066 縫条正義と奴隷商4
セイギ様が奴隷商人へと取引を持ちかけます。
「見てもらった通り吾輩なら奴隷商殿の直感を確実なものにできる。誰がどんなスキルを持っているのか、その人物の才能を知ることができれば奴隷商殿にとっても助けになるだろう」
「つまり旦那と組めば、見た目だけじゃわからねえ奴隷の価値を引き出して高値で売れるってことか?」
「それでも良いが、奴隷商売としてさらなる付加価値をつけられるやもしれぬ。直接価格に反映できなかったとしても、品質の保証がより確かになれば利用客の間でも噂になるであろう」
「噂ねえ……」
(確かに、奴隷の価値なんてものは買ってみなければわからないことも多い。それが事前情報と変わらない品質を保証できるのであれば、商売としての評価は上がってそれがさらなる客を呼んでくれる。直接価格に上乗せするよりも、同業者との差別化を図る方が将来的には得になるってことか)
奴隷商人がおとがいに手を当て、頭の中で算盤をはじきます。
「下級奴隷はどうする? 有用かどうか判断できるなら身なりを整えて中級奴隷として扱うこともできるかもしれんが」
「ふむ。ここにいる奴隷たちを見る限り義足や眼帯など、下級奴隷と判断される見た目ではあるのだろう。そういった大衆の偏見をすぐに大きく覆すのは難しい。であれば、それを知っている吾輩たちがうまく扱うのが良いだろう」
「自分の奴隷にするってことか」
「奴隷でも部下でも従業員でも、何でも良いがな。安く手に入れられて磨けば光るなら、下手に外部の人間を雇うよりも都合が良いであろう。こういう商売ならな特にな」
「なるほどな……」
どうやら下級奴隷の私たちはセイギ様の奴隷になったり、この奴隷商人の仕事を手伝うことになる様です。
それはわざわざ下級奴隷を欲しがるような人物に買われるよりも、よほど幸せなことかもしれません。
「それで取引とは、具体的にどうしたいんだ?」
「ふむ。吾輩なら奴隷の鑑定や管理を手伝えるかと思う。その代わり住む場所やら身元保証やら、この国で生活に必要なものが欲しい」
「なんだ旦那、不法移民かなんかなのか? 普通なら役人に目を付けられそうな奴とは関わりたくはないが、旦那は金を生みそうだからな。良いだろう、旦那の住む場所から生活基盤まで俺が何とかしてやるさ」
「取引成立であるな」
セイギ様が差し出した手を奴隷商人が取ります。
友好の証というよりはなんだか悪だくみの結託のように見えます。
「しかし相手のスキルを知ることができるとは。旦那のスキルはすげえな」
「いや、相手ありきのモノであるし吾輩自身がすごいわけではないのであるがな。今後それを活かせるのも奴隷商殿がいてこそである」
「おいおいそんな卑下するなよ。ここにいる奴隷だってどんなスキルを持っていたとしても、今回旦那と出会わなければ一般的な下級奴隷の末路しか待っていなかったんだ。結局、どんな優れたもんを持っていようがその価値を見出せるのは誰か相手がいてこそなんだよ。だから誇れるもんは誇れるときに誇っておけ」
「奴隷商殿は存外に良いことを言う」
「伊達にいろいろ経験しちゃいねえからな。そういや、その奴隷も何か特殊なスキルを持っているのか?」
急に私のスキルに話が向き、心臓が跳ね上がります。
セイギ様が相手のスキルを読み取れるのであれば、きっと私の相手の心の中を読むという忌み嫌われたスキルのことも知っているかもしれません。
最初に会ったときのセイギ様が興味深げに私を見つめていたのも、私のスキルに気づいていたからと思うと納得です。
「いや、ただ可愛い子がいたから買っただけだが?」
「奴隷商の俺が言うのもなんだが、改めて言葉にするとひどい字面の理由だな……」
惚けた風でもなく答えるセイギ様に奴隷商人が若干引いています。
今まで私に向けられることのなかった言葉はなんだかむず痒いです。
結局、セイギ様は私のスキルのことは何も口にしませんでした。
「正直、奴隷商殿に取引を持ち掛けたのも、いろんな種族を愛でられそうだからである」
「それは、愛玩用ってことか?」
「いや、目の保養的な意味でだ。耳や尻尾や肉球は是非とも触りたいがな」
「案外欲にまみれてるんだな旦那。まあ糞みたいな正義感じゃないだけマシか」
どこまでもまっすぐな瞳のセイギ様に、奴隷商人は少々呆れた様子です。
そんな二人のやり取りのためか、ここが下級奴隷の売り場とは思えない雰囲気が漂っています。
奴隷商人とセイギ様の出会いが私たち奴隷に何をもたらすのか、奴隷たちの表情にも期待と好奇心が浮かんでいました。