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064 縫条正義と奴隷商2


「ひとまずは10人、選ばせてもらおうか」

 

 セイギ様が地下室の小さな仕切りにそれぞれ分けられた奴隷たちをゆっくりと見て回ります。

 片足に棒切れのような義足をつけた猿人族のおじいさん、病気なのかひどく顔色の悪い狸耳の少年、両目を布で覆い隠した体の大きな魔猫族の男性、やせ細った女性は私と同じように左手がありません。

 セイギ様は少し止まっては興味深そうに眺めたかと思うと、迷いもなくその仕切りにいる奴隷を指名していきます。


 やがて私たちの前にはセイギ様の選んだ10人の奴隷が立ち並びました。

 みな不安そうにしながらも、少し変わった服装と言動をするセイギ様の様子を窺っています。


「まずは左端の二人からであるな」


 セイギ様が向かって左に並んでいる、義足のおじいさんと酷く体調の悪そうな子供の前に立ちます。


「奴隷商殿はこの二人をどう見るであるか?」

「そうだな。ジジイはもう歳で脚も悪い、餓鬼の方も弱りきっていて長くは持たねえだろ」

「ふむ。確かにこの子は病に侵されて弱り果てているようであるな。ではご老人、この子を治してもらおうか」

「おい旦那、何言ってんだ。そのジジイにそんなこと、できるわきゃあねえだろ」


 奴隷商人が嘲るように言い放ちます。

 当のおじいさんも戸惑うように返します。


「あんたには悪いが。ワシにはそんな大したことはできんよ」

「そうであるか? ご老人にはそういった能力に見覚えは全くないのであるか?」

「……。いや、確かにワシのスキルは『治癒の光』などと大層な呼び名ではあるがな。実際のところは、せいぜいが傷の治りを早くさせるくらいなんじゃ」

「ふむ。それはスキルと言うのか……」


 セイギ様がポツリと零した言葉に皆が不思議そうにします。

 しかしすぐにセイギ様は気を取り直して続けました。


「そのスキル、とやらを自分の意思で使えていたのなら問題ない。ご老人、どうせこのまま置いておいてもその子は衰弱する一方である。それなら試しにそのスキルを振るっても悪くなることはないのではないか?」

「それは、そうじゃが……。わかった、やるだけやってやろう。ただし、期待はしないでくれ」


 不承不承と言った形でおじいさんが狸耳の子に背中を向けるように言います。

 そして背に両手のひらをそっと当てると、ゆっくりと淡く白い光が放たれました。

 淡い光の中にいる二人を固唾をのんで見守っていると、しばらくして狸耳の子が戸惑うように声を上げました。


「……ん? あれ……、胸が苦しかったのが、少し楽になったような。身体も痛くないし怠さもなくなってきた」


 さすがに飛び跳ねるほど元気にはなっていませんが、先ほどまでの死にそうにも思えた顔色は幾分良くなって無邪気な笑顔がこぼれています。

 その結果に治療をしていたおじいさんの方が戸惑っているようです。


「これは……ワシが……?」

「おいおいマジかよ。ジジイ、テメェそんなスキルを持っていやがったのか」

「いや、ワシにも何がなんだか。多少傷の治りを早くすることはできたが、大きな傷や風邪すら治すことのできない殆ど使えないスキルだったんじゃ。そうでなければ……あの子の病だって……」


 言い訳をするおじいさんが、絞るように言葉を漏らして唇を噛みます。

 過去にだれか病気だった方と何かあったのでしょうか。


「ご老人のスキルについては後程説明するとしてだ、もう一つ二つ見せておこうか。その方が奴隷商殿への話もよく考えてもらえるだろうからな」

「話だと……?」


 奴隷商人の疑問には応えずに、セイギ様は次の奴隷の前へと進みます。

 猿人族のおじいさんと狸耳の子供の隣に並んでいるのは、目を布で覆った体の大きな魔猫族の男性です。


「さてと、奴隷商殿。次の猫耳さんはどういう人物であるか?」

「猫耳さんって……、まあ間違っちゃねえが。そいつは元傭兵なんだが、戦で両目をやられて盲目になりやがった。目が見えてりゃ上級奴隷として扱えたかもしれねえが、自慢の戦闘技術もその目じゃ十分に発揮できねえからな」

「ふむ。確かによく鍛えられているようであるな」


 奴隷商人の話を聞きながら、セイギ様は地下室の隅に置いてあった掃除用具を手に取ります。

 手に持った箒を逆さにして木製の柄を確かめるように軽く振るってから、魔猫族の男性の前へと戻ります。

 その箒で殴りかかって、元傭兵だという実力を試そうとでもしているのでしょうか。


「では今からこの箒で、猫耳さんの隣にいる女性を力一杯殴りつけようかと思う」


 いきなりの宣言に奴隷商人も奴隷の人たちも驚いた顔を見せます。

 セイギ様が箒の柄を差し向けたのは魔猫族の横に並んでいる、痩せぎすで片腕の無い女性です。


「奴隷商殿。吾輩はなにぶん暴力に慣れていなくてな、力加減ができないために行き過ぎて彼女を死なせてしまうかもしれないのだが。構わないであるか?」

「とりあえずどういうつもりかは聞かねえが。たとえ死んでも買い取ってくれるなら問題はねえ。死体の処理費用は上乗せさせてもらうがな」

「ふむ。それなら問題はないな。では、いざっ――」


 セイギ様が気合を込めて、振り上げた箒で勢いよく殴りかかります。

 その暴力行為に、私は思わず目を背けてしまいました。

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