故郷にあった衣装のひとつである。特定の接客業で客をもてなすためのモノであるがな」

「へぇ、人種がわざわざ獣人の姿を真似るなんて酔狂な人もいるのね」


 セイギ様の故郷には変わった風習があるようです。

 国によっては獣人は差別対象だったりするのですが。王国でも奴隷にしても良いのは獣人だけとされているくらいなのです。

 

「まあその『幻想夢』は使えるとしても、荒事になったら対処できるのか?」


 奴隷商人が疑問を口にします。

 セイギ様やイヴァンさんのように『幻想夢』が通用しない場合もあるでしょう。護衛ならばそんな状況でも身を守る術が必要です。

 

「むしろそちらの方がクレナを護衛に推薦した理由だ」

「どういうことだ?」

「クレナの身のこなしや呼吸は堅気のそれではないからな。俺のような傭兵のものでもないが、あえて例えるなら暗殺者と呼ばれる連中の気配に似ている」


 イヴァンさんのその言葉に、一瞬その場の空気が止まったように感じました。

 しかしすぐにクレナさんがあっけらかんと返します。


「あら、やっぱりイヴァンの()()誤魔化せないわね。――と、ごめんなさいね」

「別に構わん。こちらこそ隠していたのなら悪かったな」


 お互い笑みを浮かべてはいますが、なんだか雰囲気が怖いです。


「ふむ。腕っ節も問題ないようであるな」

「おいおい旦那、暗殺者だぜ。そりゃ実力はそれなりにあるだろうけどよ、傍に置いていて大丈夫なのか?」

「無論である。吾輩に雇われる意思があって実力も伴うならな。それに実力はそれなり以上であるぞ」

「旦那が言うなら任せるが。――って、旦那、知ってたな?」

「暗殺であるか……、それもまた才能であるからな」

「……?」


 どうやらセイギ様はクレナさんが暗殺者であることに気づいていたようです。

 奴隷商人はまだ少し警戒しているようですが、セイギ様に迷いは無いようです。万が一、クレナさんがセイギ様を裏切るような考えを抱いても、私が心を読んでいれば気づけますしね。


「それじゃあ、私もご主人様の護衛ってことで良いのよね」

「ふむ。これから頼んだである」

「任せて、邪魔な連中は全員殺してあげるから♪」


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