007 異世界対策会議・前半
「ツイテイク。とは、どこにデスカ?」
トニー先生が不安そうに聞き返す。
「私とトニー先生で、あそこに見えるお城の主に面会を申し込みます」
「あ、あの城に行くんですか?」
思いもよらぬ宣言に、声を上げてしまった。
すでにわらわらと街から出てきた人間が学園を取り囲んでいる。全員が同じ鎧を着ている様子からこの街の兵士なのだろう。彼らもいきなりこの学園が現れたことに驚いているらしく、素人目にも隊列は崩れ不安や動揺が垣間見れる。
とはいえ相手は鎧で身を固め、剣や槍で武装した兵士が百人以上は集まっている。
そんな中へ交渉に向かうと言う。相手からしたら俺たちはいきなり現れた不審者で、学園から出た瞬間に攻撃されてもおかしくない。
それでも、すでに覚悟を決めたというように理事長に迷いはない。
「無論、我々の言語が通じるかもわかりません。その場合は身振り手振りで意思疎通する必要があります。その意味でもトニー先生が適役です。まあ、彼らが文化的であることを願うばかりですが」
「ブンカテキでないと、とてもすごく困るデスケド……」
「どちらにしてもこれは早いに越したことはありません。あちらもこの状況に即応は出来ていない様子。兵士を並べて警戒態勢を築き、今はまだ城内で会議でもしているなら、相手が態勢を整えるよりも早くこちらから行動して主導権を取らねばなりません」
トニー先生の不安をスルーして理事長は皆に言い聞かせる。
今は見知らぬ土地で見知らぬ兵士に囲まれている状況だ。時間が経てばそれだけ相手に余裕ができ状況は悪くなるかもしれない。
言葉が通じるとは限らないが、そこはトニー先生のコミュニケーション能力に賭けるしかないだろう。
「これからトニー先生と天地先生と、城主との面会について話し合ってからすぐにでもあちらに向かいます。トニー先生にはその異世界転移が描かれる物語から、天地先生には我々のいた世界の歴史から、面会で起こりうる状況を相談させていただきます」
「ハーイ。まあ王様にエッケンというのもオヤクソクですし。ちょっと怖いですけど。任せてクダサイ!」
「今はこれ以上この状況を知る術もありませんし。トニー先生と一緒にというのが少なからず不安ですが、しょうがありませんね」
不安を吹っ切るようにトニー先生が大きく応え、天地先生も相変わらずの神経質な声音でうなずく。
続いて理事長が俺や他の先生たちを見回して告げる。
「そして、仁科先生と佐藤先生には学園内にある薬品や燃料などの確認と確保をお願いします。寺田先生と周東先生には各クラスで待機している担任の先生方と生徒たちに、これから伝える方針について連絡していただきます」
「はい。わかりました」
「承知しました。理事長もお気をつけて」
「こちらは我々が上手くやっておきますよ」
「よし、がんばれ仁科先生」
「佐藤先生も頑張るんですよ」
佐藤先生と仁科先生で躱される軽口に、険しい顔をしていた理事長の口元が一瞬緩む。
そしてすぐに気持ちを切り替えるように一息吐き、皆の顔を見回して告げた。
「それでは早速、行動に移しましょう」