幕間021 縫条正義の奴隷たち3
セイギ様の奴隷はいくつかの役割に分かれています。
フゴさんは診療室のお仕事が与えられていますし、マルク君は執事見習いになるそうです。そしてなんと私はセイギ様の側仕えとなりました。
私の仕事はセイギ様と行動を共にして、一緒に世界中のことをお勉強したり、一緒にお菓子を食べたり、お昼寝したり、たまに耳や尻尾をモフモフされるというモノです。
……えっと、これは本当にお仕事なのでしょうか? いえ、セイギ様がおっしゃることに間違いはありません。
他の奴隷のほとんどは奴隷商関係のお仕事を手伝っています。
みんな先の無い下級奴隷だったところから、きちんとした仕事を与えられ報酬までもらえる現状に夢のようだと喜んで働いています。
そして一部の奴隷には、さらに重要な仕事が任されています。
「つまり俺はセイギ様の護衛をすれば良いってことか?」
「まあ端的に言えばそうなるであるな」
「普通は奴隷商人にちょっかい掛けるような馬鹿はいないんだが、旦那の立場は色々複雑だからな。旦那自身の身体能力はアレだし、荒事を任せられる奴がいた方が良いだろう」
「なるほどな。しかしそれなら俺より適任がいるんじゃないのか? 俺はこの通り盲目の身だからな、そんな奴が傍にいても相手にナメられるだけだろ」
セイギ様と奴隷商人の言葉に魔猫族の男性――イヴァンさんが苦言を呈します。
イヴァンさんは元傭兵と言うだけあってその肉体はかなり鍛え上げられています。腕の太さなんて私の身体くらいあります。
その見上げるほどの姿はとても強そうですが、戦で負傷したという両目は布で覆われています。
「むしろそれで侮ってくれる相手ならこちらもやりやすい。それよりも吾輩たちを警戒して直接は手を出してこない相手の方が厄介であろうからな。そこでこそ猫耳さんの能力を活かしたてもらいたいのである」
「そういえば、イヴァンのスキル……『千里眼』だったか、どのくらい見えるんだ?」
「文字通りの千里と言うわけにはいかないが、
集中すればこの商店がある区画くらいは見渡せるようになった。ただし壁なんかの障害物があるとその先の精度が落ちるから、建物の中を正確に見ることは難しいがな」
イヴァンさんは視力こそ失っていますが『千里眼』というスキルで大体なことが見えているそうです。
見えるといっても目で見るような感じではなく、周囲の魔力に干渉することで周囲の状況を把握できるのだそうです。
それでも距離が遠くだったり何かに隔てられた向こう側は見えにくいそうです。セイギ様はそなー?のようなものだとおっしゃっていました。
「相手の背格好や武器なんかはどうだ? 襲ってきた相手を迎え撃つにしろ後で報告するにしろ、できるだけ把握できるに越したことはないだろ」
「そうだな、距離にもよるが目の前にいる相手なら本当の目で見るよりも把握できるな。相手の背格好や武器の形状はもちろんだが、そいつの筋肉の動きもある程度見えるから戦闘訓練でも役に立っている」
「ふむ。探索にも戦闘にも使えるとは猫耳さんは有能である」
「これもセイギ様のおかげだ。失った目の代わりに自分の周囲にあるモノの輪郭や動きが分かる程度だと思っていたが、ここまで広範囲に、詳しく感知できるスキルだったとは……」
自分のスキルがどういったものなのか、それを完全に把握できている人は少ないでしょう。
誰かが説明してくれるわけでもありませんし、発動方法すら運良く気づくしかないのです。
スキルを一度も発動出来ないまま一生を終えることだってある程です。
そんな中でそのスキルを実際に見なくても、本人が気付いていないところまでも、看破してしまうセイギ様のスキルはやはり凄いです。
「やっぱその能力なら旦那の護衛にはもってこいだな」
「そうであるな。もう一度たずねるが、猫耳さんに護衛を頼めるか?」
「わかった。俺の力を買ってくれるのなら精一杯応えよう。ーーところで、前から言おうかと思っていたんだが。その猫耳さんと言う呼び方はどうにかならないだろうか?」
「そんなに可愛らしい猫耳が付いているのであるか?」
「なぜそんなに不思議そうに聞き返されるのか分からないんだが。この耳は種族特徴だし、女性ならいざ知らず俺にその形容はないだろう」
「ふむ。では呼び方を直す代わりにその猫耳を一度触らせてもらうとしよう」
「何でそんな交換条件になるんだ? セイギ様、そんなにキラキラした目で俺の耳を触りたそうにしないでくれ。おい、なんでユキの嬢ちゃんまでそんな恨めしそうに見てくるんだ?」
「これもヤキモチって言うのかねえ」
「勘弁してくれ……」
結局、イヴァンさんが観念して猫耳をセイギ様に触らせることで呼び名を改めてもらっていました。
その後で私もセイギ様に撫でてもらったのは言うまでもありません。