069 魔術とスキル3
スキル『生産者』の発動と共に、固有回路を魔力が循環する。
循環というくらいなので一方向に流れるはずなのだが、三嶋の固有回路は気づけば魔力の流れが変わっている。それもスキルを発動している間に幾度となく様変わりしているようだ。
三嶋の固有回路は迷路のように複雑な経路になっている。無数の枝分かれに、分かれたと思えばすぐに合流し、魔力が通る経路でさえコロコロと変わる。
「三島……。マジかお前」
「――えっ。僕、何かやっちゃいまいした?」
「工平。反省なさい」
「ごめんなs――、いやいや僕何もしてないよね!?」
「ミシマの固有回路に何かあったのか?」
「いやあ、三嶋がスキルを発動しているときの魔力の流れを見ていたんだが、固有回路自体も魔力の動きも複雑すぎてな。三嶋はよく制御できてるな」
ぱっとみたかぎりでは、魔力の流れが切り替わる法則性もわからない。
「いや制御というか……、特に意識したことがないですけど」
本人も把握していなかった。
まあスキルなんてそんなものかもしれない。通常回路と固有回路の知識すら一般魔術基礎・概論を読んでなければ知らないのが普通だ。
大体の人が感覚で使っていて。それでも基本的には問題にならないのがスキルと言うのものでもある。
「つまり僕って才能の塊だったってことですか?」
「スキルもある意味生まれながらに決まっている才能と言えなくはないから、その軽口も否定派できないんだよなあ」
「――ちっ」
「矢早銀さんはもっと僕に優しくしてくれても……」
「ナナエ。それほど他人の固有回路の状態を把握できるなら、まだわからないというヤサカネのスキルについても調べられるのではないか?」
「そうですよ先生。矢早銀さんの固有回路も調べて秘められたスキルも丸裸に――っぶへ?!」
「工平。なんか言い方がいやらしい」
「なんかって……。印象だけで武力行使までしないでよ……」
矢早銀がどんなスキルを持っているのかは未だにわかっていない。
この世界に生まれた者には誰もがスキルと言う不思議な能力を秘めている。多くの人が己のスキルを日々の生活や仕事に活かし、発現したスキルによってその先の人生も左右される。
それはノエルの件を見てもわかる通りだ。
スキルが発現しているかどうか、そしてその有用性がその人物の価値のバロメーターにもなりえる。
そんな世界で、自分のスキルが何なのか、どんなことができるのかを知ることの重要性は推して知るべしだ。
ノエルが言う通り、確かに固有回路の形や魔力の流れを調べることはできるかもしれない。
しかしながら、固有回路の全てが一つのスキルを発動しているわけではない。
例えば三嶋の『生産者』もざっくりと言えばモノ作りをするスキルだが、細かく見れば複数の事象を発現させてる。
素材を分解する。再構成する。魔力を物質化する。望む形に整形する。そら固有回路や魔力の流れが複雑になるわけだよな。
「矢早銀がスキルを発動していないと固有回路のどこにどう魔力が流れているか把握できないからな。それに仮に術式がわかったとしても、結局その術式で何が発動するかを知ってないと意味がないしな」
「それもそうか」
「うーん。『鑑定』みたいなスキルで相手のステータスや能力を見破るってのはお約束ですけどね」
「オヤクソク?」
「ああ、いやいや。えーっと、相手のスキルを見破るスキルとかないのかなって」
「ふむ。私は聞いたことはないが……」
ノエルはそういうスキルには覚えが無いようだ。
ゲームのようにステータスという概念はないだろうけど、理事長の『他人の素質を見極める』というスキルはそれに近いのかもしれない。
「固有回路は形として存在するものだし、相手を見るだけでそれを見ることができるスキルはあっても不思議じゃないよな。そこから術式を読み解けるぐらいの知識があれば、見ただけで相手のスキルを看破するなんて芸当もできるかもな」
「術式を読み解くなど、魔術師でもそうそうできる者はいないだろうがな」
「それこそ術式の意味まで理解できるようなスキルとかあればなあ」
「本当にあったらその人はすぐさま有名になってるでしょうけどね」
他人のスキルを見破るスキルか。
スキルは発現しなければ本人にもわからない。それを調べられるとなれば引く手あまただろう。
本当にいるなら矢早銀の言う通りカリスマ占い師も真っ青の知名度になるだろうし、そのうち俺たちの耳にも入ることだろう。
まあ、今はあるかどうかもわからないスキルのことを考えても仕方ないな。