071 異世界と協力者
俺たちが異世界から来た漂流者であること、そして異世界に来てから起きたことのあらましをノエルたちに説明した。
学園に入ってきたという侵入者が原因なのかはわからずじまいだが、失踪した生徒たち。彼らを探し出して保護することが俺たちの目的だ。
「漂流者……。ナナエ達が、そうか……」
「おいおい漂流者ってと、まさか王国に現れたっていうあれか?」
「これは……、驚いたわね……」
俺たちが漂流者という事実はそれなりに衝撃的だったらしい。
いきなり知り合いから自分は異世界から来ただの聞かされれば無理はないが。それを法螺話だと聞き流せられないのがこの世界なのだ。
「しかしある意味では合点がいった。普段の言動もそうだがスキルや魔術があれだからな」
若干呆れたような口調に聞こえるが、褒め言葉と受け取っておこう。
「確かに複数人の漂流者が現れたとは聞いていたけれど、そんなに大勢だったのね」
「この間の雷小僧と嬢ちゃんもあんちゃんの生徒ってことか」
俺の生徒かと言われると微妙に違うのだが。彼らに非常勤講師だの受講しているいないだのを説明しても仕方ないだろう。
それに教師というより、大人として子供たちを保護していられなかったのが、説明していても不甲斐ない。
ただ、こちらの感覚ではそうなのだが。この世界の基準で言えば生徒たちも成人扱いなので、ノエルたちの反応は思いの外淡泊だった。
「それでその生徒探しを手伝えば良いんだな」
「ああ。この街も広いし単純に人出が欲しいってのもあるんだが、勝手もわからない世界であちこち探し回るのもな」
「そうね。この街は比較的治安は良い方だけれど、貧民区は何があるか分からないものね」
サウールの街は中心に貴族などの富裕層、外側に平民層の住人が生活している。
それらの区域は塀や柵で区切られているわけではないが、商店に並ぶ品物や価格帯もかなり異なるので基本的には住み分けされている。
そして街の北側の一画には貧民区と呼ばれるエリアがある。
貧民区と言ってもスラムのようになっているわけではなく、駆け出しの冒険者や低賃金労働者などの金銭的に貧しい人々が暮らしている。
悪の巣窟のような場所ではないにしろ、裏路地や人気のないところは相応に犯罪が起きやすいのは言わずもがなだ。ひったくりや強盗レベルなら平和大国の日本でも日常的に起きていたしな。
可能な限りは危ない場所には近づきたくないが、生徒がそこにいないとも限らないので捜索しないわけにもいかない。
「しかし手伝うのは良いが、オレ等はあんちゃんの生徒たちの顔は知らねえからな」
「ふむ。ミシマやヤサカネ達と同じくらいの年齢の人種を探すくらいだな」
正直生徒の顔は俺もあんまり知らない。とは言わないでおこう。
授業を受け持っていた生徒なら気づくかもしれないが、漂流者は瞳や髪の色、髪型も変わっているかもしれない。
俺は癖っ毛がサラサラになり長さも腰ぐらいまで伸びたし、三嶋は白髪に、矢早銀は淡い栗毛に変わっている。
「まあ基本的にはそれっぽい人物を根気よく確認していくしかないと思う。それに3人には腕っぷしの方で期待しているからな」
「ナナエに言われるのは微妙だな」
「何でだよ」
「ナナエの魔術なら、無法者が襲ってきてもすぐに吹っ飛ばせるだろ」
「いえちょっと待って。それだと街の一画が無くなりかねないわ」
「むむ。確かに……」
「そりゃあ仕方ねえな。まさか犯罪者を捕まえるために街を破壊するわけにはいかねえもんな」
「ナナエ。良からぬ輩がいたら私たちに任せてくれ」
好き勝手言っては納得して3人が胸を張る。
まあ、出会ったときのことや森での一件しか知らなければ仕方ないかもしれないが。俺だって多少は魔術の制御もできるようになってきたのだ。
そうして時折話を脱線させつつも捜索の方針は決まっていき、俺達は捜索に向かったのだった。