074 異世界と捜索3
結局騒ぎを聞きつけたヴォルフガングたちがやってきたことで、三嶋と矢早銀も由良先生に会うことになってしまった。
「あれ? 由良先生」
「……」
驚きはしたようだが、どちらかというと三嶋はいつもどおりだった。対して矢早銀の沈黙が何を表しているのかは言うまでもない。
「三嶋くんと矢早銀さん……。こんなところにいたのね」
由良先生の目がゆっくりと開かれ、声音がすこし剣呑に変わった。
「由良先生っ! 三嶋と矢早銀は学園に残っていたんですが。俺が生徒を探すのを手伝うためについてきてもらったんですよ」
由良先生のいる状況から二人のことを誤解していそうだったので慌てて口を挟む。
「えっ……。そうだったんですね。みんな勝手に出ていったんだと……」
三嶋と矢早銀が学園に残っていたことにも気づいていなかったようだ。
周りが見えていないというか何というか。
俺が言うのもなんだが、もっと生徒のことを考えるべきだろう。教師としても、大人としても。
「二人とも、先生を困らせたりはしてないのね?」
事情を知って最初に掛ける言葉がそれなのか。こういう人はどこまでもそうなのだろう。
さすがの三嶋も返答に困っている。あと矢早銀が冷めた視線で無言の圧力を俺に放ってくる。
「2人が手伝ってくれて助かってますよ。三嶋も矢早銀もしっかりしてますし、異世界だと一人では難しいこともありますからね」
「……そうですか」
最後のは少し皮肉だったのだが、由良先生は気のない返事をするだけだった。
生徒がどうこうに関心がないのだろう。いや、それだけの余裕がないのかもしれない。
本当に自分の目の前のことしか見えていないんだろう。
先ほどからずっと、鬼人たちが一緒にいることにも特に触れる気配がない。
「由良先生はこれからどうするんですか?」
多少距離を取るような聞き方になってしまったのは許してもらいたい。
正直今のこの人を三嶋や矢早銀と一緒にさせておきたいとは思えない。矢早銀の纏う空気も既に氷点下まで下がっているしな。
本来なら学園に連れ帰るべきなんだろうが、この街の捜索もまだ残っているのにその手間を取る余裕はない。
とはいえこの人に学園へ帰れといっても一人で帰ることも無いだろうがな。
「えっと、私は....…。やることがあるので、そろそろ行きますね」
「いやちょっと、やることって――、」
問いかける間もなく、言い終わるが早いかさっさと行ってしまった。
あまりにあまりな態度だったのでそれ以上追いかける気も起きない。
「行かせてしまってよかったのか?」
「うーん。良くはないんだろうけどな。正直あの人のことをどう対処して良いか分からなかった。一緒に行動するか学園へ返すべきなんだろうが……。悪い、上手く話を進められなかった」
「仕方ないですよ。正直僕もどう接して良いか分かりませんでしたし」
「どうせどこに居ても邪魔にしかならないでしょ。あの先生は」
「矢早銀さん、それはちょっと言い方が――、」
「なに?」
「何でもないです」
矢早銀の歯に衣着せぬ物言いを窘めようとした三嶋が静かな怒気に押し黙る。
一応は目上の人に対する態度としては注意すべきかもしれないが。矢早銀の気持ちもわかるので今回は大目に見るか。決して触らぬ神に祟りなし精神で口を挟まないのではない。
「オレらは部外者だから下手に口出しする気はねえんだが。あれでもナナエと同じ教師なのか?」
「随分と余裕がなさそうだったけれど。同じ立場の人間とは思えないわねぇ」
俺も一般的な教師と比べると少し違うのだろうと思うんだが。
鬼人の三人から見て、多少は評価できる姿を見せれているようで良かった。
担任の方が酷評されてる状態は全然良くないんだがな。
「それにしても、やることってなんなんでしょう」
「懺悔じゃないの」
「また矢早銀さんはそういう――ごめんごめん。そんな目で見ないでよ」
「まあ普通に他の生徒を探すってことじゃないのか」
そういえば貧民区で人探しをしていたという人物の一人は由良先生のことだったのだろう。
ただ目撃情報には由良先生の見た目とは違ったものもあった。
由良先生がこのあたりにいたのも何か情報を手に入れたからかもしれない。そのあたりを聞き出すべきだったな。
どちらにしても、もう少しこの貧民区を調べた方がよさそうだ。