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幕間020 縫条正義の奴隷たち2

 奴隷商店の二階を慌ただしく子狸たちが行き来しています。

 奴隷商店は一階に中級以下の奴隷たちの保管部屋と売り場があり、二階には上客用の応接室や上級奴隷の管理部屋があります。

 上級奴隷は高値で取引されることもあって、身なりはもちろん健康面や肉体の質を保つためにも生活は優遇されているのです。


 奴隷商人とセイギ様との取引で、そのエリアの数部屋をセイギ様やその奴隷が使うことになりました。

 その準備のために先ほどから荷物を抱えた子狸たちがあちこちへ走り回っているのです。

 元々の住人である上級奴隷の方々もその様子を興味深そうに窺っています。


「同じ奴隷とはいえ、先日まで下級奴隷だった者が手厚く迎えられていれば良い気はしないだろうと思ったのであるがな。今のところ嫌がらせの一つもなく案外穏便に済んでいるな(ナデナデ)」

「まあ今は俺やセイギの旦那もいるからな、下手な真似はしねえだろうよ。それにあの坊主がいい感じに面白がられたり可愛がられてるからな」

「うむ。確かにあの小動物のようにちょこちょこ走り回っている狸坊を見れば、気持ちはわかる(ナデナデ)」


 奴隷商人とセイギ様がそんな会話をしながら子狸たち――マルク君の様子を見守ります。

 マルク君はフゴさんに病気を治してもらった狸耳族の少年です。


 奴隷商人の話ではマルク君は魔力障害だったようです。

 魔力障害は体の中の魔力の流れが滞ることで、体のいろんなところに不調をきたしてどんどん弱っていってしまう病気です。

 魔力の流れが滞ることが原因なのでフゴさんの『治癒の光』によって魔力を活性化することで、滞っていた魔力の流れが正常になって元気になったのです。

 

 セイギ様はその病気のことを知っていたわけではありませんが、フゴさんのスキルの効果で体力が戻れば病にも打ち勝てるかもしれないと考えたのだそうです。病は気からだとセイギ様はおっしゃっていました。

 実際は病気そのものが治ってしまったのですが。意図せずとも奇跡のようなことを見せてくれるのがセイギ様なのです。


 そして元気になったマルク君ですが、目の前でせっせと荷物を運ぶ子狸たちが彼自身であるわけではありません。

 マルク君のスキルは『影法師』というモノで、なんと魔力で分身を作り出すことができるのです。

 今までは魔力障害のせいで上手く扱えなかったようですが、フゴさんに治療してもらい、セイギ様から『影法師』について教わってからずっとスキルの練習をしていました。

 子供の飲み込みは早いということなのでしょうか、自分が何をできるのかをはっきりと思い浮かべられることが良かったのか、マルク君のスキルは見る見るうちに上達していきました。


 『影法師』は魔力の量で作り出すことのできる分身の数や大きさも変わるようで、今は本人よりも少し小さいサイズの分身――たくさんの小さなマルク君が忙しくお手伝いをしています。

 あちらでマルク君がトコトコ荷物を運んでいると思えば、こちらで重い荷物を数人のマルク君がヨイショヨイショと危なげに運んでいます。周囲をよく見てみれば上級奴隷や奴隷商の従業員につかまって頭を撫でられたりお菓子をもらったりしているマルク君もいるようです。


「しかし小僧のスキルもたまげたもんだな。あの分身、使う魔力次第ではある程度の記憶を基にして意思があるように動かすこともできるんだろ。それにしても自由自在に動いてる気がするが……。こりゃあ軍事方面のやつらが欲しがりそうな驚異的なスキルだぜ」

「確かに、一人一狸坊が与えられれば戦で疲弊した心も回復させられるというものであるな(ナデナデ)」

「いや、そういう意味じゃないんだがな……。旦那、そろそろせっかくの労働力を一体抱きかかえて愛でてるのはやめようや」


 大変です。セイギ様が小さなマルク君を可愛がって放しません。

 そしてセイギ様に撫でられてご満悦そうなマルク君はちゃっかり本人です。

 マルク君、恐ろしい子です。


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